125.放課後密室二人っきり
「きゃん……っ♡」
「へ!? ご、ごめん咲畑さん!」
「いいよいいよ一々謝らないで。ちょっとくすぐったかっただけだから……♡」
「……やっぱり、台を探してきた方がいいんじゃないかな。咲畑さんもあまり僕には……ていうかよく知らない男には触られたくないんじゃ──」
「もう……しつこいなぁ……」
僕が別の案を提案すると同時に、咲畑さんが突然振り返った。
長い髪が綺麗に靡いて、僕の顔に少し当たり、こそばゆい。
振り返ったと同時に咲畑さんは僕を見て少し口角を上げゆっくりと、けれど素早く指を伸ばしてきた。
ビシッと指で差されるのかと思って、僕は一瞬目を閉じる。その瞬間、僕の唇に何かが触れた。
細い何かが、僕の唇に押し付けられている。いや、何かじゃない。僕はわかっている、察している。
これは多分、咲畑さんの指だ──
「さ、さきは──」
彼女の名前を呼び止めさせようとした瞬間、咲畑さんはより強く、人差し指を押し付けてきた。
「私は別に気にしないから……つべこべ言わずに手伝って欲しいな。ね……♡」
大きな瞳でじっと見つめながら、可愛らしく微笑みながら、わざとらしくあざとい仕草を見せつけながら、咲畑さんが言う。
僕はその可愛さに気圧され、何も言えなくなり、ゆっくりと頷いた。頷くことしかできなかった。
「ん……じゃあさ、早く私を持ち上げて……♡」
再びバンザイをする咲畑さん。これ以上同じ事を繰り返すわけにはいかない、そう意を決して僕は彼女の脇腹付近に手をやり、なるべく痛くならないよう力を最小限にして彼女を掴む。
柔らかい女の子の身体。多分初めて触れる女の子の脇腹。服越しでも感じる彼女の柔肌。
胸の鼓動が収まらない。一秒ごとに段々と早くなっていく、鼓動が心臓の動きがドキドキが速まっていく。
(落ち着け……落ち着くんだ僕……変なことを考えるな……そうだ……こういう時は素数を数えろと神父様が……素数って何だっけ……割れる数だっけ割れない数だっけ……ダメだ……なんか上手く考えられない……!)
年頃の男子、しかも童貞にこのシチュエーションはあまりにも刺激が強すぎる。
合法的に合意の上で女の子を持ち上げるだなんて、漫画やアニメでしか起きないシチュエーション。その不可思議で都合よくあまりにも現実味のないシチュを僕は今、この身で体験している。
「愛作くん、もう少し上げてくれるかな?」
「わ……わかった」
言われた通りに持ち上げると、彼女のスカートが、お尻が、ちょうど僕のあそこ付近にやってきた。絶対にダメだ。今ここで起き上がったら、もしくは彼女のお尻に触れたら僕の人生はここで終わる。
大変態高校生愛作エイジとして世に知れ渡り、クティラにバカにされリシアにドン引きされサラに罵倒されることになる。
それだけは避けなければ。まだ高校生なのに人生詰みたくない。
「取れた! いいよ愛作くん、降ろしても」
「お、おけ……!」
色々と最悪な妄想が脳を駆け巡る中、咲畑さんから終わりを告げられ、僕はすぐに彼女から手を離した。
「きゃっ!」
「あ!」
──やらかした。
僕は咲畑さんから手を離した、そう、手を離してしまったのだ。まだ咲畑さんが地面に足を付いていないのに。
当然咲畑さんの姿勢は崩れ、そのまま倒れそうになる。手に資料を持ったまま、彼女の姿勢が崩れていく。
彼女を怪我させるわけにはいかない。ので、僕は瞬時に彼女を抱えなおそうと動く。
「……ぐ……ッ!」
物凄い衝撃。耐えられない。僕は立っていることができずに、咲畑さんを抱えたまま地面に倒れてしまった。
背中に強打、肘を強打。幸い頭はぶつけずには済んだ、が咲畑さんは無事なのだろうか。
「はぁ……あ、愛作くん大丈夫?」
僕の上に乗る咲畑さんが、心配そうに振り返り僕に言う。
彼女に心配させまいと僕はすぐに頷く。実際痛かったのは一瞬だけだし、無問題だ。
それよりも、今は痛みよりも──
「本当に大丈夫……? 怪我してない……?」
(は……早く降りてくれないかな……!)
僕は、痛みなんかよりも咲畑さんの柔肌に注視していた。
僕の足に触れる太ももは少し冷たいけれどスベスベ、腹部に触れるお尻は当然柔らかく、スカートが少し捲れているせいか、大切な部分を包む布の感触すら感じる。
伸びた腕は右手を地面に付けながらも、左手は僕の息子の付近に置かれている。
(……っ!)
彼女が少し動くと、太ももが僕の股間部分に触れそうになった。
ダメだ、それだけは今絶対にダメだ。そう思い、僕は上半身を起き上がらせる。あっちを起き上がらせないように必死に意識しないように頑張りながら。
「さ、咲畑さん……! 立ち上がりたいからそろそろ退いてくれるかな……!」
恥ずかしさを押し殺し、察せられないよう必死な声色で、僕は彼女に言う。
するとどうしてか、咲畑さんはニヤリと笑みを浮かべ、こちらに顔を近づけてきた。
そのまま彼女は動き始める。退いてくれるのか、と思ったのも束の間、彼女は何故か僕の上で女の子座りをした。
「な……!?」
両手を僕の胸部分に添える咲畑さん。その光景はまるで、まるで──
「──騎乗位みたいだ、なんて思った? 愛作くんったら……えっち♡」
「……ッ……!?」
僕を嘲るように笑みを浮かべながら咲畑さんは言う。頬を少し赤くしながら、息を乱れさせながら、彼女は僕を見つめてくる。
「ねぇ愛作くん……してるよね……変なこと考えてるよねこの状況で……当然だよね……愛作くん……男の子だもん♡」
先ほどまでの声色と違い、艶っぽい声を出しながら咲畑さんが僕の名を呼ぶ。
今の咲畑さんはまるで別人のように見える。数分前は普通の可愛い女の子と言った感じだったのに、今は幼さと妖艶さを携えた色欲と劣情に塗れた女性に見える。
瞬間、彼女は一瞬で僕の目の前に顔を近づけてきた。
はぁ、はぁと彼女の吐息が聞こえる。熱く甘い吐息が僕の頬に優しくゆっくりと触れる。
「今は放課後ここは資料室……鍵はかかってる。愛作くん……それを聞いて君は何を思い浮かべるかな? 可愛い女の子が汗を垂らして息を乱れさせて、頬を紅潮とさせ胸をときめかせ、あなたの上に可愛く優しくいやらしく乗っているんだよ……♡」
咲畑さんは自らの胸に手を当て、僕をじっと見つめながら言う。
そんな彼女の瞳孔の中心には、小さなピンク色のハートがあるように見えた。
「男女二人っきり……密室……年頃高校生……何も起きないはずがないでしょ……? もうセックスするしかないよねッッッ!?!?!?」
大きな音を立てながら床を手のひらで叩き、僕の顔に思いっきり近づきながら、咲畑さんはとても大きな声でそう叫んだ。
(そ……そんなバカな……!?)




