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150.静けさ

「ふむ……うむうむ……なるほどそう来たか……素晴らしい……拍手喝采だ……天才作者め……」

 夜ご飯を食べ終えた僕たちは、寝る時間になるまで暇を潰していた。

 僕はソファーの端に座りながらテレビを見ている。そんな僕を膝枕として使い、ソファーに寝転びながらクティラが漫画を読んでいる。そんなクティラの上に、サラが向かい合うように抱きつきながらスマホをいじっている。

「あ、見て見てお兄ちゃん。これ、可愛くない?」

 と。サラが嬉しそうな声色で話しかけながら、僕にスマホを見せてきた。

 画面に映っていたのは可愛らしい服。確かに可愛いと思うけど、僕にそれを見せて何になるんだろう。

「……まあ、可愛いんじゃないか?」

 と。僕は当たり障りのない返答をする。同調しつつ、自分の意見を含めない答え。完璧だ。

「やっぱり? じゃあ買っちゃおうかな、お兄ちゃんのために」

「……は?」

 今、意味のわからない事をサラが呟いた気がする。

 可愛い服を買うと、確かに彼女は言った。それはいい、けれどその後、彼女は何と言った?

 僕のために、とか言わなかったか?

「ちょっと待てよ……何で僕のためになんだよ?」

「……へ? あー……」

 と。サラが不思議そうな顔をしながら、クティラの上に乗ったままゴロリと寝返り仰向けになり、僕を見つめてくる。

「だってお兄ちゃん。忘れてるかもだけど、たまに女の子になるじゃん? 銀髪赤眼美少女お兄ちゃんに。その時にさ、一々私の服を着せるのは何だかなぁ……と思って。サイズも合わないものが多いし」

「いや……そんな滅多になるもんじゃないし。最悪男モノでも大丈夫だろ……」

「わかってないなーお兄ちゃん! 良い素材は良い道具を使って、しっかり確実にちゃんと綺麗に美しく着飾らないとダメだよ! お兄ちゃんのクソダサ服とか着せたらせっかくの美少女が台無しだもん!」

「……だったらサラの服でもいいじゃないか。妹の服を着るのはちょっと嫌だけどさ……」

「だーかーらー! サイズが違うって言ってんじゃん! それにね! 私の持つ服は私が最大限に可愛くなる服なの! 私とお兄ちゃんは違うでしょ!? 顔も! 背丈も! 足の長さも細さも! 似合う服は人それぞれで大きく変わるんだから!」

「あいててて……」

 頬を膨らませながら、大きな声で叫びながら、サラが僕の頬をペチペチペチペチ叩いてくる。

 そんなに変わるものなのだろうか? サイズは確かにキツイと嫌だけど、可愛い服なら誰が着たって可愛い服には違いないのでは? 誰だってそう思う、僕もそう思う。

「もぅ……わかってないんだから。服と美容品と化粧品はちゃんと自分に合ったモノにしないと女の子は輝けないんだからね! ねー! クティラちゃん!」

「うむ、そうだな」

「ほら! クティラちゃんも言ってるじゃん!」

「……すっげぇ興味なさげな返事だったけどな」

「そんな事ないぞー」

 本を読みながらテキトーに返事をするクティラ。この吸血鬼、それで誤魔化せているとでも思っているのだろうか?

 だが、サラは熱くなっているからなのか。クティラの雑な対応及び反応には特に興味を示さず、変わらず僕の頬をペチペチ叩き続ける。

「お兄ちゃんはもっと美少女として自覚を持つべきだよ! 美少女として生まれたからには可愛くなる義務があるの! 最上級に可愛く、可愛すぎてごめんと、自分の一番可愛いところを見せつけ、可愛いだけじゃダメ? と聞けるような、そんな美少女なんだからお兄ちゃんは! 可愛いは世界を救うんだから!」

「……僕は生まれた頃から男だよ」

「そ、れ、で、も! たまに銀髪赤眼美少女お兄ちゃんになるじゃん!」

「んまぁ……そうだけどさぁ……」

 ペチペチ僕の頬を叩くサラの手から顔を逃れさせ、僕は小さくため息をつく。

 常に銀髪赤眼美少女お兄ちゃんならばまだしも、僕はたまにそれになるだけだ。長くても三日ほど。なのに何故、美少女としてエンジョイしなければならないのか。

 確かに楽しい部分はあるけれど。それでもやっぱり本当の僕は銀髪赤眼美少女お兄ちゃんの僕ではなく、今ここにいる黒髪黒眼平凡男子の僕なのだ。

 銀髪赤眼美少女お兄ちゃんとして自覚を持ち、それを楽しみ、それを自分として生活するようになったら、それは本当に僕と言えるのだろうか?

「あ、ねえねえお兄ちゃん。この服買ったらさ、リシアお姉ちゃんも誘って四人で写真撮ろ? 思い出作りに女の子四人でパシャリとねっ」

「ん……まぁ……機会があればな」

「約束だからね! えっへへ……その時のために新しい服買おうかな。ついでにリシアお姉ちゃんとクティラちゃんのも私プロデュースで……」

 と。それだけ言うと、サラは再びうつ伏せになり、クティラに向かい合うように彼女を抱きしめながら、スマホをいじり始めた。

 そんな彼女の姿を見て、僕は思わずため息をつく。たまに生意気度が爆発して面倒くさくなるのが、サラのダメなところだなと。

 嫌いではないけれど。少なくとも僕のことを考えてくれての行動だし。悪意は感じないから。

「……エイジ、この作者、大天才だな。私はギャグ漫画界一だと思うぞ」

 と。僕とサラの会話が終わったと同時に、クティラが持っていた漫画を僕に手渡してきた。

 僕はそれを受け取る。ヤクザと少女が主役のギャグ漫画、僕のお気に入りの漫画だ。貸した覚えはないから、僕の本棚から勝手に持ってきたらしい。

「そっか……よかったな」

 クティラの渡してきた漫画を受け取り、何となく天井を見上げ──

(……腿が痺れてきたし、早くどいてくれないかな)

 頭の中だけで僕は、そう呟いた。

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