141.友達と一緒に
朝の八時後半。たくさんの学生が歩く道、そこを歩いている私は私に抱きつく親友を見ながらため息をついた。
「……ねえ咲」
「なーに♡」
「恥ずかしいから離れて」
「……やだ♡」
ニヤリと笑みを浮かべながら、私に反抗するように、更に力強く抱きしめてくる咲。
今、腕がバキってなった気がする。二の腕が徐々に潰されていく感覚。女の子だからか力が強すぎないからまだいいけど、普通に痛い。
「ふふふ……離さないからね絶対に。私、決めたんだから。アムにはもっと素直に甘えようって」
「……それは別にいいけどさぁ」
私はため息をついてから、辺りをキョロキョロと見回した。
ほとんどの人は真っ直ぐ前を見て歩いているけど、時折私たちを見ている人がいる。当然だ、人目を憚らず露骨にイチャついているのだから。まるで恋人みたいに。主に咲が。
「せめて教室に着いてからにしない……? ここ、色んな人の目がありすぎて正直恥ずかしいんだけど……」
「え……教室の方が恥ずくない……? だから私、今こうして抱きついてるんだkど……」
「嘘……どういう判定……?」
なんで教室でするのは恥ずかしいと思っているのに、外ではオーケーなんだろう。咲の羞恥心の抱き方が全然わからない。
「……もしかしてアム、こういうの嫌いだった?」
「んーん……嫌いじゃないけど……」
私は首を横に振ってから、恥ずかしさを誤魔化すように頬を人差し指で掻く。
正直、咲に抱きつかれるのは好きだ。だって言葉だけじゃなくて、行為で私に好意を伝えてくれるから。
私自身、よく大好きなあの人に抱きつくし。抱きつきは人の好意を測るのにもっとも適していると思っている。心の内が嘘か真かは置いといて、少なくとも抱きついてくるのは、好きだよってアピールする目的が含まれているはずだから。
人に、友達に、親友に。好きだよと言われて嬉しくない人っているのかな。いや、いないはず。仲の良い人からの好意を嬉しく思わないはずがない。
だから私は嬉しい。咲に抱きつかれるのが嬉しい。咲が抱きついてくれるのが嬉しい。
TPOを弁えてくれたらの話だけど。
「ほら離れて咲……もうすぐ学校だよ? 変な噂とか流れたら嫌でしょ?」
「えー……私、アムとならいいよ♡」
「咲がよくても私は嫌。だってあの人に誤解されちゃうもん……」
「……学校外までは噂流れなくない?」
「……だとしても」
「だとしても、なの?」
「うん。だとしてもッ」
「……ぶー。昨日は良かったのに」
唇をとんがらせながら、不満そうに変な鳴き声を出す咲。
そして私が自分を見ていることを確認してから、彼女はわざとらしく大きなため息をついてから、抱きついていた私の腕から離れて行った。
不満そうに、私から顔を背けて歩く咲。しばらく彼女を見ていて、私は疑問を抱いた。
(そういえば咲……今日はあくびしてない。朝会う時はいつも眠そうにしてるのに……)
昨日は物凄く眠そうにしていた。だから特別に学校に着いた後でも抱きつきを許可していた。けれど今日は違う。
なんか、心身ともに健康状態って感じ。いつもよりほんの少しだけ、だけど。
「ねえ咲……」
「ん……何?」
私が咲を呼ぶと、少し不機嫌そうに返事をしながら彼女は振り返った。
ほんの少しだけ頬が膨らんでいる。こんな表情、意外と初めて見たかも。
「……やっぱり咲、変わったよね。昨日の放課後から。何があったの……?」
「んー……アム、知りたいんだ♡」
ゆっくりと口角を上げ笑みを浮かべる咲。嬉しそうに、だけどどこか私を嘲るように、彼女はニヤニヤとする。
私は何も言わずに頷く。しかし咲は口を開かず、そっと人差し指を自分の唇に当てる。
そして彼女は、パチンっと可愛らしく右目でウィンクをして、小さな声でつぶやいた。
「……内緒♡」
「……えー」
小悪魔ムーブをする咲に、私は思わず不満の声を漏らす。
親友なんだから、私には教えてくれてもいいのに。咲が変わった理由を親友の私が知らないのってなんか、嫌だ。
「どうしても知りたい? 何が何でも知りたい? だったらそうね……ベッドの上でなら……♡」
と。咲は胸元に手を当てて、人差し指を襟に引っ掛け、グイッと引っ張り胸元を見せてくる。
キラキラとした目で、私に何かを求めるように彼女は上目遣い。
ので。私はため息をついてから、ペチっと彼女の頭を叩いた。
「あいたっ」
「バカなこと言わないの。バカっ」
「……相変わらずアムは釣れないなぁ」
「私にはあの人がいるんだから、咲には一生無理だよ」
「ふーん……そっ」
すると、不満そうにため息をついた咲は何故か、また私に抱きついてきた。
「意地悪なアムには、今最上級にかわいい私が嫌がらせしてあげる……♡」
「……咲。変わってから面倒くさくなったね」
「でも、アムは受け入れてくれるんでしょ……?」
「え? うん、まぁ……嫌いじゃないし」
「素直じゃないなーアムは……♡」
「咲に言われたくない……」




