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179.一方その頃、何も起きていない彼女たち

「ん……アムの枕……すごくいい匂いがする。梅の甘い香りに似てるかも……すごく好き……」

「……変態」

「あはっ♡ 聞く人が聞いたらそれ、罵倒にならないから気をつけたほうがいいよアム」

「そんなの気をつけたくないなぁ……」

 金曜日の午後十一時過ぎ。私は、親友の咲と一緒に自分の部屋に居た。

 咲が急に泊まりたいとか言うから本当に驚いた。ウチの人たちはみんな、基本テキトーに生きているから急なお泊まり宣言でも許してくれたけど。普通の家だったら迷惑極まりない行動だ。

「……ふぅ。堪能した堪能した……」

 咲は満足げにため息をつくと、ゆっくりと起き上がり、四つん這いで這いずりながら私の元へとやってきた。

 そして何故か後ろに周り、ゆっくりと両腕で私を抱きしめてくる。

「夜はここからが本番だよアム……どうする? しちゃう? 二人っきりでさ……乱れちゃう?」

「……何を?」

「ふふふ……セッ──」

「言わせないから」

 自信満々に変なことを言おうとする咲の口を私は、瞬時に振り返りペチっと右手で塞いだ。

「むううぅぅ……」

 不満げに唸り始める咲。彼女の口から出されるほんの少し湿った生暖かい吐息が、私の手のひらをくすぐる。

「ねえ咲……そういうエッチな娘アピール、もうしないんじゃなかったの?」

「むむむむむ!」

「あ、はいはい……」

 口を塞がれたまま話し続ける咲に私は思わずため息をつきながら、ゆっくりと手のひらを離す。

 すると咲は一度大きく息を吸って、吐いてから。私の目をじっと見つめてきた。

「私はね……本気でアムとしてみたいから言ってるんだよ? だって私、アムのこと大好きだもん」

「ふぇ!?」

 突然の告白に私は思わず変な声を出してしまう。それとほぼ同時に、咲は私の耳元に口を近づけ、はぁと小さく息を吹いた。

「ひゃう……っ!?」

 それがくすぐったくて、ほんの少し気もちよくて、またも私は変な声を出してしまった。

 頬に熱が帯び始めているのか、羞恥心で顔が真っ赤になっているのか、顔全体がとても熱い。胸もドキドキと高鳴り始めている。視線が落ち着かない、どこを見ていればいいのかがわからない。

「アムさえ良ければ私……いつでもいいよ? 攻めでも受けでも……いつでもいつまでも交わってあげる……二人で気持ちよくなろうよ……♡」

「ふぇ……だ、ダメ!」

 私は両手をギュッと握りながら、目をギュッと閉じながら、大きな声で叫んだ。

 それと同時に身体全体を動かし、私は急いで咲から距離を取る。

「わ、私にはあの人がいるんだから! 心に決めたあの人が! だから私はその人と……そう! あの人以外とはしないんだから!」

 と。私はビシッと人差し指で咲を差しながら、キッパリと言ってやる。

 私も咲は好きだ。可愛いし、変なところしか無いけど見た目は本当に良いし、魅力的ではある。だけどそれは友達としてだし、恋愛感情なんて一切無いし、咲はあったとしても私は一度も咲としてみたいなんて思っていないし。

 だから言ってやる。宣言してやる。何度も何度も咲には言ったはずだけど、改めて言ってあげる。私には好きな人がいて、その人以外とはエッチなんてしないって。

「……あはっ♡ 冗談だよアム。アムが一途なのは知ってるし……そう言うところがあるから私、アムのこと好きになったんだし♡」

 ニコニコニヤニヤしながら、咲は私を見ながらくすくすと、口元に手を当てながら小さく笑ってる。

(か……揶揄われた……!?)

 してやられた。そう思うと同時に、私の脳内にガーンと言う効果音が鳴り響いた。

 それと同時に沸々と湧き上がり始める。怒りが、ムカムカが、不満が。

「あーあーもうもう……ほっぺ膨らませちゃって、可愛いんだから♡」

 私の怒っていますアピールにも動じず、咲は再び四つん這いでこちらにやってきて、右手を挙げて私の頭をよしよしっと、やけに手慣れた手つきで撫でてきた。

(う……! 撫で撫で上手……!)

「よしよし……アムはいい子だね」

「……ふにゃ」

 思わず身を預けたくなってしまう撫で撫で。気持ちよくて、優しさを感じて、包容力を求めて、つい無意識に──

「……あ、あぶなー! 懐柔されるところだった……!」

 済んでのところで私は正気に戻り、急いで頭を勢いよく動かし、咲の手のひらを全力で払った。

「んー……あと少しだったのに……♡」

 と。咲は少し残念そうに、しかし悪戯っぽく笑みを浮かべながら、どこか悔しそうに指をパチンっと鳴らした。

 危なかった。あのまま咲に身を預けていたら、なんやかんやで、なんとなくそんな雰囲気で、咲とラブラブしてしまっていたかもしれなかった。

 そんなのダメ。いくら咲でもダメだ。だって私の身体はあの人のものだもん。あの人だけのものだもの。

「もうすぐ十二時か……じゃあアム、そろそろ寝よ♡」

「……夜這いしたりしない?」

「しないしない♡」

「したら友達やめるからね」

「えぇ……もぅ……信用ないなぁ」

「ある意味信用してるけどね……」

「……手を繋いで寝ちゃダメ?」

「恥ずかしいからダメ」

「……いじわるっ」

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