143.久しぶりお姉ちゃん
「……はぁ」
たくさんの人が行き交う廊下。そこを歩いてる私は、小さくため息をついた。
朝、寝坊してしまったせいでエイジ達と登校できなかったからだ。本当は朝早く起きて、玄関を開けたエイジにおはようって言って、仲良く登校する予定だったのに。
(時間なかったから髪がボサボサ……ショックでメガネがずり落ちそう……)
もう一度私はため息をついた。憂鬱だ、すごく憂鬱。
私は寄り道せず真っ直ぐに教室に向かっているが、果たしてエイジはいるのだろうか?
居なかったらちょっと嫌だな。エイジに会うために学校に来てるようなもんだし。
私は、肩にかけた鞄の紐をぎゅっと握り、歩き続ける。
やがて辿り着いたのはうちのクラスの教室。意を決して、一度息を吐いて、私は扉に手をかけた。
ガラリ、と音を立てて開けると同時に私は教室に足を踏み入れる。それと同時に、私はエイジの姿を──
「リ! シ! ア! お姉ちゃああああんッッッッ!!!!」
「ぴぇ!?」
私が教室に入ったと同時に、誰かが物凄い勢いで私の名前を叫びながら飛び込んできた。
私は思わず剣を手に取り反撃しようとする。けどすぐにそれは止めて、目を見開き飛び込んできた相手を確認。
サラサラでツヤツヤな銀髪。見る者見つめる者全てを魅了する大きくて綺麗な赤眼。そして、開いた口からチラリと覗く鋭い牙。
──間違いない。クティラちゃんだ。
躊躇なく勢いよく飛び込んでくるクティラちゃん。私は彼女を抱えるため抱き止めるため、すぐに両手を広げ彼女の飛び込む箇所を確保。
そんな私の意を察したのか。クティラちゃんは褒めたくなるくらい綺麗に丁寧に、私の腕と胸の中へ飛び込んできた。
「ふははははは! 久しぶりだなリシアお姉ちゃん! 会いたかったぞリシアお姉ちゃん! 寂しかったぞリシアお姉ちゃん!」
「ぴ……! ク、クティラちゃん……! みんな見てるから……! みんなが見てるから……!」
「そう言うな久しぶりなのだから! 抱きつかせろ会いたかったのだから!」
「ぴぇ……!」
クティラちゃんの猛烈なラブコールに、私はつい抵抗できず、そのまま彼女に抱きつかれる。
ぎゅっと、ぎゅっと、ぎゅうううううっと。物凄い力で、まるで私をその場に未来永劫押し留めるかのように彼女は抱きついてくる。
クティラちゃんの綺麗な銀髪が私の頬をくすぐる。こそばゆい感覚に、思わず笑みがこぼれてしまう。
彼女の吐息が私の鼻に当たる。温かくて、どこか甘い匂いがする吐息。チョコレートの匂いに似ている。朝早くからお菓子を食べてきたのだろうか?
「不思議だな……! 別れてから数十時間ほどしか経っていないはずなのに、二週間ぶりに会うかのような気分だ! 本当に久しぶりだなリシアお姉ちゃんッ!」
「え? あはは……そう?」
ニコニコ笑みを浮かべながら、私の胸元に顔をすりすりとさせるクティラちゃんを私は、優しく撫でてあげる。
何でこんなに懐かれているのか、正直よくわからないけれど、悪い気はしない。可愛い女の子にデレデレに甘えられて嬉しくない人間なんてこの世にいないんだから。
「……ぴぇ……っ……!」
と。私はここで、私たちを捉える多くの視線に気づいた。
じっと見ている。じっと見つめている。教室にいるクラスメイト達が、人目を憚らずイチャつく私たちを野次馬の如く見てくる。
私はそれに気づいてから、それを意識してから、途端に羞恥心がぶわっと湧いてきて、思わずクティラちゃんの頭に顔を押し付けてしまう。
恥ずかしい。耳たぶに熱が、頬に熱が帯びているのを感じる。きっと今の私、物凄く顔が真っ赤だ。
「ね、ねぇクティラちゃん……そろそろ良くない?」
私が聞くと、クティラちゃんは上に乗っている私の顔を払い除けながら顔を上げて、私をじっと見てきた。
「ん? リシアお姉ちゃんもしかして……私に抱きつかれるの、嫌か?」
「い、嫌なわけないよ……!!」
首を傾げながら心配そうに問うクティラちゃんを、私は思わず抱きしめてしまう。
こんな可愛い子、離せるわけがない。卑怯だ、ズルだ、チートだ。絶対にNOと言えない問いを投げかけるなんて、ルール違反だ。
(あーもう! どうにでもなれどうにでもなれどうにでもなれ!!)
私は自暴自棄になりながら、開き直ってクティラちゃんを思いっきり抱きしめ、思いっきり撫で始めた。
「んひぇえええ……! 激しい……! 激しすぎるぞリシアお姉ちゃん……!」
「可愛い可愛い可愛い可愛い……!!」
「んひゃあああああ……!!」




