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128.私はそういう風に生まれたから

 物心ついた時から、私はこの家、家族が大っ嫌いだった。

 両親が昼夜問わず裸で抱き合っていて気持ち悪かったからだ。仕事で家を出ている時以外、つまり家にいる時はほとんど抱き合っていた。

 五月蝿くて耳障りな女の甲高い声。それが、一番よく聞いた母親の声。

 暴力的で威圧的で獣のような男の叫び声。それが、一番よく聞いた父親の声。

 気持ち悪かった。あの頃は二人が何をしているのかよくわからなかったけど、とにかく気持ち悪かった。

 ある日疑問に思って、どうしていつも抱き合っているの? と両親に聞いたことがある。

 二人はお互い同時に首を傾げ、サキュバスだからインキュバスだからだよ、と答えた。

 意味がわからなかった。自分たちがしたいからだよじゃなくて、自分たちがそう言う種族だからだよと答えた意味が。

 だって私は気持ち悪いと思っているから。当然のように娘の前で抱き合う二人の行為を気持ち悪いと思っていたから。

 サキュバスだからそれをする、それが好きだと言うのならば。サキュバスであってそれを気持ち悪いと思っている私はなんなの?

 なんだか、自分を産んだ両親に自分を全否定された気がした。

 だって、彼らの反応はまるで、なんでそんな疑問をこの子は持つのだろう? と本気で困っているように見えたから。

 私たちの子だから、この子もサキュバスなんだから、セックスを好きなのは当然のはずなのに。とでも思っていたのかな? 気持ち悪い。

 私には兄が居た。兄も両親と同じで気持ち悪かった。あまり家に居ないし、家にいて両親のセックスを見ても特に何も反応を示さず、この状況が当たり前であるかのように過ごす兄が気持ち悪くて仕方がなかった。

 兄は大嫌い。両親ほど嫌ってはいないけど、それでも大嫌い。

 だって私の初めての相手は、その実の兄だったから。

 兄と初めてしたのは幼い頃。正直私が何歳だったのかは覚えてない、それほどまでに幼い頃。

 ある日両親が言った。そろそろお前も年頃だからなって。

 そして連れて行かれた。兄の部屋に、二人っきりで閉じ込められた。

 その時の兄は呆れた顔で私を見ていた。つまらなそうに、呆れるように、どこか自分を嘲るように。

 痛くはしない。優しくも心のこもってない声でそう呟いてから、兄は私を抱いた。

 兄はとても経験豊富だったらしく、初めてなのに痛みよりも快楽が勝った。痛かったのは最初の最初だけ、あとはただひたすら、気持ちよかった。

 けど、気持ちよかったのは体だけ。当たり前だ。好きでもない人に、それも実の兄に抱かれて心の底から快楽と悦楽に浸り惚ける者なんてこの世には存在しない。

 気持ちいいから心が堕ちる? そんなの嘘だ、まやかしだ、幻想だ。よっぽど心が弱くて頭の悪い子しかそんな事にはなり得ない。

 行為中の兄が囁く上辺だけの優しい言葉は気持ち悪かった。吐き気がした。

 普段から私のことを何とも思ってないくせに、やらなきゃいけないからしてるだけのくせに、どうして私を騙そうとするの? 恨みさえ抱いた。

 ただその場を盛り上げるためだけに好きと囁いて、聞いてもないのに自分も気持ちよくなっていると共感を求めてきて。ぶん殴ってやろうかと思った。

 兄とはその後も何度も交わった。片手では数えきれないほどに。両親から言われるたびに、私たちは裸で抱き合った。

 大して好きでもない相手を、言われたから抱くクソみたいな日常。私の心はもう、この頃には限界を迎えていたと思う。

 幼い頃からセックス日和の毎日。どれだけ振り払っても纏わりつく性欲。気持ちが悪かった。

 周りだけじゃない。私は、私自身も気持ち悪く感じ始めていた。

 しっかりと性欲を抱き始めていたからだ。したいしたい、気持ちよくなりたいと。心ではそう思っていないはずなのに、体が求めているのがわかって、凄く気持ち悪かった。

 結局私もサキュバスなんだって。あれだけ否定してきて、あれだけ気持ち悪がってきた両親と同じなんだって。

 死にたくなった。生きている意味がわからないし、生きる気も起きなかったから。けど、自死できるほど心は壊れてなかったみたいで、最後の一歩を踏み出すことはできなかった。

 結局体が求めるまま快楽をそれに与え続け、私は心を削り続けた。意外と私の心は頑丈で、壊れることなくずっと削られ続けた。

 私と兄が抱き合い始めてから数年後。私には弟ができた。

 嬉しそうにそれを見せる両親、くだらなそうに赤ちゃんを見る兄。そんな家族を見たくない私。

 兄に見せ終えた後、両親は私に赤ちゃんを見せてきた。

 興味はなかったけど、赤ちゃんを見て私は、泣きそうになってしまった。

 初めて見たからだ。あまりにも純粋で、純白で、穢れひとつない清らかな存在を。

 私の大嫌いな性欲と無関係の私の家族。途端に情が湧き始めて、私はゆっくりと優しく彼の頭を撫でた。

 その時、両親が呟いた言葉を私は忘れられない。


──この子はお前がちゃんと教えてあげるんだぞ。


 その言葉を聞いた瞬間、私は思わずその場で吐いてしまった。

 たった一言。聞く人が聞けば疑問を抱かない真っ当な一言。だけど私にとって、これ以上酷い言葉はない。

 きっとこの言葉を両親は兄にも伝えたんだ思う。だから兄は普段、私とあまり関わろうとしなかったのかな、とも思う。

 だって、このクソみたいな種族のゴミみたいな両親がそう言ったということは、私がこの子に教えてあげないといけないという事だから。

──セックスを。

 案の定だった。弟がある程度育つと、両親はニコニコと笑みを浮かべながら、私と弟を私の部屋に二人っきりで閉じ込めた。

 その時の私はもう、何か、何も考えてなかった。

 考えたくなかった。頭がおかしくなりそうだったから。

 目の前にいる可愛い弟。そんな弟を、愛する弟を、私自ら穢さなければいけなかったのだから。

 したくなかった。当たり前だ。こんな状況で興奮する人なんていない。

 けれど私はサキュバスだから。セックスを糧として生きる種族だから。

 気づいた時には私は、弟を犯していた。

 泣き叫ぶ弟、喚く弟。私はそんな彼に構わず、腰を振り続けた。

 初めて主導するセックス。自分より劣る存在を穢し壊し犯すセックス。正直私は少し、それに興奮していた。

 いつもは兄にされるがまま犯されていたから、とても新鮮味を感じた。

 今思うと兄は本当に優しかったんだなと思う。私のことを最低限考えてくれて、実際初めてする私を優しく抱いてくれたのだから。

 それはそれとして、両親に言われるがまま私を抱いたアイツは大嫌いだけど。

 兄と、弟とする毎日。していない時は、両親のセックスを見せられる毎日。

 私はそれをあまり気持ち悪いと思わなくなってきていた。だって、気持ち悪いのは気持ち悪いけど、そうは思っていても、結局私も気持ち悪い家族と同じで気持ち悪いんだから。

 一々嫌悪感を示して、心を削るのが嫌になっていた。もう諦めたかった。何も考えずに、そう、何も考えずに。

 私は誰とでもヤる淫乱女。何故ならサキュバスだから。

 私は常に発情している変態女。何故ならサキュバスだから。

 私は童貞狩りが趣味の最低女。何故ならサキュバスだから。

 私は平気で身体を売るバカな女。何故ならサキュバスだから。

 私は実の兄とヤるクソキモイ女。何故ならサキュバスだから。

 私はちょっと仲良くなったらすぐに相手をベッドに持ち込む年中発情期女。何故ならサキュバスだから。

 私は常にセックスのことを考えているアホな女。何故ならサキュバスだから。

 私は同級生や先輩と校内でするやばい女。何故ならサキュバスだから。

 私は学校の教師と放課後に教室でヤるビッチ女。何故ならサキュバスだから。

 私は男でも女でも抱くし抱かれる誰でもいいからヤリたいだけのゴミ女。何故ならサキュバスだから。

 私は夜の街でパパに抱かれる社会不適合な女。何故ならサキュバスだから。

 私は自分の身体を艶やかに使い男を誘惑する碌でもない女。何故ならサキュバスだから。

 私は求められれば簡単に身体を受け渡す乱れて穢れている女。何故ならサキュバスだから。

 私は自分から性交を求め男を懐柔するあざとい女。何故ならサキュバスだから。

 私は常に自分を慰めベッドと下着をぐちゃぐちゃに濡らしている雨女。何故ならサキュバスだから。

 私は毎日毎日セックスをしたくてたまらない、まるで創作物に出てくる淫魔女。何故ならサキュバスだから。

 そう、サキュバスだから。私はサキュバスだから。

 生まれた時からこうなるって決まっていたんだ。それに抗って、それを否定したって、それを気持ち悪がったって、なんの意味もない。

 恋に落ちて素敵な彼氏とイチャイチャと過ごして甘い毎日を暮らす? そんなの、淫魔たるサキュバスである私には似合わない。

 仲の良い友達と放課後に買い食いしたり、カラオケ行ったり、服を買ったり楽しむ? そんなの、サキュバスである私には出来ない。

 仲の良いだけで恋愛感情ゼロな異性の友人と会話、大好きで仲の良い同性の友達と照れながら恋バナ? そんなのする必要ない。私はサキュバスなんだから、恋愛でうだうだ悩まないで、手っ取り早くセックスしてしまえばいい。

 そう、セックスだけしてればいい。そういう生き物なんだから。私は、サキュバスは。

 優しい言葉なんて意味がない、信じない。

 私のことが好き? 嘘、私の身体が好きなだけ。

 だって私はサキュバスだから。誰かと関わるためにはまずセックスをするんだから。

 サキュバスだから。常に淫らなことを考えて発情している淫魔なんだから。

 そう、サキュバス、サキュバス、サキュバス。

 誰が何と言おうとサキュバス。エッチなものが好きで、えっちが好きなサキュバス。

 だからこんなことして当然。寧ろしない方がおかしい。サキュバスなのに、セックスを好きじゃないだなんておかしい。

 それ以上でもそれ以下でもない。私はサキュバスなんだ。ただ、セックスのことだけを考えているサキュバス──

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