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152.ふとした時に感じる寂しさ

「お兄ちゃん、リシアお姉ちゃん、クティラちゃん。ただいまー……」

 なんとなくそういう気分だったので、私は家にいるはずの三人の名前を呼びながら扉を開け、玄関で靴を脱ぎ始めた。

「……あれ?」

 けれど返事は返ってこない。リシアお姉ちゃんはもしかしたら居ないかもだけど、お兄ちゃんとクティラちゃんはいるはずなのに。

「私の方が先に帰ってきた……? そうかな……? お兄ちゃんとクティラちゃん、いつも先に帰ってるよね?」

 もしかしたら何かあったのかも。嫌な想像が一瞬脳裏に浮かんで、私の心臓がドキンっと跳ねた。

 冷や汗をかいている。気がする。私はとりあえず額を拭って、なんとなく頬に触れてから、靴を完全に脱ぎ上がった。

 まずどっちに行くべきだろうか。お兄ちゃんの部屋? リビング? 近いからリビングにしよう、そうしよう。

 私はわざとらしく大きく足音を立てながら歩き、真っ直ぐにリビングへと向かう。

「お兄ちゃーん……?」

 名前を呼びながらリビングに入るが返事はない。なので当然、人影もない。

「……クティラちゃん?」

 居ないとわかっているのに、私は我が家自慢のヴァンパイアの名前を呼ぶ。

 居ないから当然、返事は返ってこない。孤独だから、誰も私に返事をしてくれない。

「……リシアお姉ちゃん?」

 誰も居ないとわかっているのに、居てほしい人の名前を私は呟く。それに返事をして欲しくて、それと共に私の目の前に現れて欲しくて。

「……お兄ちゃん」

 私は一番居て欲しい人の名前を呟きながらリビングを出る。そのまま気持ちは早足で、けれど行きたくないから遅く、だけど確認したいから素早く、でもわかりきっているからゆっくりと。私はお兄ちゃんの部屋へと向かった。

 いつもはしないノックをわざわざして、私はお兄ちゃんの部屋の扉の前で佇む。

 数秒、数十秒。待っても返事は来ないし、扉越しになんの音も聞こえない。

 無音。いつもは騒がしい廊下、部屋、家が無言。まるで、みんな寝ている時かのように。

 私は固唾を飲んで、意を決して、ドアノブにゆっくりと手をかけて、力強くそれを握って、また固唾を飲んで、ゆっくりと捻って、力強くもゆっくりと音を立てながら、私は扉を開けた。

「……居ない」

 やっぱり、そこにはその部屋には誰も居なかった。ぐちゃぐちゃになったベッド、床に乱雑された本、窓が開いているからか静かに揺れているカーテン。誰かが使っている痕跡ばかり目立って、肝心のその人はどこにも見当たらない。

 私はそのまま部屋をじっと見る。一歩も入らずに、じっと部屋中を見渡す。

 なんだか少し悲しくなってきた。ので、私は扉をゆっくりと閉めてから、それに背をもたれさせた。

 そのままゆっくりとしゃがみ、私は地面にお尻を付ける。スカートをちゃんと敷かなかったからか、下着が、それに収まりきらないお尻の部分が直に床に触れて冷たい。

 私はなんとなく天井を見上げた。その後ほんの一瞬だけ袖で目元を拭って、次はじっと地面を見つめる。

(なんで……なんか……寂しさ感じてるんだろう……帰ってきた時にお兄ちゃんが居なかったことなんて割とあったじゃん……なんで今日だけ……なんで今更……)

 と。その時、ポケットに入れていたスマホがブルルっとバイブレーションをしながら音を鳴らした。

 私はため息をついてからそれを取り出し、通知を確認。メッセの送信者はリシアお姉ちゃんだった。

 彼女の送ってきたメッセージは「クティラちゃんとエイジとちょっと寄り道してます。お土産買ってくるね」という簡素なもの。

「……まあ、なんとなく察してたけど。多分、クティラちゃんが二人を誘ったんだろうなぁ……」

 私はスマホ片手に、苦笑いをしながら立ち上がる。

 三人が帰ってきた時にすぐに出迎えられるよう、リビングに居ようと思い立ったからだ。

(んー……別に制服のままでもいいかっ)

 私は立ち上がり終えると同時にスカートをなんとなく叩き、ホコリを飛ばす。

 その後ちょっと咳払いをしてから、私は廊下を歩き始める。

 と。同時に──

「……ピンポーン? 誰だろう……お兄ちゃん達のわけないし……宅配便?」

 チャイムが鳴ったので、私はボソボソ独り言を呟きながらリビングを通り過ぎ、玄関へと向かった。

 私のお気に入りの靴は踏まないように、もう履かれてなさそうなお兄ちゃんの古臭い靴を踏みながら、私は玄関の扉の下へと向かう。

 一応覗き穴で確認しておこうなかなと思ったけど、別にいいよね。

 とりあえず扉を開けよう。そう思い私はドアノブに手をかけ、ゆっくりと動かす。

「はーい……」

 小さく軽く返事をしながら扉を開ける。するとそこにいたのは──

「あ……! こんにちは! お邪魔してもいいですか!?」

「……へ?」

 私より一回り小さくて、あどけなさが目立って可愛らしい、すごく目を惹かれる銀髪赤眼美少女だった。

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