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14.じー

「えー、つまりこの公式はー」

 つまらない数学の授業中、僕は白紙のノートを見ながら考え事をしていた。

 幼馴染のリシアのことを、僕はずっと考えている。

 可愛いとか、付き合いたいとか、そういうのじゃない。

 クティラが言っていたからだ。見えないはず、見えていないはずのクティラがリシアには見えている、と。

 クティラ曰く、それが出来るのはめちゃ強いヴァンパイア。もしくはヴァンパイア対策に何かしらの道具を使っているヴァンパイアハンターだけ、らしい。

(……んなわけないよな)

 僕はバレないように、気づかれないようにリシアを一瞥。真面目な彼女らしく、しっかりと教壇と黒板を見ながらうんうん頷いていた。

(……まずっ)

 気づかれた。顔を動かさず、リシアが目だけを動かして僕の方へ視線を向けた。

 そして彼女は、ほんの少しだけこちらに顔を向け、声を発さずに「どうしたの?」と口の動きだけで言葉を伝えてきた。

 僕は軽く頭を左右に振り、何でもないと伝える。

 それを見たリシアはちょこっと首を傾げてから、黒板の方へと向き直った。

「……はあ」

 誰にも聞こえないように、僕は小さくため息をつく。

 そんなわけがない。リシアが、長い間一緒にいるリシアがヴァンパイア、もしくはヴァンパイアハンターなわけがない。と自分を必死に説得する。

 だけど晴れない。僕の中での彼女に対する疑惑は一向に晴れない。

 クティラが言っていたからだ。ふざけた態度ではなく、可愛らしい声でもなく、真面目な声色でクティラが伝えてきたからだ。

(長年仲良くしてきた幼馴染と、数日前に出会った吸血鬼……どちらを信じるべきかなんて、本来明白なのだけれど)

 まあ、信じるも何もこちらが勝手に疑惑をぶつけているだけなのだけれど。リシアに対しては。

 僕はもう一度ため息をつき、手に持っていたシャーペンをノートの上に転がした。



(……おい、勝手に食うなよ)

「いいじゃないか。一心同体なんだから、私が食べたということはエイジも食べたと同然。気にするな」

(……僕が食べたらクティラも食べた同然ってことじゃないか。食うなよ僕の唐揚げ)

「うるさいうるさいもう遅い。もぐもぐ……うまい」

(……ったく)

 昼休み。僕は一人寂しくぼっちで弁当を食べていた。

 いつも一緒に食べる友達は今日、下手やらかして今は職員室にいる。それ故、ぼっちなのだ。

 幸いクティラがいるから少し気が楽だが、人に見られたら困るのでクティラには僕の心を読ませて、それで会話を交わしている。

「それにしてもサラは凄いな。朝の短い時間でこんなに上手い弁当を作るとは……エイジの妹はよく出来た子で羨ましいぞ……もぐもぐ」

 喋りながらクティラが次々に僕の弁当を食べていく。遠慮というものを知らんのかこの吸血鬼は。

 僕は思わずため息をつく。それと同時に、誰かが僕の肩をポンっと叩いてきた。

 ようやく職員室から戻ってきたか。自然な仕草で瞬時にクティラを回収し、僕はゆっくりと振り返る。

 しかしそこに居たのは僕の予想に反して、安藤リシアだった。

「リシア……?」

 思わず彼女の名を呼んでしまう。すると彼女は軽くニコッと笑い、自身の持つ弁当箱を僕に見せつけてきた。

「私も今日友達が休みで一人なんだ……よかったら一緒に食べない?」

 笑みを浮かべたまま首を傾げるリシア。僕は特に何も言わずに頷いて、隣の空いている席から椅子を引っ張った。

「えへ……ありがとエイジ」

 軽く頷いてから、自分の方に椅子を寄せながら座るリシア。丁寧に弁当箱を僕の机の上に置き、食べる準備を始めた。

 リシアの視線が僕から離れたと同時に、彼女にバレないよう手に持っていたクティラをそっと肩に置いた。

「気をつけろエイジ……何か企んでいるかもしれないぞ」

(んなわけないだろ……多分お前の勘違いだって)

「……それならそれに越したことはない。だが疑うことは忘れるな。あの女の子は間違いなく、私と目が合ったからな」

(……わかったよ)

 クティラに心を読ませながら、僕はリシアに聞こえないようクティラと会話を交わす。

 彼女の存在を悟らせないように、僕はあくまで自然に振る舞う。

「エイジのお弁当は……?」

 そう言いながら、リシアがチラッと僕の弁当を覗き込む。

 すると少し不思議そうな顔をして、首を傾げながら僕を見てきた。

「なんか……一口一口が小さいね。アイドルみたい」

「否! ヴァンパイアだ!」

「好きなものだからちょっとずつ食べてるんだよ……(余計なこと言うなクティラ!)」

「へぇ……意外とエイジ可愛いところあるよね」

 腑に落ちたのか、納得したような顔をしながら箸を手に取り、自分の弁当を食べ始めるリシア。

 僕もそれに合わせ、箸を構え直し、弁当を食べ始める。

「エイジ、エイジ。それくれ、食べたい。あーんしてくれ、あーん」

(出来るわけないだろ……)

 耳を引っ張ってきたり、肩の上でぴょんぴょんするクティラを無視しながら、僕はどんどん食べ進めていく。

「あーんしてくれ」

 まず米を取って、それを口に入れて、その次は──

「あーんしてくれ」

 卵焼きを取り、半分ほど口に含み──

「あーんしてくれって」

 次はミニトマトを器用に──

「あむ!」

「いてっ!」

「えっ、どうしたのエイジ……?」

 急に耳たぶを噛まれ、僕はつい声に出して驚いてしまった。

 ガチ噛みではなく甘噛み。それはまあいいんだけど、問題はそこじゃない。

 僕は目だけを動かしてリシアを一瞥。彼女は不思議そうな顔をしながら、首を傾げながら僕を見ていた。

「えっと! その……あれだ! 箸がこう……上手く絡んで指がやられたんだ!」

「……えと、うん」

 全然理解できていないはずなのに、理解してくれたかのように頷いてくれるリシア。

 もしかして彼女は、天使なのだろうか?

「いや、悪魔かもしれんぞ」

 お前は間違いなく悪魔だな、と僕は心の中で呟く。

「悪魔ではなくヴァンパイアだぞ。無知なパンピーは知らないかも知れんが、悪魔という種族は実在しその多くが強大な力を──」

 ぶつぶつと僕の耳元で説明を始めるクティラ。めちゃくちゃうるさいし、すごい気になる。

 ふと、リシアの方を見ると、彼女は目を細めながらじっと僕を見ていた。

「……なんか今日のエイジ、少し変?」

 小さな声でそう呟きながら、ほんの少しだけ首を傾げるリシア。

 僕はそんな彼女を、目を泳がせながら見つめる。

「……気のせいだよ気のせい。間違いなく、確実に、絶対的に、疑う余地なく気のせいだよ」

「……ふーん」

 より、目を細めながらリシアは僕を見つめてくる。

 僕はそんな彼女から、気づかれない程度にに必死に、顔を逸らした。

「疑っているようだな……エイジ、やはりリシアは私のことが見えているのではないか?」

(お前の行動に反応してる僕が情緒不安定なやべぇ奴に見えてるだけだよ……!)

 クティラを叩こうと思ったがそれを必死に抑え、僕はあくまで平然を装って弁当を食べ進める。

 昼休みは、まだまだ続く─

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