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169.撃ち抜くプラズマ

「大丈夫だったエイジ? 怪我してない? 無事? 平気? 無問題?」

「あ……ああ。ありがとう、リシア」

「私からもサンキューだっ。リシアお姉ちゃん」

 サティラの放った光線を避けた後、僕たちを抱えたままリシアがそう尋ねてきた。

 僕とクティラはそれに返事をしつつお礼を告げる。するとリシアはホッとした表情を見せ、ゆっくりと僕たちを地面に降ろした。

「どうして避けるのお姉ちゃんお兄ちゃん……私のビーム避けないでよ……やっぱり私の事嫌いなんじゃん……避けてるじゃん……ムカつく……」

 と。ぶつぶつと何かを呟きながら、サティラがゆっくりと動き始めた。

 全身をふらつかせながら、ずっと俯いたまま、彼女は立ち上がる。

「……お兄ちゃん大嫌いビーム」

 サティラが小さく何かを呟く。それと同時に、先ほどまでの動きが嘘かのように、目にも止まらぬ速さで彼女はこちらに人差し指を向けてきた。

「またか……!」

 その仕草で彼女が何をしようとしているのかを察し、僕はすぐにその場から離れる。リシアも同様、瞬時にその場から去った。

 直後。数秒前まで僕たちが立っていた場所を通りすぎるのは、予想通り彼女の放った光線。先ほど撃たれたビームに大きさは似ているが、微妙に色が違う。

「……ほらまた避けた。受け止めてよ私の気持ち、感じてよ私の想い。私がどれだけお姉ちゃんお兄ちゃんを好きなのか……全身で痛みと同時に味わってよ……」

 サティラは変わらず小さな声でぶつぶつと呟きながら、ゆっくりと動く全身に対し、こちらに向ける人差し指だけは速く動かしながら、僕たちに向けて光線を放ち続ける。

 当然僕たちはそれを避けるが、このままではイタチごっこが延々と続いてしまう。撃たれて避けての応酬。どうにか対策して事を進めなければならない。

「ムカつく……! どうして避けるの!? お姉ちゃんが悪いんじゃん……お姉ちゃんが悪いんじゃん! 罪に相応の罰が下るのは至極当然の事でしょ!? 大人しく諦めて受けてよ私の光線を!」

 と。サティラは急に顔を上げ、僕とクティラを睨みつけながら叫ぶ。直接向けられた怒りの声に、僕は思わずその場で動きを止めてしまう。

 それと同時に、彼女は十本の指全てで僕たちを差した。そして僕がそれを見て瞬きをした直後、目の前に現れたのは無数の光線。それしか見えないほどに大きく、逆にゆっくり見えてしまうほど勢いのある光線。

 僕はそれを認識した直後にその場から離れ、逃れようとする。だが動かない。違う、動いているのに間に合わない。

 まるで世界がスローモーションで動いているかのような感覚。ゆっくりと僕に迫る光線、確かに逃れようとしているのに、身体はしっかり動いているのに、想像通りの動きができていない。

「エイジ! 油断しちゃダメでしょ!」

 光線が僕に当たる直前、突然右隣から叫び声が聞こえてきた。

 それと同時にスローモーションが解除され、突然世界の動きが速くなる。そして目の前にあった光線の更に目の前に現れたのは、先ほどの叫び声の主は、僕の幼馴染であるリシアだった。

 彼女は両手に剣を携えながら、目にも止まらぬ素早い動きで光線から僕を守るように立ち、力強く地面を踏み締め剣を構え、勢いよくそれを振り、光線を両手の剣で切り裂く。

 その直後、彼女は剣を投げ捨て、空いた両手で僕を抱え、その場から瞬時に離れた。

 あまりにも動きが速すぎて、展開が速すぎて、正直ついて行けていない。唯一しっかり把握できていることは、リシアが僕を助けてくれたという事実だけ。

「あ、ありがとうリシア……」

「助かったぞリシアお姉ちゃん……」

「……クティラちゃんの言った通りだね。サティラちゃん、めちゃくちゃ強いよ……」

 息を切らしながら、サティラの方を見ながら、リシアが小さな声でそう呟く。

 リシアお墨付きの実力。そんな女の子を相手に、全然戦闘に慣れていない僕に出来ることなんてあるのだろうか。

 自分が情けなくなってくる。サティラと交戦が始まってから僕は守られてばかりいる。リシアが居なかったらとっくのとうにサティラの放つビームの餌食になっていただろう。

 本来ならば僕がリシアを守らなければいけないのに、現実は全くの逆だ。守られているだけ、甘えて油断して守られているだけだ。

「あー……あー……頭痛い……イライラして頭が痛いよ……ねえお兄ちゃん……妹のストレスの吐口になってよ……お兄ちゃん私のこと好きだよね……私は大好きだよ……お姉ちゃんのこと……だから甘えさせてよ……優しく撫でてよ……可愛いって言ってよ……ちゃんと話してよ……私を避ける理由……聞きたくないけど……聞きたくないけどさ……!」

 こめかみを右手で握りしめながら、サティラが僕を睨みつけ、小さな声で叫ぶ。

 僕を呼ぶ人称がお兄ちゃんだったりお姉ちゃんだったりするのは、サラとティアラ二人の感情がぐちゃぐちゃに混ざっているからだろうか。どの言葉がどちらの本音なんだろう。

「……っ」

 僕は歯を噛み締め、固唾を飲んで、腕を組みながら小さく俯く。

 そして、先ほどサティラが発した言葉を脳内で反復させる。今彼女が求めているもの、彼女がして欲しいことを察するために。

 いや、一々考えなくてもわかる。サティラは、というよりティアラちゃんは、クティラと本音で話し合いたいのだ、知りたいのだ。嘘偽りのない、誤魔化しのない、クティラの純度百な言葉を、気持ちを。

 ならば話し合いの場を設けなくてはならない。そのためにはやはり当初の予定通り、まずは暴走状態にあるサティラを落ち着かせなければ。

 それを成し遂げるために、戦力外の僕には一体全体何ができる?

(前にもリシアが似たような状況になっていたな…その時は確か──)

 と。僕は以前起きた似たような状況を思い返そうとして、すぐに辞めた。

 耳たぶに熱が帯び始めているのを感じる。だってあの時、あの時僕はリシアを落ち着かせるために彼女と──

「エイジ? 顔真っ赤だよ? 大丈夫?」

「へ!? あ! うん! 大丈夫だよリシア……!」

 と。僕自身が感じてた羞恥心から連なる赤面を側から指摘され、僕は思わず俯いてしまう。

「そう? ならいいけど……」

 そんな僕を見て、少し首を傾げつつも、どこか納得したようにリシアが呟く。よかった、変な誤解とかはされなかったみたいだ。

「あーもう! リシアお姉さん! お兄ちゃんとイチャイチャしないで! 今は私が! 私が主役! メイン! そして中心人物でしょー!?」

 と、突然サティラが叫び出し、勢いよく僕たちに向け手のひらを差し出してきた。

 直後、そこから放たれるのはピンク色の太く大きな光線。存外スピードは遅く、ゆっくりとそれはこちらにやってくる。

 それを見たリシアは、意外にも危機感を感じてはいないらしく、あまり表情を変えずに地面を強く踏み締め、光線を睨みつけ──

「……んっ!」

 と。掛け声と共に、僕の目では追えないほど素早く蹴りを放ち、サティラの撃った光線を空へと蹴り飛ばした。

「……は? リシアお姉ちゃん強すぎない……? リシアお姉さんってなんなの……? なんなの……? なにそれズルいよ……」

 目を見開きながら、驚いたような表情でリシアを見ながらサティラが呟く。

 それと同時に彼女は、今度は五本の指をリシアに向け、それぞれの指先から勢いよく光線を放った。

 放たれた光線は真っ直ぐにリシアへと向かっていく。だがリシアは特に反応は示さずに、真顔で人差し指一本を立て、己に向かってくる光線全てを軽い調子で弾いてしまった。

「……リシアってこんなに強かったのか」

「うむ……ちょっと強すぎるな」

「……お兄ちゃんが近くにいるから、だよね。なにそれ……相思相愛すぎない……ズルいよお姉ちゃん……私だってお兄ちゃんと一緒ならすごく強くなれるのに……!」

 と。サティラが何やらまた、ぶつぶつと呟き始めた。

 ぶつぶつと、ぶつぶつと。ギリギリ聞こえてる程度の声量でサティラは呟き続ける。

 すると彼女は、俯いていた顔をゆっくりとあげ、ほんの少しだけ口角を上げ笑顔を浮かべ、僕とリシアを見つめてきた。

 じっと。何も言わずに、どこも動かさず、彼女はずっと僕たちを見つめ続ける。

 そして、数秒ほど経つと──

「……むす。なんか私だけ仲間はずれみたいでやだ……」

 と。彼女は頬を可愛らしく膨らませながら、むすっとした顔で、確かに聞こえる声量でそう呟いた。

「……うむ、実にティアラらしいな」

「サラちゃんぽくもあるよ?」

「……せめてシリアスな雰囲気なのかそうじゃないのかくらいはさ、ハッキリさせてくれ……」

 微妙に緊張感のないやりとりに、僕は思わずため息をついてしまった。

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