157.閑話
「あー可愛いなーティアラちゃんは! 私いっつも可愛がられる側だったからこういうの新鮮! 今のうちに可愛がってあげる! うりうり! うりうり!」
「ちょっとサラちゃん……撫ですぎだよ……」
「でもティアラちゃん喜んでくれてるよ? ねー! ティアラちゃん!」
「うん! サラお姉ちゃん好き!」
「はわぁ……! お姉ちゃん……! なんていい響き……たまにはいいなぁこういうの……!」
(……すっかり仲良しだな、三人とも)
クティラと別れ、僕がリビングに戻ってくると、仲良し三姉妹がソファーの上で楽しそうに戯れついていた。
三人ともニコニコしていて、数分前に初めて会ったとは思えないほどに仲良しだ。クティラの言っていた通り、ティアラちゃんの人懐っこい性格がこれを実現させたのだろう。
「んにゅ……? あー! もしかしてもしかしてエイジお兄ちゃん!?」
「んな!? エ、エイジお兄ちゃん……?」
と。僕に気づいたティアラが突如立ち上がり、ビシッと僕を人差し指で差しながら僕の名前を叫んだ。何故か「お兄ちゃん」付きで。
「あ、お兄ちゃんおかえりー」
「エイジ……えっと……」
ティアラちゃんの叫びで僕が戻ってきたことに気づいた二人も、こちらに視線を向ける。
サラはあまり興味なさげに。逆にリシアは何故か心配そうな顔をして。
「ねぇ……クティラちゃん、どうだった……?」
「へ……? リ、リシア……速いな、動き」
僕が瞬きをしたと同時に、ソファーに座っていはずのリシアが一瞬で隣に現れて、クティラの状況をヒソヒソ声で聞いてきた。
「えっとだな……」
クティラの状態状況をリシアに伝えようとするが、僕はすぐに言葉が詰まってしまった。
思っていたよりも、複雑で難解な感情をクティラが抱えていたからだ。一言で表せるほど言語化が容易い心理状態ではない。故に、どう伝えればいいのかが思いつかない。
「エイジ……?」
「……あ、えっと……心配しなくても大丈夫だよ……クティラは……多分」
「……エイジがそう言うなら信じるけど」
と。僕の返事に納得がいってないのか、不満そうにリシアが呟く。
頬を少し膨らませながら、小さくため息をつくと、リシアは一瞬でソファーへと戻っていった。
(……頼りない男に思われたかな)
リシアに不満と不安を抱かせてしまった自分が情けなさすぎて、ついため息をつきかける。
けれどここは我慢して。僕はとりあえず空いている椅子に座った。
「エーイージーおーにーいーちゃーあーんッ!」
「へぇ!?」
僕が椅子に座ったと同時に、何故かティアラちゃんが立ち上がり、ソファーから飛び降りそのまま空を移動して、僕の胸に飛び込んできた。
ふわふわっと、さらさらっとした長い銀髪が激しく揺れ、それが僕の顔全体をくすぐる。
と、同時に。ティアラちゃんの全体重が勢いよく僕に襲いかかってきた。まだ小さな女の子でも人一人分。かなりの衝撃があり、上手く受け止める事ができず椅子から転げ落ちそうになる。
なんとか椅子から落ちないよう必死に耐え、僕はギリギリ、ティアラちゃんを受け止めることに成功した。
「えへへ……なんでかなぁ……やっぱりエイジお兄ちゃんからはお姉ちゃんと同じ匂い、同じ雰囲気、同じ優しさを感じるよ……」
と。ティアラちゃんはニコニコしながら、僕の胸に顔を埋めすりすりしながら、呟くように言う。
「いいなぁお兄ちゃん……なんかもう私より懐いてない……? ティアラちゃん……」
「……ぴぇ」
そんなティアラちゃんを見ながら、サラとリシアが何かを呟いた。
小さすぎてなんて言ったのか聞こえない。罵倒されたりしてなければいいけれど。
「……ふふふ……エイジお兄ちゃん、お姉ちゃんそっくりだから私……エイジお兄ちゃん大好きかも……」
と。ティアラちゃんはクティラそっくりのドヤ顔を笑い声を出しながら、僕に抱きつきながら、その大きな赤眼を使い上目遣いで見ながら僕に向けて言う。
(……本当に姉妹なんだな。そっくりだ)
笑い声。ドヤ顔。銀髪。赤眼。身長と髪型以外は本当にクティラそっくりだ。
そしてクティラより人懐っこく可愛らしい反応と行動。それを見て感じて、僕は先刻のクティラの言葉を思い出す。
──上位互換。
(……なるほど。クティラが言いたかった事、ちょっとわかったかも)
「ねえねえエイジお兄ちゃん。遊ぼ遊ぼ! さっきね、リシアお姉さんとサラお姉ちゃんとも遊んだんだー」
と。僕が少し考え事をしていると、ティアラちゃんはニコニコしながら提案してきた。
「ん……まぁ……いいけど」
僕はそれを了承する。すると、ティアラちゃんはにっこりとさらに笑みを浮かべ──
「やたっ!」
と。嬉しそうに言いながら、僕の上からぴょんっと、可愛らしく飛び降りた。
「何して遊ぼうかなー! サラお姉ちゃんとリシアお姉さんも一緒に遊ぶよね!? えへへ……何しよ何しよ……」
僕たちを交互に見て、ニコニコしながら天井を見上げ、手遊びをし始めるティアラちゃん。
そんな彼女を見て、幼さ全開の彼女を見て、僕は心の底から可愛い、と思ってしまった。
まるで昔のサラを見ているようだから。まだ素直でよく甘えてくれた、あの頃のサラに。
(……なんか、懐かしい感じだな)
僕は机の上に肘を置き、頬杖をつきながら、小さくため息をついた。
嬉しさと楽しさと、申し訳なさとどうしようもなさを含めたため息を。




