161.結局この世で一番頼れるのはお姉ちゃんというわけだ
「実はだな……正直、どうしようもなくなっているのだ。私は」
と。顔をあげたクティラちゃんはもう一度私の胸元に顔を埋め、そのまま話を始めた。
「……なんと言うのだろうな、気まずさの極みとでも言うべきか。どう切り出し謝罪し仲を修復すれば良いのか、想像し得ないのだ。最初の一言、表情、声色、伺い方。その全てが考えれば考えるほど肯定が否定に変わり、そのループに陥り、これだと確信できる答えを見つけることができないのだ」
「……クティラちゃん」
「必死に模索しても見つからないのならば、私はどこを歩けばいい? そしてどうやって辿り着けばいい? 私が今頼れるのはリシアお姉ちゃんだけなのだ……恥を承知で頼む、助けてくれリシアお姉ちゃん……」
いつもの強気な感じではなく、すぐに消えてしまいそうなほどにか細く弱気な声色で語るクティラちゃん。そんな彼女は今、私に弱音と本音を聞かせ、助けを求めている。
頼られている。いつも自信満々で、とても頼りになるクティラちゃんに私は今、頼られている。
そう思うと、少し空気が読めないけれど、私は嬉しい気持ちになった。エイジじゃなくて、サラちゃんじゃなくて、私を選んで私を頼ってくれた。その事実が、私の肯定感を高まらせる。
「わかった……! 頑張ろクティラちゃん! 頑張ってティアラちゃんと仲直りしよう……!」
私は両の拳をぎゅっと握り、クティラちゃんを励ます言葉を発する。
すると私の応援が彼女に伝わったのか、クティラちゃんはゆっくりと顔を上げ、私の目を見ると、表情を少し柔く崩した。
「流石だなリシアお姉ちゃん……頼りになる」
「えへへ……一応お姉ちゃんって呼ばれてるからね。こういうのはサラちゃんとエイジで私、慣れてるし。精一杯クティラちゃんをフォローさせてもらうよ……!」
「ふふふ……では早速だが──」
と。クティラちゃんが私に抱きついたまま話を続けようとした時、何故かクティラちゃんの声が途切れた。
「クティラちゃん……?」
私に抱きついたまま、どこか不満げな、不安そうな顔をするクティラちゃん。彼女はそのまま、ほんの少しだけ震えている両腕で私を抱きしめてくる。
「お風呂出たよーお兄ちゃん、リシアお姉ちゃん」
その直後、背後から聞き覚えのある足音と声が聞こえてきた。
振り返らずともわかる。考えなくてもわかる。この足音と声は──
(サラちゃん……!? ってことはティアラちゃんも……!?)
「エイジお兄ちゃん! リシアお姉さん! お先に失礼しました!」
と。予想通り、サラちゃんの次に聞こえてきたのはティアラちゃんの声だった。
「どうするリシアお姉ちゃん……何の対策もしていないのに出会ったら間違いなく不正解の動きをし、より関係が複雑化する……! だからと言ってティアラが来たのを機にリビングから逃げようものならば、より悪化するのは明確明白だ……!」
「ぴぇ……ど、どうしようか?」
ヒソヒソ声で話す私たち。そんなんことをしている間にも、足音はより大きく、より近づいてくる。
「んー? リシアお姉ちゃん? なんか変じゃない?」
「んにゃ? そうなの? リシアお姉さん変なの?」
「うん。だってリシアお姉ちゃん、私が帰ってきたらいつも笑顔で迎えてくれるもん。私のこと大好きだから」
「へー……仲良し姉妹なんだね!」
(なんかすごい恥ずかしい事言ってる……! じゃなくてじゃなくてじゃなくて……!)
どう動くべきなんだろう。こうしている間にも、サラちゃんとティアラちゃんに疑問と疑念を抱かれていると思うと少し怖い。その原因がバレた時、ティアラちゃんとクティラちゃんの関係が悪化しちゃうのは間違いないし。
こうなったらもう、アレしかない。あの必殺技しかない。
「よしクティラちゃん……こうなったらもうするしかないよ。この場で勘と感覚だけで動いて、当たって砕けろ大作戦で仲直りをしよう……!」
「砕けたくないからリシアお姉ちゃんに頼ったのだが……!?」
「大丈夫……多分」
目を見開きビックリしているクティラちゃんを落ち着かせるために、私は彼女の頭を撫でながら深呼吸をする。
ちょっとでもミスったら更に悪化するのはわかっている。けれどこの状況、選択肢はそれしかない。多分。
「リシアお姉ちゃん……?」
と。サラちゃんが私の肩を軽く叩きながら、私の名前を呼ぶ。
ので、私は固唾を飲んで覚悟を決めて、クティラちゃんを抱いたまま、ソファーの上に座ったまま振り返った。
「……あ、やば。クティラちゃんも……いたんだ……」
「んぇ……? あー! 何でお姉ちゃんがいるの!? むすぅぅぅ……!」
その直後、私に抱かれているクティラちゃんに気づいたティアラちゃんが、彼女をビシッと指で差しながら叫び、唸り始めた。
「むす……!」
「ぐぬ……」
「ぴぇ……」
「……どしよ」
ティアラちゃんがクティラちゃんを見つめる。クティラちゃんが私の胸元に顔を半分隠しながらティアラちゃんを見る。そして、私とサラちゃんはお互いを見つめ合う。
流れる空気は気まずい空気。誰も何も切り出せず言い出せない雰囲気。
「クティラちゃん……ファイトだよ……!」
「むむぅ……この道しか歩む路は無いというわけか……!」
私はクティラちゃんの頭を撫でながら、小さな声で彼女を応援する。
頑張れクティラちゃん。貴方がナンバーワンだよ。
「ティ……ティアラ……!」
「むすぅ……!」
「うぇえ……やっぱり私には無理だ……リシアお姉ちゃん……」
「が、頑張ろ……! クティラちゃん……!」




