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118.朝の教室

「エイジ、一時間目なんだっけ?」

「えーと……何だっけな」

「エイジ! お昼まで後何時間だ!?」

「えーと……四時間くらいじゃないか?」

 学校に着いて、教室に入った僕たちは、僕の席の周りに集まっていた。

 僕とリシアは壁に背をもたれさせながら、クティラは座りながら会話をしている。

「なあエイジ、なあなあエイジ。暇だからスマホ貸してくれ。ゲームする」

 クティラが椅子の足を浮かせたり降ろしたりしながら、僕に向け手を差し出しながらそう言った。

「ん? ほらっ」

 ので。僕は言われた通りに彼女にスマホを彼女に向け、そっと投げる。

 それをパシッと完璧に綺麗に手に取るクティラ。そのまま彼女はニコニコと笑みを浮かべながら、僕たちに背を向けた。

「なんのゲーム?」

 と。リシアが首を傾げながら、僕をじっと見つめながら問うてきた。

「なんか……白い猫が何かしらの計画を企ているゲーム、だった気がする」

「え、何それ」

 少し目を見開きながら、信じられないと言った様子でリシアが言う。

 ずっと昔に入れたアプリだから正直僕も内容はあまり覚えていない。以前クティラにスマホを貸した時、彼女がそれをたまたま開いてそこからハマったらしく、時折僕にやらせろとねだってくるのだ。

「……ねえエイジ、ちょっとお願いがあるんだけど」

 と。リシアがスマホをポケットにしまいながら、僕をじっと見つめながら言った。

 僕は思わず首を傾げてしまう。何だろう、何を頼むんだろう、と。

「その……宿題見せてくれないかな。私土日にやるの忘れてて……あははっ」

 少し照れくさそうに、後頭部に手を当てながら小さく笑いながら言うリシア。

 僕はそれを聞いて、一瞬思考が止まってしまった。

 思い当たりがないからだ。何も思い浮かばないし思い出せないし心当たりがない。

「えと……何の宿題?」

「ん? 数学のプリントだよ?」

 きょとんとした顔で「知ってるでしょ?」と言いたげな顔で、リシアが頭にはてなマークを浮かべながら言う。

 僕はそれを聞いて必死に思い出す。いや、思い出そうとしたけどやめた。

 存在を忘れていると言うことは、僕自身も土日に宿題をやらなかったと言うこと。つまり、リシアの頼みに答えられないと言うことだからだ。

 ゆっくりと、僕は彼女から顔を逸らす。そして、小さな声で呟く。

「……僕もやってない」

「……ぴえ」

 驚いたのか呆れたのか、リシアが変な声を出した。

 その直後、誰かが僕の肩に触れた。こんな事をするのはクティラだろうと思いながら視線をやると、意外なことに手を置いていたのはリシアだった。

 じっと僕を見つめてる。じっと、じっと、じっと。彼女は僕を見つめている。

「大丈夫……! 二人でやれば二時間目までに間に合うよ……! やろうエイジ……!」

 グッとサムズアップをしながら、僕の肩を掴む手にぎゅっと力を入れながら、リシアが言う。

 僕はそんな彼女を見て、答えるよりも先に頷いた。

 そうだ。二人でやればきっと終わる。僕とリシアの二人なら、きっと間に合う。

「わかった……。リシア、やろう。僕たちならきっとできる」

「うん……! 私、エイジのこと信じてるから……!」

「僕もだ……リシアのこと、信用してる」

「エイジ……!」

「リシア……!」

 互いの名前を呼ぶと同時に僕たちは手を出し、お互いの手をぎゅっと握り、見つめ合った。

 そうだ、僕たちならやれる。数学の宿題なんてすぐに終わらせられる。

「これがサラの言っていた時折変なお兄ちゃんとお姉ちゃん……か」

 と。僕たちを見ていたクティラが呆れた様子で、はぁと小さくため息をついた。

 スマホゲームにはもう飽きたのか、いつの間にか僕のスマホを手から離し、かなり雑に机の上に置いている。

「そういえばクティラちゃんはやったの? 数学の宿題」

 と。リシアが首を傾げながら問う。するとクティラは何故か不敵に笑いながら立ち上がった。

 そして腰に手を置き、いつものようにドヤ顔をしながら──

「そんなものは知らんッ!」

 と、かなり大きな声で叫んだ。

 その直後。リシアが僕の目では見逃してしまう超スピードで動き、いつの間にかクティラを僕とリシアの間に移動させた。

「じゃあクティラちゃんもやらないとだねっ! 宿題!」

 ニコニコしながら、幼い子を撫でるようにクティラの頭に手を置くリシア。

 するとクティラは、少し不思議そうな顔で、何故か僕の方を見た。

「……宿題って、なんだ?」

 と。何もわからないと言った感じで、じっと僕を見つめながらクティラが言う。

 ので僕は、彼女を見つめ返し、こう言った。

「……義務だ」

「……義務か」


 *


「ねーアム、ねえねえアム。ねえったらねぇアムねぇねえねえねえねえねえねえ」

「……んー?」

 ホームルーム、と言うより教師が来るまでの暇な時間。スマホをいじっていると後ろから、咲が背中をすごい勢いで物量で突いてきた。

 私はとりあえず振り向く。そして目の前に現れるのは当然咲。腕枕をしながら、全身が溶けたかのように机に伏している。

「暇だからかまって……♡」

 ニコッと笑みを浮かべる咲。私は仕方なくため息をつきながらスマホを机の中にしまって、身体全体を彼女の方へと振り向かせた。

「……で? なに?」

「んー……? アムから話題振ってよ」

「えー……そうだなぁ」

 私は何となく天井を見上げながら、小さな声で唸る。

 話題を振れと言われても何も思いつかない。会ったら話そうと思っていたネタは登校する時に使い切ったし、もうすぐホームルームが始まるから長くなる話題は出せないし。

「……んじゃあ、咲の新しい獲物って誰?」

 と、私は首を傾げながら彼女に問う。

 すると咲はニヤニヤと笑みを浮かべながら、私に顔を向けたままゆっくりと後方に指を差し出した。

「えっと……誰を差してるの?」

「愛作くん……♡」

「へ!?」

 予想外の人物の名が告げられ、私は思わず驚いてしまった。

 そして私は一度咳払いをしてから、囁くように彼女に問う。

「愛作くんって……クティラちゃんと婚約してるんだよ? 同居もしてるみたいだし、咲の好きな童貞じゃなくない?」

「うーん? 私にはわかるよ……愛作くん、間違いなく童貞だって」

「……んじゃあ咲、寝取るつもりなんだ」

「すぐ返すけどねー……初めては私が貰っちゃおうかな♡」

 ニコニコしながらとんでもない事を軽い口調で話す親友に、私は苦笑いで返すことしかできなかった。

「……あはは」

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