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148.友達って……

(結局……また昼休み、エイジくん達の所に行けなかったなぁ……)

 午後の授業一発目。私は、ノートを取るフリをしながら、ボーッと考え事をしていた。

 いつもは真面目に授業を受けているけれど、今日はそういう気分じゃない。そう、そう言う気分じゃないのだ。

 早く授業終わらないかな。内容の優劣とか、将来への蓄えとか、そんなのどうでもいいから、早く授業終わらないかな。

 何度も呟く。頭の中で、心の中で、誰にも聞こえないように。終われ終われと、呟き続ける。

 理由は単純。つまらないからだ。ものすごくつまらない。

 私が悪いとは言え、クラスに友達いないし。先生と仲がいいわけでもないし。勉強も好きじゃないし。それでもやらないといけないから、受けないとダメだから、私は仕方なくここにいる。

 この授業を受けている生徒、この先生に教えられている生徒、この学校に通う生徒、全国津々浦々の生徒。大体の人が私と同じ思いを抱えていると思う。授業、早く終わらないかなって。

 そう考えると、私は案外、授業が終わってほしくないのかもしれない。つまらないのは事実だけど、私は単純につまらないとしか感じていないから。

 他のみんなとは、つまらないを抱える理由が違う。私は何もすることがないから。だけど他のみんなは何もすることが出来ないから、つまらないと感じているんじゃないかって。

 強制される勉強。勉学に励み、知識を身につけることを強要される授業。それが好きな人、その授業の科目が好きな人はいいけれど、それ以上に好きなものがある人はこの時間、どう感じているだろうか。

 当然、他にしたいことを思い浮かべそれに思いを馳せているはずだ。例えばスマホ、例えば友達とお喋り、例えば友達とのじゃれ合い。けれどそれに近づけないしそれをすることは出来ない。何故なら授業中だから。だから、つまらないと感じ、早く終われと願う。

 じゃあ私はどうなのか? 授業が終わったところで、変わらず何もすることがなく周囲に馴染めず、一人孤独につまらないと感じ続けるのだろう。それって、授業中の私と何が違うのかな? 置かれている環境が変わるだけで、私自身は何も変わっていないんじゃないかな?

 そう考えると、私は授業中に置かれている身の方がいいのかもしれない。同じ退屈な時間でも、しなさいと指示されるものが授業中にはあるのだから。

 いや、そうでもない。やっぱり私は授業が嫌いだ。だって私にはしたいことがある、やりたいことがちゃんとある。

 エイジくんと、クティラちゃんと遊びたい。お話ししたい。出かけたい。

 だけどそれは私が願うだけでは叶えられない。二人の事情が私の心情と合わなければ、到底実現不可能な妄想であり空想であり真相ではなくただの理想で構想された幻想に過ぎない。

 そして結局、そんな風に悪い方向に考えが進むから、私は変わらず変われずにいつまでも孤独なんだ。

 頭が痛くなってきた。思考が、脳がグラグラと揺れ始める。目眩もし始めた気がするし、吐き気も感じる。ついでに、心臓がキュッと締め付けられるように痛み始める。

 止まらない自己嫌悪。利口ぶって自身の達観に酔いしれる己の醜悪さ。それに伴う痛み。乱れ始める呼吸、メンタル、バイオリズム。訪れる生き地獄。グラグラと揺らされる全身。ボヤけ始める視界。焼かれているかのように熱い瞼。今にも溢れそうな洪水。

(……落ち着こ……落ち着こ……私の悪い癖だ……)

 隣の生徒に聞こえないように、近くの生徒に気づかれないように、先生に興味を持たれないように。私は自身を落ち着かせるために、深呼吸をする。

 動く全身。吸い込まれる新鮮とは程遠い空気。吐き出される吐息。

「……はぁ」

 ちょっと落ち着いたかも。やっぱり深呼吸は大事だ、大切だ。ただのプラシーボかもしれないけれど。

(……もしかしたら私、エイジくんとクティラちゃんと友達にならないほうがよかったのかも)

 ふと、私はそう思った。

 私はわかっている。自分でも嫌になるほどわかっている。彼に、彼女に友達だと言われ、優しい言葉に甘え、彼らに依存し始めているって。

 この前、三人で遊びに行った時、すごく楽しかった。お気に入りの可愛い服を堂々と着れて、嫌な顔ひとつせず私に付き合ってくれて、心の底から楽しんでくれて、楽しめたあの日。数十年間生きてきた中で、今までの人生で最も楽しかった日。

 あの日が忘れらない。とんでもなく楽しかったあの日。一生の思い出になったあの日が。

 だからこそ、私はずっと一緒にいたいと思い始めている。もっと長く一緒に居たいと感じ始めている。そしてそれが、その感情が、内気な私を苦しめているんだと思う。だからさっきみたいに、ヘラってしまうんだと思う。

 幸せを得たら不幸になるって、どういう事?

「……あ」

 と、その時。学校のチャイムが教室になり響いた。

 それと同時に教室を満たすのは、先生生徒問わず、全員が片付けを始める音。

 先生が教室を出る寸前、何か一言告げて出て行った。周りがうるさくて正直何も聞こえなかったけれど、多分重要な連絡ではないと思う。顔がだらけていたから。

 周りの生徒達が楽しくお喋りを始めた。それを聴きながら、私はみんなと一歩遅れて片付けを始めた。

(休み時間か……短いし……エイジくん達のクラスに行ってもなぁ……多分クラスの友達と話してるだろうし……気まずくなるだけだなぁ……)

 教科書とノート、両方を持ちトントンっと机に叩きつけ、何となく揃えてから私はそれを机の中へとしまう。

 何して時間を潰そうかな。次の授業の準備してるフリでもしようかな。ゆっくりやって、その後テキトーにスマホいじるフリでもしよう。

「ケイはいるか!?」

「へ!?」

 と。突然、誰かが私の名前を叫んだ。

 当然私はそれに反応して驚いてビックリして驚愕して困って、全身をビクッとさせながら変な声を出してしまった。

 急いで声のした方を見た。するとそこにいたのは、自信満々な笑みを浮かべた銀髪赤眼美少女のクティラちゃんだった。後ろにはエイジくんもいる。

「……ッ! 見つけたぞエイジ! 行くぞエイジ!」

「……お前、よくよそのクラスに堂々と立ち入れるな」

「造作もない事だ。そんな事で一々ビビって縮んで悩んで動かなくてどうする?」

「……って言われてもなぁ」

 と。二人は仲良さげに話しながら、私の元へと向かってくる。

 誰もが一目で見惚れてしまう銀髪赤眼美少女のクティラちゃん。当然ウチのクラスメイトも例外ではなく、みんな彼女を見ながら彼女を話題にしている。

「ふふふ……昨日の放課後ぶりだなケイ。昨日の放課後ぶりだぞケイ」

「何で二回言うんだよ……」

「えっと……く、クティラちゃん? 何の用……かな?」

「会いに来た……理由はそれだけだ」

 腕を組みながら、得意のドヤ顔を披露するクティラちゃん。

 私はそんな彼女から視線を逸らし、周りを一瞥する。たくさんの視線が私たちの周りに集中していて、とても落ち着かない。

「……ここで話すのもなんだ。ケイ、私たちと共に来い」

「へ……? わ、ちょ! クティラちゃん……!?」

 と。私が居心地悪そうにしているのを察してくれたのか否か、クティラちゃんは急に私の手を取って無理矢理立ち上がらせてくる。そしてそのまま彼女は、足音を大きく立てながら歩き始めた。

 すごい力で引っ張られる。抵抗できない。けれど、抵抗する理由が無いので私は大人しく彼女に引っ張られていく。

「……ったく。クティラがごめんな、ケイ」

「え? えと……大丈夫、気にしてないから」

 申し訳なさそうに謝るエイジくんに、私は笑顔を向けそう伝える。

 確かに恥ずかしかったけれど、それ以上に、嬉しい気持ちが勝ってるから。

 クティラちゃんに連れられ、私たちは廊下へとやってきた。すぐ近くの壁に背をもたれさせ、クティラちゃんが私をじっと見つめてくる。何故か手は繋いだまま。

「ふむ……存外平気そうだな、ケイ」

「へ? 何の話……?」

 優しい雰囲気の笑顔を浮かべながら、満足そうに呟くクティラちゃんの言葉に疑問を持ち、私は思わず首を傾げる。

 平気そう、ってどう言う事だろう? 何が平気そうなんだろう。

「クティラがな……昼休みに廊下で見かけたケイが辛そうな顔をしてたからって、心配してたんだ」

「私は心配していただけだがな……会いに行こうと言ったのはエイジだ」

「……まぁ、そういうわけで、僕たちはケイに会いに来たんだ」

「……へぇ」

 見られてたんだ。昼休み、こっそりエイジくんたちのクラスを覗いていたの。

 その時のクティラちゃん、安藤さんともう一人の女の子と楽しそうに話してたのに、どうして私に気づいたんだろう。吸血鬼だからかな?

 ていうか、そうなんだ。心配してくれたんだ。私を見たクティラちゃん、それを聞いたエイジくん。二人とも、確証は無いのに私を心配してわざわざ休み時間に来てくれたんだ。

「ふふふ……いやはやしかし、平気そうで良かったぞケイ」

「うん……そうだな」

 クティラちゃんが自信満々にドヤ顔を浮かべ、エイジくんが小さく笑みを浮かべている。私を心配してくれて、私の安否を確認してくれて、私を見て安心してくれている二人。そんな二人の態度が、表情が、何だかとても嬉しく感じる。

 正直、私はあまりクティラが言った通り辛かった。主にメンタルが。勝手に色々想像して自己嫌悪に陥って、ヘラっていたから。

 きっと今、彼女たちに私が健全に見えるのは、彼女たちが私に会いに来てくれたからだろう。

 ビックリしたけど、驚いたけど、嬉しかったから。会えただけで、一目見ただけで、会いに来てくれたと言う事実が。

「……む? ケイ、泣いているのか?」

 と。クティラちゃんが首を傾げながら聞いてきた。

 それを聞いた私は急いで人差し指で目を拭ってみる。そして得る濡れた感覚、確かに私、涙を流している。

「だ、大丈夫かケイ? クティラがやっぱり迷惑だったか……?」

 と。エイジくんが心配そうな顔をして、私を見つめてそう言う。

 クティラちゃんもエイジくんと同じ事を思っているのか、少し俯き加減。

 私は、二人を心配させないよう服の袖で一気に目元を拭い、意識して笑みを浮かべ、彼女たちそれぞれの目を見て言う。

「……二人ともありがとう。やっぱり私、二人と友達になれて……よかったな?」

「……んにゃ? 急だな……だが私も常日頃思っているぞ、ケイと仲良くなれてよかった、とな」

「……っ……と……僕と思ってるよ……うん……」

 少し困惑しつつも、ドヤ顔を崩さずに言い切るクティラちゃん。それとは対照的に、恥ずかしそうに俯きながら振り絞るように細い声で言うエイジくん。

 二人とも私と同じ気持ちを抱えていると知れて、私は少し嬉しくなる。万が一、私を安心させるためだけに同意を示した上部だけの言葉だったとしても、それが聞けるのは嬉しい。

「……友達って、いいね」

 私は二人から顔を一瞬だけ背け、聞こえないように、だけど届くように。そう呟いた。

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