18.妄想暴走機関車
ピンク基調の可愛らしい部屋。甘い香りがほんの少し漂う部屋。なのに少し汚い部屋。主に床が。
そんな部屋で私、安藤リシアはそばにあったクッションを抱えながらその場に座り込んだ。
「それでサラちゃん……相談って?」
部屋をウロウロする部屋の主人、愛作サラちゃんに私は話しかける。
すると彼女はチラッと私を見てから、ベッドの上にちょこんと可愛らしく座った。
「えっとね……ほら、リシアお姉ちゃん覚えてるかな? そろそろお兄ちゃんの誕生日じゃん……?」
「エイジの……? あー……そうだね、確かに」
頬をほんの少しだけ赤く染めながら呟くサラちゃん。わたしはゆっくりと彼女の元へ向かい、隣に座る。
「もしかして誕生日プレゼントで悩んでる感じ?」
「うん……なんか今年はすごく悩んでね……」
そう言いながら、サラちゃんは近くにあったクマのぬいぐるみを手に取って、ぎゅっと抱きしめながらわたしを上目遣いで見てきた。
「ほら……お兄ちゃんに相談するわけにはいかないじゃん? パパとママは仕事で忙しいし……」
そう呟きながら、サラちゃんはゆっくりと私から顔を逸らし、クマのぬいぐるみに口を埋める。
普段、エイジの前で見せる生意気な側面が今の彼女には一切感じなくて、とても可愛いらしく見える。
私もこんな妹が欲しかった。思わず──心の中でだけど──ため息をついてから、私は彼女の頭を優しく撫でた。
「サラちゃんがくれるものなら何でもいいんじゃないかな? ああ見えてエイジ結構シスコンだよ? 私によくサラちゃんの話してくるし……」
「……なんか違うんだよね。確かにお兄ちゃん、最悪そこら辺に落ちていたうんこ渡しても喜んでくれそうだけど、そう言うのじゃないというか……。お兄ちゃんが喜んでくれて、私もそれを渡せてよかったって実感できる、そんなプレゼントをしたいんだよね……」
「流石に落ちてたものじゃ喜ばないと思うなぁ……」
私は軽くツッコミながら、うんうん唸り続ける彼女の頭を撫で、自分の顎に人差しを添える。
サラちゃんが言いたいことはわかる。何を渡しても喜んでくれるからこそ、選ぶプレゼントが難しいというのはとてもわかる。
エイジは貰ったものよりも、誰が渡したかを重視する傾向にある。小学生の頃、使いかけの消しゴムをあげたときにも笑顔で喜ばれた時はちょっと引いた。そこがいいところでもあるのだけど。
「ううんぅ……ん……うん? んん……」
頭から湯気を出しながら唸り続けるサラちゃん。
私は彼女をそっと抱きしめ、頭を撫でてあげた。
「ほらほら、せっかく私がいるんだから一人で悩まず考えず、声に出して口にして相談して?」
「……うん、リシアお姉ちゃん」
サラちゃんはクマのぬいぐるみを横に置き、私に甘えるように身を寄せ、変わらず上目遣いでこちらを見て、言った。
「パンツとブラ……どっちあげるのがいいのかなって悩んでるんだ」
「……んんんんん?」
「……あ! いや今のなし! えっとね! あのね!」
私の思考が止まる。正確には止まっていないけど、止まりそうになる。
「ほら! お兄ちゃん女の子っていうか! えっと! 緊急の時とか! どうしても必要な時に使うようていうか!」
(緊急……? 必要な時……? 男の子のエイジに……? パンツはともかく、ブラ? ブラ? ブラ?)
私は脳内にエイジを召喚した。
そのエイジを一旦裸にして、女性ものの下着を着けさせてみた。
全然似合わない。エイジの顔が中性的だからまだマシだけど、身体が男の子すぎて若干キモい。
いや、今の時代そういう考えはよくないのかも。
私が知らなかっただけで、エイジはそっちの方面に目覚めてしまったのかもしれない。
それを妹のサラちゃんが心配してみたいな──
私はサラちゃんを一瞥する。すると彼女は顔を真っ赤にしながら、手をあたふたさせ、私に向かって必死に口を動かしていた。
「あのね! ほら! えっとね! 使うんだよお兄ちゃん! この前は私のもの……ていうかその! あの! そういう意味じゃなくて! エッチな意味じゃなくてね! ちゃんと使うっていうか! 肌を守るためというか! クティラちゃんの身体っていうか! あ今のなし! そのね! えっとね!」
時折声が裏返ったりしていて、うまく聞き取れない。
聞き取れた部分を抜粋して、推測するならば──
エイジはこの前、サラちゃんの下着を使ってエッチな意味で使った──
「……はぅ」
私の頬に熱が帯びる。胸がドキンドキンと高鳴っている。
何? サラちゃんの下着を? エイジが? エッチな意味で? 使った?
それってつまり、それってつまり、それってつまり──
エイジがサラちゃんの下着をおかずに──
「ひゃ……」
脳内に思い浮かぶのは、ベッドの上でティッシュ箱を横に全裸になっているエイジ。サラちゃんの下着を鼻に押し付け、顔を真っ赤にしながら刹那げな表情をしながら、己の下腹部に生えている息子を必死に空いている手で──
もしくは、サラちゃんの下着を彼女に咥えさせ、舌なめずりをしながらサラちゃんを開脚させるエイジ──
「サラちゃん……ダメだよ!? 兄妹は流石にダメだよ!?」
私は思わずサラちゃんの肩を思いっきり掴み、彼女の身体を思いっきり揺らす。
「わあ!? 違う違う違う! リシアお姉ちゃん勘違いしてる! 勘違いしてるぅぅううう!」
「ダメったらダメ! 愛の形は人それぞれだとしても! 兄妹は流石に禁忌の領域だよ!?」
「へ!? ちょちょちょリシアお姉ちゃん!? 私とお兄ちゃんがそんな関係のわけないじゃん!?」
「誤魔化してもダメだよサラちゃん……! エイジにも言わないと!」
脳内が沸騰しそう。私の脳内ではついに、裸のエイジとサラちゃんが海辺で去り際のロマンティ──
「わあああああ!? エイジコラァァァアアア!!!」
「リシアお姉ちゃん待ってええええええ!!!」




