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164.似てるよね

「じゃあお兄ちゃん……私、リシアお姉ちゃんたちの方見てくるから、ティアラちゃんよろしくね」

「……ん、わかった」

「……よし。それじゃあティアラちゃん、ちょっとお兄ちゃんと二人っきりでいてね?」

「んぇ? サラお姉ちゃんどこ行くの? 私も行く!」

「あはは……でもごめんね、ティアラちゃんは連れていけないんだ」

「なんで? なんでなんでなんで?」

「えー……っと……大人の女性が集まる場所、だから?」

「大人の女性が集まる場所……! うんわかった! エイジお兄ちゃんと待ってる!」

「わ……すっごく良い子。じゃあ仲良く待っててねー」

 と。サラが僕たちに向け手を振りながら、僕の部屋を出て行った。

 少し勢いよく閉められる扉。その衝撃で一瞬だけ、部屋全体が軽く揺れる。

「……じー」

「……えっと?」

 サラが出て行ってから数秒後。残された僕たちの間に流れる沈黙を破るかのように、ティアラちゃんがわざわざ効果音を口で出しながら、僕を見つめてきた。

 彼女は見つめる、僕をじっと見つめ続ける。自前のオノマトペと共に。

「ねえ……エイジお兄ちゃん」

 ティアラちゃんが僕を見つめ始めてから数秒後、彼女は小さくか細い声で、少し弱気な声色で僕の名前を呼ぶ。

 僕はそれに返事をせず、されど聞いているという意を伝えるため、彼女を見つめながら頷いた。

 するとティアラちゃんはニコリと笑みを浮かべた。どうやら伝わったらしい。

「エイジお兄ちゃんってさ……サラお姉ちゃんと喧嘩……したことある?」

 と。ティアラちゃんは少し俯きながら、頬を赤く染めながら、右と左の人差し指をぐるぐる弄りながら、そう呟いた。

「あー……まぁ……うん。したことあるよ」

 僕は素直に迅速に的確に応える。彼女の求めているであろう答えを。

 きっとティアラちゃんがこの質問をした意味は、今自分が置かれた状況を相談したいが故、僕を共感できる相手か否か判断するためだろう。

「……どうやって、仲直りしてる?」

 ティアラちゃんは軽く首を傾げながら、どこか自信なさげに聞いてきた。

「そう……だな……なんだろ……どうやってって言われると難しいな……」

 僕は思わず頬を指で掻きながら、少し吃りながら言葉を濁しながら、ティアラちゃんの質問に答える。答え続ける。

「なんだろな……何回も喧嘩してるんだけど、いつのまにか仲直りしてるんだよね。何がきっかけとか、そう言うのはなくて……ほんと、自然に蟠りが消失しているというか……」

「……ほんと?」

「うん……みんながそうとは言わないけど、少なくとも僕とサラはそんな感じだよ」

「……あは、わかった。それってきっと、エイジお兄ちゃんとサラお姉ちゃんが凄く仲良しだからだよね」

 と。ティアラちゃんは笑みを浮かべつつも、その笑顔に悲しみを込めた様子で言う。

 そのまま彼女は、ベッドの上に座っている僕の膝の上に無理矢理乗ってきた。クティラより軽い。彼女より小さいのだから、当然と言えば当然だが。

「……私とお姉ちゃんはどうなんだろう」

 ギリギリ僕に聞こえない程度の声量で、ティアラちゃんはそう呟きながら、両足をパタパタと上下に動かし始めた。

「私ね……なんだか自信が無くなってきちゃった。私とお姉ちゃんって本当に仲良いのかなーって。昔はね、絶対絶対絶対に仲が良かったの。ずっと一緒に居たし、二人でいる時は常に笑顔だったし、何より私もお姉ちゃんも心の底から楽しんでいたし……」

 と。ティアラちゃんは僕に背を向けたまま、話を続ける。

「お姉ちゃんの態度が変わったのは……覚えてないけど……いつからかね、お姉ちゃんね、私を少し避けるようになったの。昔みたいに抱きしめてくれなくなったし、頭も撫でてくれなくなった。一緒にお風呂にも入ってくれなくなったし、夜も一緒に寝てくれなくなった。エイジお兄ちゃんとサラお姉ちゃんも……そうなの? 今、一緒にお風呂に入ってたりする?」

「いや……お風呂は流石に無いよ……姉妹どころか僕たち兄妹だし……流石にね……それが普通だとは思うよ?」

 少し前に一緒のベットで寝たけれど。そう思ったが、それは口には出さない。二人っきりじゃなくて、その時はクティラもいたし。何より話が拗れる。

「……やっぱりそうなんだ。大きくなったら一緒じゃなくなるんだ……大きくなっても一緒に居たいのに……。お父さんもお母さんも言ってた、それが普通だって。でも私はそれが嫌……嫌なの……昔みたいに……ううん……いつもみたいに仲良くしたいの……」

「……じゃあなんで、クティラが来た時に威嚇したりした……しちゃったの?」

「……だってお姉ちゃんが悪いんだもん。むすぅ……」

(そういうところはまだ子供なんだな……。クティラと違って)

 顔を振り返らせ、ぷくっと頬を膨らませながら唸るティアラちゃん。僕はそんな彼女を見て、思わず頭を撫でようとしたが、どこからか怒られそうなのでやめた。リシアやサラだったら躊躇なく撫でたのだろうけど。

「エイジお兄ちゃん、私はね、ちゃんと頑張ったの。お姉ちゃんが……ぐす……お姉ちゃんが私を避けてるのを感じてもね、頑張ってそれに気づかないようにいつも通りに甘えたの。そしたらいつかね……理由くらいは話してくれるかなって、そう思って……」

 と。ティアラちゃんは目尻に涙を浮かべ、全身をプルプルとさせ始めてしまった。

 僕はそんな彼女を慰めるために、先程躊躇した頭撫で撫でを実行する。ここは言葉で慰めるより、行為で慰めた方がいいと思ったからだ。

 そんな僕の予想は当たっていたのか。ティアラちゃんは抵抗することなく、僕の手のひらを受け入れてくれた。

「……今日ね、お姉ちゃんに会ってね、どうして家出したのって聞いたの。それすらお姉ちゃんは答えてくれなかった……私に何も教えてくれなかった……わかんないから頑張ってるのに……ずっとずっとずっとずっとお姉ちゃんは何も教えてくれない……だからね……大好きだけど……大嫌いなの……」

「……そうか」

 酷いすれ違いだ。思わずそう呟きそうになってしまった。

 クティラがティアラちゃんに知られないよう必死に自分の気持ちを隠しているのは事実だ。それも恐らく、自分よりもティアラちゃんのために。だがそれをする事によって、逆にティアラちゃんを苦しめてしまっている。

 いっそのこと素直になって全部正直に話してしまった方がいいのではないか。そう思うが、やはりそれも難しいのだろう。僕だって、そんなの無理だ。

 白黒ハッキリつかない問答。苦手だ、こういうの。

「……でもやっぱり私、お姉ちゃんと仲直りしたいよ……だけどねだけどね……お姉ちゃんにはちゃんと謝ってほしい……というよりもね……お姉ちゃんとちゃんとお話ししたい……」

「……うん。まあ、とりあえず急ぐことはないよティアラちゃん。僕とサラもよく喧嘩するけどさ……さっきも言ったけど、気づいた時には仲直りしてるんだ。ティアラちゃんとクティラもそうかもしれないよ? 急いで功を成す必要はない、ゆっくり一歩ずつ進んで行こ? リシアもサラも……もちろん僕もさ、隣で一緒に歩くから」

 僕は必死に脳を回転させながら、ティアラちゃんの気持ちを落ち着かせる言葉を出す。こういう時人は、一体全体どういう言葉をかけてほしいのか。それをティアラちゃんの気持ちになってみながら、想像してみながら、考えてみながら、必死に言葉を紡ぐ。

「……あはっ。エイジお兄ちゃん、なんかお姉ちゃんみたい……」

 と。ティアラちゃんは人差し指で目を拭いながら、ニコッと笑みを浮かべた。

 その直後、彼女は全身を振り替えらせ、ぎゅっと両手で全身で僕に抱きついてきた。

「ちょ……!? ティアラちゃん……!?」

 彼女の温もりと柔らかさが、全身を通して伝わってくる。子供だからか、同い年に抱き付かれるよりも温かい、というより暑い感じがする。

「えへへ……ここに来てよかったかも。サラお姉ちゃんも、リシアお姉さんも、エイジお兄ちゃんも……お姉ちゃんも……みんな大好き……」

 と。ティアラちゃんは僕の胸元に顔を埋めながら、嬉しそうに呟く。

(……早く仲直りできるといいな)

 僕は心の中でそう呟きながら、ティアラちゃんの頭を一回だけ、優しくしっかり丁寧に撫でてあげた。

「……エイジお兄ちゃん、撫で撫では下手だね」

「……それ、サラにも言われたよ」

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