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173.存在しない正解を求めて悩みに悩む

 サティラの暴走を止めた後、僕たちはリビングのソファーに集まっていた。

 僕とリシアはそこに座り、クティラはふよふよと空に浮かび、サティラはリシアに膝枕をされている状態だ。

「……私は先に行っている。場所はエイジの部屋だ……待っている」

「……うん……わかった……」

 起きたばかりのサティラを優しく撫でて、クティラは小さな声でそう言うと、そのまま空に浮かんだままリビングを出ていく。

 それとほぼ同時に、サティラがあくびをしながら起き上がった。

 そしてもう一度あくびをしながら、彼女は全身を伸ばす。そして、彼女はチラリと僕を一瞥し、表情を崩しつつ潮らしい感じで俯いた。

「……あ……お兄ちゃんもいたんだ……ごめんねエイジお兄ちゃんリシアお姉ちゃん……迷惑かけちゃったね……ごめんなさい……」

 と。サティラは軽い感じで、寝起きが故か小さな声で、僕たちに謝りながらゆっくりと頭を下げた。

「いや……別にいいよ……誰も怪我しなかったしな……」

「気にしなくてもいーよーサティラちゃん。よしよし……」

 僕とリシアは彼女の謝罪を軽く受け入れつつ、彼女をフォローする。

 それで安心してくれたのか、サティラはほんの少し口角を上げながら、ゆっくりと顔を上げ、僕たちをそれぞれ一瞥して、小さくため息をついた。

「……そういえばお兄ちゃんリシアお姉さん……お姉ちゃんも呼んでたけど……サティラって……なんなの……?」

 と。まだ眠気があるのか、どこかほにゃほにゃした感じで、サティラは首を傾げた。

「あー……ほら、サティラちゃん……貴方って、サラちゃんとティアラちゃんが合体して出来た子だったよね……だからどっちで呼べばいいのか迷って……その……二人の名前を混ぜたの、それが私たちの呼んでいるサティラって名前なの」

「ベジタブルとキャロットが合体してベジロット……みたいな?」

「あ、うん……多分そんな感じ……うん……」

「……そうなんだ」

 自身の名前の由来を聞いて、サティラはどこか嬉しそうに笑みを浮かべながら、小さくため息をついた。

 そのまま彼女はパタパタと両足を動かし始め、ゆっくりと天井を見上げる。

「……お姉ちゃんと話をするなら……私一人の方がいいよね……リンブ……カレワ……ナレハ……イタンツ……」

 と、サティラが何やらぶつぶつ呟き始める。それと同時に、彼女の全身が光り始めた。

 ピンク色の光がサティラの全身から発せられる。思っていたよりも眩しく、目がチカチカと痛み始める。ので、僕はリシアに一歩遅れながらも、急いで両腕で目を守った。

 一際強く輝くと同時に、サティラから発せられていたピンク色の光は徐々に落ち着き、やがて消えた。僕はそれを確認すると同時に両腕を下ろし、視界を確保する。

 するとそこに居たのはサティラではなく、妹のサラと銀髪赤眼美少女のティアラちゃんだった。

 二人とも両目を瞑りながら、全身を力なさげにソファーに預けている。

「……制限時間が切れたのか?」

 僕は脳裏に浮かんだ疑問を思わず声に出し、首を傾げてしまった。

 僕とクティラの場合、完全一心同体状態が解除されるまで数日かかる場合が多い。クティラ曰く相性の良くない、あまりの質が良くない完全一心同体状態がだ。

 質の悪いものが数日保てるのに対して、果たしてそれよりも質の良いものがこんな短時間で解除されてしまうものなのだろうか。逆に考えて、質が良ければ良いほど制限時間が短い場合もあるが。

「なんかブツブツ言ってたし……解除する魔法でも唱えたんじゃないかな?」

 と。リシアが何故かサラの頭を撫でながら、僕に言った。

 確かに、ピンク色の光を発する直前、サティラは何かをブツブツ呟いていた。もしもあれが完全一心同体状態を解除する魔法ならば、今のこの状況も納得できる。

「……待てよ、解除できるのか? 自在に? 完全一心同体状態を?」

「ぴぇ? あー……そういえば、確かちょっと前にクティラちゃんに聞いた時、理屈と理論がわからないから無理だって言ってた気がする……じゃあ違うのかな? エイジの言う通り時間切れなのかな?」

「……そうか。クティラには無理って事なのか」

「……ぴぇ?」

 リシアの言葉を聞いて、僕は数時間前のクティラとの会話を思い出していた。


──サティラは私の上位互換。


 クティラは確かにそう言っていた。その言葉通り受け取るならば、クティラが出来ない事でもティアラちゃんが出来るのは何ら不思議ではない。

(そういえば今回の喧嘩……クティラがティアラちゃんに劣等感を抱いて、その嫌悪感を知られたくなくて必死に隠して、そこにティアラちゃんが怒って起きたんだったけ……まあ、他にも原因があるけど。主に僕に)

 改めて心配になってきた。素直に話す、しっかり伝える、とクティラは言っていたものの、彼女一人で本当に大丈夫なのだろうか。

 そんな簡単に人って変われるものなのかな。一応クティラは人間じゃなくて吸血鬼だけど。

「……んにゃ……ふにゃ……」

 と。僕が悩んでいると、猫みたいな鳴き声を発しながら、ゆっくりとティアラちゃんが目を開けた。

 彼女は口元に手を当て、ふわぁと一度あくびをすると、目を擦りながら辺りを見回し始める。

「……お姉ちゃんのところ行かなきゃ。エイジお兄ちゃん、リシアお姉さん、失礼します……」

 ティアラちゃんはそれだけ言うと、可愛らしくぴょんっとソファーから飛び降り、もう一度あくびをしてから歩き始める。

 そのまま彼女はこちらに振り返る事はなく、背を向けたままリビングを出て行き、僕の部屋へと向かっていった。

「……エイジ、どうする? 一応覗く? いつでもフォローできるように」

 と。リシアが首を傾げながら提案をしてきた。

 ので。僕は返事をする前に一度首を左右に振ってから、彼女の問いに答えた。

「いや……余計な事はしない方がいい思う……ぶっちゃけ今回ティアラちゃんが怒って暴れ出しちゃったのも、正直僕がやらかした面があるし……」

「うぐ……! それ言ったら私も……クティラちゃんに間違ったアドバイスしちゃったし……ぴぇ……ねえエイジ、私たち、何もしない方がいいんだね」

「ああ……」

 僕とリシアは同時にため息をつき、同時にゆっくりと俯いた。

 自分の愚かさに、ダメさ加減に、コミュ力の無さに、だらしなさに、恥ずかしさに、虚しさに、羞恥心に全身を犯されながら。恐らくリシアもそうだろう。

「人間関係って……すごく面倒くさくてすごく難しいね……エイジと私とサラちゃんって意外と奇跡的に仲良しなのかも……」

「……そうかもな。うん、多分きっとそうだ」

「……エイジ、これからも私と仲良くしてね」

「……こちらこそ」

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