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122.授業が終わったら掃除の時間

「ふわぁ……眠い」

「クティラちゃん、授業中ずっと寝てなかった?」

「寝ても寝ても退屈が故眠気が増し中々解消されなかったのだ。辛いな、学校。ずっと昼休みでいいのに」

「いいからちゃんと掃除しろよ……」

 六時間目の授業が終わり、僕たちは今教室の掃除をしていた。

 僕とリシアとクティラ、それからあまり絡んだことのないクラスメイト三人と理科室を掃除している。

「机なぞ拭いても無駄だ思わないか? エイジ。どうせ明日にも知らない誰かに使われてすぐ汚くなるのだから」

 雑巾を人差し指と中指で挟みながら、ブラブラとそれを揺らしながらクティラが不満げに呟く。

「明日使う人がいるからこそ綺麗にするんだろうが……」

 僕は小さくため息をつく。ただでさえ面倒な時間なのに、面倒な奴と一緒だと疲れる。

「そーだよクティラちゃん。今は掃除の時間だから、ちゃんと掃除しなきゃ」

 と、箒で床を掃きながらリシアが言う。

 するとクティラは諦め気味にため息をつき、雑巾を左手でしっかりと持ち始めた。

「むぅ……まあそうだな。するか、掃除」

(何でリシアの言うことは文句一つ言わずに素直に聞くんだよ……)

 僕はクティラたちに聞こえないように、ものすごく小さくため息をつく。

 それと同時にクティラがしっかりと机の上を拭き始めたので、僕も持っていた箒を持ち直し、真面目に掃除をすることにした。

 汚い埃、破れた紙の破片、タイルの間に挟まったゴミ、謎の粉。それら全てを的確に確実にしっかりと丁寧にひとつ残らず掃いていく。

 ゴミを集めて置く場所まで何一つ置いていかずに、心地よい音を立てながら、僕は床を掃いていく。

 なんだかんだ言って、こうして掃除するのは楽しい。目に見えて綺麗になるが故、自分のした事で得られた成果がハッキリとわかるから、印象に対してやってみたら楽しめるのかも。

 僕は何となくクティラが気になって彼女を一瞥する。ついさっきまでやる気が一ミリもなかった彼女も今や、机にこびりついた何かを拭き取ろうと必死に一部分を雑巾で拭っている。

 次に僕はリシアを一瞥。彼女は先刻から変わらずに、楽しくもつまらなくもなさそうにただただ淡々と床を掃いている。

 最後に僕は時計を一瞥する。示す時刻は掃除の時間が終わる時間からはまだ程遠い。残り約十五分と言ったところだろうか?

 あと十五分も床を掃くのかと思うと少しやる気がなくなる。けど教師が見張っているのもあってスマホをいじるわけにはいかないし、そもそもクティラに叱っておいて自分がサボるわけにはいかないので、僕は大人しく床を掃き続ける。

 理科室って何で汚くなるんだろう。教室と違って常に人がいるわけじゃないし、基本椅子に座って液体を混ぜるだけの授業しかしないのに。

 いや、たまにノートを使う時もあるか。本当に時折だが。

「愛作くん、ちょっといいかな?」

 と、誰かが僕の名を呼びながら話しかけてきた。

 聞き覚えのある声、だけど聞き馴染みのない声。

 誰だろう? 僕はそう思いながら、声のした方へ視線を向ける。

 するとそこにいたのは、とても可愛らしい女の子だった。

 明るい茶髪の髪はとてもツヤツヤで、肩にかかるほどに長い。右側に二、三本三つ編みが作られている。

 身長は僕とほとんど同じくらい、足の長さは全然違って彼女の方が長い。

 顔は一言で言ってしまえばアイドル並み。こんなに可愛い子、リシア以外にウチの学校に居たっけ?

 いや、見たことある気がする。それも割と頻繁に。もしかしてクラスメイトだったりして。

──そうだ、同じクラスだ。何度か授業中に見た覚えがある。全然話したことがないから、名前はわからないけど。

「えと……」

 僕が何も言わずに、言えずにいると、彼女はじっと僕を見つめてきた。

 あまり接点のない可愛い女子に見つめられているこの状況。僕は少し恥ずかしくなって、思わず顔を逸らしてしまった。

「ふふ……愛作くん、ちょっと今日の放課後、時間ある?」

「……へ?」

 僕は思わず、疑問符の付いた情けない声を出してしまった。

 多分初めて会話する可愛い女子に放課後時間があるか、と問われて変な声を出さない男子がいるだろうか? いや、いない。

 だって、そんな事言われたら一瞬とは言え考えてしまうから。変なことを。

「……い、一応空いてるけど」

 と、僕は緊張がバレないようにあくまで自然に答える。出来てないかもしれないが。

 そんな僕の答えを聞いて、目の前の女子は少し口角を上げつつ、優しく微笑む。

 そして、耳にかかった髪をかきあげながら、じっと僕を見つめてきた。

「もしかして私の名前知らない感じ……?」

 どこか嘲るように、冗談を言うかのように、彼女は僕に問いかける。

 僕は図星を突かれたので一瞬全身をビクつかせ、彼女から顔を逸らしてしまった。

 自分の反応の気持ち悪さと情けなさと、溢れ出る緊張感で何も言えなくなってしまう。

──情けない。

「ふふ……じゃあ改めて自己紹介♡ 私は咲畑咲、一応生徒会に入ってます。愛作くんとは同じクラス……ってそれは流石に知ってるよねっ」

 ニコニコと笑いながら、咲畑咲と名乗る女子は自己紹介を済ませる。

 確かに聞いたことのある名前だ。授業中に何度か聞いたことがある。まあ、クラスメイトなので当然だが。

「えっと……僕は愛作エイジ。よろしく」

「ぷっ……知ってるよ?」

 自己紹介されたので、僕も咲畑さんに自己紹介をすると、笑われてしまった。

 それはそうか。彼女は僕のことを知っていて話しかけてきたのだから。ミスった、死ぬほど恥ずかしい。

 頬に熱を帯びていくのを感じる。クソ、最悪だ。

「それで? 放課後は空いてるよって私に教えたってことは……私の誘い、受けてくれたってことだよね?」

 少し顔を近づけながら、咲畑さんはそう言う。

 彼女の揺れる髪から甘い香りが漂い、僕は思わずドキッとしてしまった。

「それじゃあまた放課後……ね♡」

 それだけ言うと、咲畑さんは手を振りながら僕の元から去っていった。彼女の問いに対する答えをまだ僕は出していないのに。

「……放課後、行かないとダメか」

僕は小さくそう呟く。今更断るのも悪いし、そもそも僕から彼女に話しかける勇気がないし。

 仕方ない。クティラとリシアとサラには上手いこと言って誤魔化そう。

「……じー」

「へ?」

 と、変な声と共に鋭い視線を感じた。

 その視線を感じた方へ顔を向けると、箒の持ち手を両手でぎゅっと握りしめたリシアが立っていた。

 目を細くして、リシアはじっとじっとじっと、僕を見つめてくる。

「じー……」

「えと……」

「……じー」

「リシア……?」

「……じー……」

「……リシアさん?」

「……じーじーじー」

(ぜ、全然わかんねぇ……! なんだ!? もしかしてリシアは怒っているのか!? 僕に!? なんでだ!? どうしてだ!?)

「……じーっ」

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