168.銀髪赤眼美少女兄妹
「あ、エイジ。女の子になったんだね……なんか凄い久しぶりに見る気がする。銀髪赤眼美少女幼馴染……」
僕が目を開けると同時に、状況に対してやけに軽い調子で、いつの間にか隣に立っていたリシアが話しかけてきた。
とりあえず僕は視線を下に写し、自分の両手をグーパーさせながらそれを見る。いつもの手よりも少し小さく柔らかい印象を受ける手のひら。間違いない、僕は今確かに、銀髪赤眼美少女になっている。
男の時にはない胸の膨らみも見えてしまっているし、何より服装が全体的にヒラヒラとしていて落ち着かない。身体が変わるのは百歩譲るとしても、どうして服装までクティラの物に変わるのだろうか。
「……来るぞエイジ、リシアお姉ちゃん」
と。僕の肩の上にいつの間にか乗っていたクティラがそう呟く。それと同時に、僕たちの目の前にある光球が更に光量を上げ、輝き始めた。
眩しい。そう感じ、僕は思わず両腕で目を覆い、その輝きから守る態勢に入る。
数秒後。光球が落ち着いたのか消えたのか、僕たちを襲う激しすぎる光が徐々に収まっていった。ので、僕は両腕を降ろし視界を確保し、辺りを見まわし状況を確認し始める。
リシアはいつの間にか携えた剣を両腕に持ち、じっと真っ直ぐにソファーの方を見つめている。僕の肩の上に乗るクティラも同様に、神妙な顔つきで見つめている。
僕は固唾を飲んでから、ゆっくりと、されど急いで彼女たちの視線の先にあるものを確認した。
そこに居たのは、そこにあるソファーに座って居たのは、誰が見ても目を奪われてしまうほどに美しい、銀髪赤眼美少女だった。僕の例に倣えば彼女はきっと、僕の妹であるサラが変身した姿なのだろう。
細く長く輝く銀髪は、自ら光を発しているかのように美しい。こちらを気怠けに見つめる赤い瞳は大きく、宝石のように輝いている。端正な顔は、クティラにもティアラちゃんにもあまり似ていない。言うなれば、サラを更に可愛くしたかのような顔。
遠くから見てもシミ一つ、毛穴一つ目立たないとわかる綺麗な細い両腕。それは、彼女の太すぎず細すぎない太ももを片方だけ、下から支えている。まるで、体育座りをしているかのような姿勢。一見やる気なさげ、気怠けな印象を覚えるが、どこか淫靡さを感じさせる不思議な姿勢だ。
「……そういえばクティラ。ミニティアラちゃんはどこなんだ? どこにも居なくないか?」
僕は一旦、銀髪赤眼美少女を化したサラから目を離し、肩の上に佇むクティラの方を見て、彼女に問いかける。
僕とクティラの例に倣えば、ティアラちゃんは今、ミニティアラちゃんとなり、その辺にいるはずだ。だが、先ほど見渡した時にはそれらしき姿は見当たらなかった。
「……当然だ。二人の相性が良すぎたのだからな」
頬に一滴、冷や汗を滴らせながら、クティラが小さく呟く。
僕は彼女の言葉の意味がいまいちよくわからず、つい首を傾げてしまった。
そんな僕の仕草を見て、今度はクティラが首を傾げる。
「説明してなかったか? 私がミニクティラになるのはだな、私とエイジの相性がそんなに良くないからだ。もっと私たちの相性が良ければ、文字通り私とエイジは完全に一心同体となり、今のサラとティアラのようになっていただろう。エイジも一度くらいは疑問に思っただろう? 完全一心同体状態と謳っておきながら、ミニクティラという明らかに同化していない存在がいる事に。それはこう言う事だ」
中々の早口でペラペラと語り始めるクティラ。突然の語りに聞く準備ができておらず、僕は彼女の説明の大半を聞き逃してしまった。
「……説明が長くてよくわからん。三行で言ってくれ」
「またそれか! 出会った頃から変わらないなエイジ!」
「いいから三行で纏めてくれよ」
「むぅ……仕方あるまい」
と。クティラは腕を組みながら、わざとらしく大きくため息をついてから、僕をじっと見つめ──
「私とエイジは相性が悪い」
「うん」
「だからミニクティラがいる」
「おう」
「サラとティアラはその逆だから、ミニティアラがいないのだ」
「なるほど」
要するに、相性が良いか悪いかで一心同体の純度が違う、という事らしい。
一体全体どういう判定で相性を診断しているのかは謎だが、そこはまあ、別に知らなくてもいいだろう。
「……むす。お姉ちゃん大っ嫌いビーム……」
「エイジ! クティラちゃん! 避けて!」
「へ!? リシア!?」
僕とクティラが話していると、突然、リシアが僕たちに向かって飛び込んできた。
彼女はそのまま僕に抱きつき、勢い殺さずその場から退避する。
──直後。僕が数秒前まで立っていた場所を、巨大なビームのようなものが通った。
「な……!?」
ビームのようなものは、家の床と壁を削りながら過ぎ去っていく。抉れた床と、壁に大きく開いた穴が、それの威力を物語っている。
「今のってもしかして……」
「うん……サラちゃんとティアラちゃん、略してサティラちゃんが放ったビームだよ。凄い威力……ラルカのビームを超えてるかも」
と。額と頬に冷や汗を浸らせながら、僕に抱きついたままリシアが語る。
その話を聞いて僕は完全一心同体状態のサラ、リシア曰くサティラを見た。
彼女は変わらずソファーに座ったまま、人差し指だけをこちらに向けていた。その指先からは、煙のようなものが出ている。
「……むす」
頬をぷくっと膨らませ、幼子のように不満を表情に出すサティラ。
僕はそんな彼女を見ながら、ゴクリと固唾を飲んだ。
(まるで本気を出していない様子だ……あんな強そうな子を、僕たちは今から落ち着かせないといけないのか……!)




