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171.優しく抱きしめてあげたい

「さぁ行くよエイジ! クティラちゃん! しっかり捕まって!」

 と。ニコッと笑みを浮かべながらリシアはそう叫び、僕を両手で持ち上げ、お姫様抱っこをしてきた。

 頭を、お尻を、リシアの手が支えてくれている。凄い安心感を感じると同時に、男なのにお姫様抱っこをされている事実に羞恥心を覚える。

「エイジ。セーフティーバーは私が下ろした方がいいのか?」

 と。僕の腹の上に乗るクティラが僕の胸を枕にし、そのまま僕の両腕を掴み、シートベルトのように下ろして使ってきた。

 僕はそれに特にツッコむ事はなく、なすがままに腕を彼女に委ねる。

「あ……ズルい何それズルいよお兄ちゃん……リシアお姉さんにお姫様抱っこって……! ズルいズルいズルいズルい……! 私を差し置いてイチャつかないでよバカお兄ちゃんッ! 私も……混ぜてよ……!」

「エイジ、クティラちゃんを落とさないでね。私も……エイジを絶対に落としたりしないから」

 リシアがそう囁いた直後、サティラが怒鳴りながらこちらに手のひらを向けてきた。

 そこから発せられるのは極太ビーム。大きく速く凄まじい。それをリシアは、軽いステップで、最低限の動きで安易に避ける。

「バカバカバカバカバカ……! お兄ちゃんもお姉ちゃんもリシアお姉ちゃんもみんな大嫌い……!」

 目を見開きながら、それを血走らせながら、口を大きく開けながらサティラが叫び、僕たちに向け光線を放ち続ける。

 凄まじい量。常人では避けられない全方位攻撃。だがそれをリシアは、息を切らす事なく軽い調子で避けた。

 右から来たビームは左に避け、直後左にやってきたビームは主人に飛び上がり避け、次に空に浮かぶ自分を狙ってきたビームに対しては、空中で瞬時に身を捻り避けていく。

「エイジ……ちょっと、ぎゅっと捕まってて」

「……わかった」

 リシアの指示を受け、僕はクティラを片手でぎゅっと握りつつ、リシアにも片手で抱きつく。

 その直後、リシアは僕のお尻を支えていた手を離し、地面を滑るように移動する。

「……よし!」

 彼女の狙いは、目的は先程投げ捨てた得物の回収だった。無造作に捨て置かれた剣をリシアは、それに近づくとほぼ同時に瞬時に手を取り、片手で持ったまま構える。

「エイジ! 腰の辺りに足を絡めて! 落ちちゃうかもだから!」

「わ、わかった!」

 再び僕はリシアの指示通りに動く。少し恥ずかしいし申し訳ないけれど、躊躇していられるほど余裕はない。

 僕はすぐに右足左足を動かし、彼女の下腹部辺りに絡めるようにしてしがみつく。それと同時に、リシアは先程までよりも速く素早く動き始めた。

「どうして当たらないの……!? なんで……なんでなの!?」

 と。僕たちを睨みつけながら、血が出るほど強く唇を噛み締めながら、サティラがこちらに全ての指先を向けながら叫ぶ。

 それと同時に放たれる無数のビーム。それをリシアは、その場で一旦立ち止まり、持っている得物で瞬時に全てを切り捨てた。

「どうして当たらないのか……それはね……その理由はね……愛、だよ。サティラちゃん」

「愛……? 私だってお兄ちゃんの事好きだよ……? お姉ちゃんの事好きだよ……? 当然リシアお姉ちゃんの事も好き……愛が強さの理由ならば、当たるはずでしょ私の攻撃……ッ!」

「……そう、かな」

 変わらずやってくる無数の光線。視界に映るのはもはやそれだけ。数えることなど出来ないその光線たちを、リシアは避けたり薙ぎ払ったり切り刻んだりして、徐々にサティラに近づいていく。

「……来ないでよ! 避けてるなら来ないでよ! どうして私が近づこうとすると逃げるのに……私が嫌だって時には来るの!? ズルいよ……傲慢だよ……私もそうかもだけど……それでもお兄ちゃんたちは傲慢だよ……!」

「ティアラ……! 私は……私はお前を避けてなど……!」

「嘘つきッ! 嘘つき嘘つき嘘つき! 嘘つき嘘つき嘘つき……お姉ちゃん……嘘つきだよ嘘つき……ずっと嘘つき……私に嘘ついて……嘘ばっかり……嘘だらけで嘘しかなくて嘘ばかりで嘘しか聞けなくて……! 嘘つきッ!」

「ぐ……! 私は……お前に……ティアラに嘘をついた事など……先の一言を除いて無いぞ!」

「ついてるじゃん嘘……! それすらも嘘だよ……! 私のこと……好きなくせに……好きだったくせに……急に意地悪……急に意地悪……急に意地悪……! お姉ちゃんが言ったくせに……言葉にして素直に伝えないと相手には自分の気持ちを何も伝えられないって……! 私求めてたよね!? だから求めていたよね!? ずっと教えてって言ってたよね!? ずっとずっとずっとお姉ちゃん教えてって聞き続けたよね!? わからないからなんだよ!? そうやって聞き続けたのは……知りたくて知りたくて……知らない事がとても辛かったから知りたくて……なのにお姉ちゃんは答えてくれない……挙げ句の果てに嘘ついて私を騙そうと……! 大嫌い……大嫌い大嫌い大嫌い!」

「……ティアラ。それは……私が悪かった……」

「だからさっきからそう言ってるじゃん!!!」

 サティラが叫ぶたびに、僕たちを襲う光線の量が増えていく。

 それら全てをリシアは避けてくれているが、流石の彼女も息が切れ始めている。当然だ、人一人抱えながらあんな動きを数分間もしているのだから。

「あはは……思ったより辿り着けないや。ごめんねエイジ……サティラちゃん、やっぱり強いや」

 と。リシアが苦笑いをしながら言った。

 それを聞いた僕は思わず唇を噛み締めてしまう。女の子の幼馴染に頼りきってる自分のダメさ加減に、それに大人しく甘えてしまおうと考えている自分のダサさに怒りを感じて。

 リシア一人ならばきっと、とっくのとうにサティラの元に辿り着けているだろう。邪魔なのは僕だ。

 だったら僕が、リシアから離れれば──

「……リシア」

 僕は呼ぶ。僕を守ってくれている彼女の名を呼ぶ。

「……ん? どうしたのエイジ」

 リシアは少し首を傾げながら僕に問う。僕はそんな彼女の目を見ながら、固唾を飲んでから──

「僕を……僕たちを投げてくれ。思いっきり、サティラの元まで全力で」

「へ? なげ……へ? な、何を言ってるのエイジ……?」

「リシアなら多分……サティラの元まで僕を一瞬で投げる、なんて事が出来ると思うんだ。ちょっとずつ近づいてても……僕がリシアの負担になっている限り、リシアの体力が削られていってそのうちジリ貧で……」

「えー……でも投げるのはちょっと……途中でビームに当たったりしそうだし……」

「自分の身くらい自分で守るよ……でも、サティラに辿り着けるだけの力は僕にはない。だからそこだけ手伝ってくれれば後は僕が……」

「だから今、私が頑張ってエイジを連れて行こうとしてるんでしょ……? エイジ、私を信じてくれないの? 信頼して身を任せてくれないの?」

「信じているから……信頼してるからこそ、投げて欲しいんだ。それに……その……実力不足なのに言うのもなんだけど……流石に僕、リシアに頼りすぎと言うか……流石に男なのにお姫様抱っこで守られ続けるのは恥ずかしいというか……」

「でもエイジ、今は女の子だよ?」

「……それはそれじゃん」

「んー……ん、わかった。エイジがそこまで言うなら投げる、投げて一瞬でサティラちゃんの元まで辿り着かせてあげる」

「……ありがとうリシア」

 僕とリシアの会話が終わると同時に、僕たちのすぐ横を恐ろしく速い光線が通った。

 リシアはそれを避けると同時に、サティラから距離を取り、その場で地面を強く踏み締める。

「行くよエイジ……! そぉぉぉ……いッ!」

「うぐ……ッ!?」

 リシアの掛け声と共に、僕は物凄い勢いで空へと放り投げられた。

 風が、とても強い風が僕の全身を襲う。寒くも感じるし、熱くも感じて、どこか心地よさも感じる。

 背景が一瞬で通り過ぎていく。周りを飛ぶ光線がどんどん細くなっていくかのように見える。

「……やば!」

 と。突然、僕の目の前に太く大きいサティラの光線が現れた。

「エイジ! 肉のカーテンだ! 肉のカーテンなら防げる!」

「なんだよそれ!」

 クティラのわけわからん指摘を意識しつつも無視して、僕は瞬時に腕をクロスさせ、自分の身を守るような体勢になる。

 光線はすぐ目の前。ダメだ、避けられはしない。なんとか耐え切れるように祈るしか──

「エイジに当たりそうなビームは……全部私が切る!」

 直後、リシアの叫び声が聞こえたと同時に、僕の目の前にあった光線は真っ二つに切り裂かれ、道が開けた。

 僕は瞬時に下を見る。そこには当然、リシアが立っていた。両手に剣を持ちながら、サティラの放つ光線を切り刻んでいる。

「ありがとうリシア……!」

 守ってくれた彼女に礼を告げると同時に、僕の目の前に現れたのは──

「……ッ! お姉ちゃん……!」

 いつのまにか僕は、僕たちは、サティラの目の前まで辿り着いていた。

 それに気づいたサティラは、歯を食いしばりながら僕を睨みつけ、勢いよく人差し指を向ける。

 それと同時に、僕は地面に降り立った。その直後、サティラの指先から一筋の光が放たれる。

 僕はそれにギリギリ反応でき、瞬時に地面を蹴り避けた。そのまま勢い殺さず立ち上がり、再び向けられる人差し指の視線から己を逸らし──

「……サラ!」

 僕は少し屈みながら地面を蹴り、大切な妹の名を呼びながら両手を広げ、サティラへと突撃した。

「お兄ちゃ──」

 そのまま僕は出せる限りの全力を使い、サティラへと両手を使って思いっきり抱きついた。

 ぎゅっと、ぎゅっと、ぎゅっッッッッと。僕はサティラを抱きしめる。

「……ティアラ」

 と。これまで僕の肩に必死にしがみついていたクティラも立ち上がり、ゆっくりと僕の上を歩き、サティラの元へと辿り着くと、彼女は優しくサティラへと抱きついた。

「……すまなかった。バカなお姉ちゃんを許してくれ……ティアラ」

「……お姉ちゃん……お兄ちゃん……お姉ちゃん……」

 すると、サティラは小さな声で僕たちの名前を呟きながら、ゆっくりと腰を下ろし、地面へと尻を着く。

 そしてサティラは、僕にゆっくりと抱きついてきた。

「……お姉ちゃん……話してくれる……? ちゃんと話してくれる……? ティアラとお話ししてくれる……?」

「……うむ。もう隠し事は無しだ……ちゃんと話す。ティアラのために、私自身のために……な」

「……ありがとうお兄ちゃん……私……信じるからね……」

 それだけ呟くと、とても疲れていたのか、サティラはゆっくりと目を閉じて、力無さげに僕に全身を預けてきた。

 そんなサティラの頭を僕は、なんとなく撫でた。昔、よくサラにしていたように。

「落ち着いたみたいだね……よかったよかった。抱きつき作戦が成功して……」

 と。いつのまにか隣にいたリシアが、心底安心した顔で言う。

 そんな彼女の顔を見ながら、僕はゆっくりと頷き、改めて彼女に告げる。

「ありがとうリシア……本当に助かったよ」

「ん? えへへ……エイジとサラちゃんのためだからね。私、頑張っちゃった」

 とりあえずは一件落着だ。ちゃんと落着したはず。

 後はそう、残っている問題はティアラちゃんとクティラのギスギス問題だけだ。

「……そんな目で見るなエイジ。わかっている……ちゃんと素直に話すさ、ティアラとな」

「……頑張れよ、クティラ」

「……ふふ。任せておけ」

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