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117.それぞれの登校

「晴れたな! 晴れだな! こんな天気が良くて太陽が気持ちいい日はウキウキで登校できるな!」

「相も変わらず吸血鬼が言うとは思えないセリフだな……」

 朝。いつも通りの朝。何も変わらない朝。

 僕とリシアとサラとクティラの四人は、共に学校へと向かっていた。

 道が狭くてはみ出しそうになるので二列になって歩いている。僕とクティラ、リシアとサラで二人一組になって。

 四人で登校していると言っても、正直形だけだ。リシアは隣になったサラとばかり喋っているし、クティラも僕にばかり話しかけてくる。

「む……どうしたエイジ。あまり元気がないではないか」

「いや別に……学校に行くのにそんなテンション上がらないってだけだよ」

「何故だ? 楽しいではないか、学校」

「まあそれは否定しないけど……行くまでが面倒くさいなって」

「なんだそれは……」

 呆れ気味に僕を見ながら、ため息をつくクティラ。

 クティラに伝えた通り、僕は学校が嫌いじゃない。寧ろ好きな方だ。

 けれどこれもクティラに伝えた通り、面倒くさいのだ。学校に行くまでのこの時間がどうしようもなく面倒くさい。

 今はクティラが居るからまだマシだが、一人で登校する時なんて一番面倒くさい。歩きスマホは危険だからできないし、だからと言って本を読むわけにもいかない。ただただ目的地を見据えてひたすら歩くだけの時間。本当に苦手だ。

「ほら見てサラちゃん、昨日ゲットしたんだー」

「え、すごリシアお姉ちゃん……いいなー羨ましい」

「見てみろエイジ。サラとリシアお姉ちゃんは楽しそうだぞ」

 と。クティラがくるりと振り返り、一つのスマホを見ながら和気藹々と話しながら歩くリシアとクティラを指差した。

 そんなクティラに気づく事なく、二人は変わらずスマホを見ながら楽しげに会話をしている。

「リシアとサラは別に……学校が楽しみでテンションが上がってるわけじゃないよ」

「……む。それはそうだが、暗い雰囲気を醸し出しているエイジよりはマシだろう?」

「別に暗い雰囲気を出している気はないんだけど……」

「出している気はなくとも出ているのだ、お前は」

「まあ……あの二人に比べたらな」

 むすっと頬を膨らませながら、僕の頬を人差し指でつんつん突きながら、クティラが煽ってくる。

 僕はそんな彼女の指を手で払いのけ、はぁと小さくため息をついた。

「一番の原因は眠い……だな。よくわからないけど昨日、あんまり眠れなかったんだよ」

 僕はクティラの方を見ながらそう呟く。すると、彼女はキョトンとした顔で首を傾げた。

「寝ていたではないか……私より早く、私を置いて、電気が消えたとほぼ同時に寝たではないかエイジは」

「あの後頻繁に目が覚めてな……途切れ途切れに寝てたんだよ」

「ふーん……それは災難だったな」

 と。僕の愚痴を聞いたクティラは、何故かドヤ顔をしながらニヤニヤ笑みを浮かべながら、僕を馬鹿にするようにそう言った。

 ちょっとムカつく。ので、僕はそんな尊大な態度を取る彼女の頬を人差し指で一回だけ、プニっと突いた。

「……何をする」

「さっきの仕返し……的な」

「……ならば今度はこちらの番だ!」

 と、クティラがかなりの大声で宣言してきた

 それと同時に彼女は目をギランと輝かせ、両手の人差し指をピンっと伸ばし、その場で軽くステップを踏んでから僕に襲いかかってきた。

「うわバカ!? 暴れるな!」

 僕はそれを避けながら、何とか止めようと叫ぶ。

 だが彼女は止まらない。ので僕も道路からはみ出ないように、必死にクティラを避ける。

「大人しくしろエイジ! このクティラ……されて終わる女ではないッ!」

「……ッ! このバカ吸血鬼が……ッ!」

「……クティラちゃんとエイジ、なんかイチャついてるね」

「二人とも仲良いもんねー」

「うん……」

「……もしかしてリシアお姉ちゃん、クティラちゃんに嫉妬してる?」

「ぴえ!? そ、そんなまさか! そんなバカな!」

「えー……本当かな? かな?」

「……うぅ、サラちゃんのいじわる……っ」


 *


(いいなぁ……学校に行くのにあんな可愛い格好できて。ウチの制服……結構可愛いし)

 両耳にイヤホンを付けながら、何となく道を行く人を見ながら、私は一人で歩いていた。

 聴いている音楽は少し前に話題なったガールズバンドの曲。聴いてると中指を立てたくなってくる。

 一人なのは学校に友達がいないから。いや、一応エイジくんとクティラちゃんがいるけど、彼らとは家が近いわけじゃないし、わざわざ集まって一緒に登校するほどの仲ではないし。

(いつかなりたいけどね……一回でもいいから、一緒に登校してみたい)

 仲良くなりたい人たちの顔を思い浮かべながら、私は歩き続ける。

 ワンチャン偶然会ったりしないかな、なんて思いながら、自分と同じ学校の制服を着ている子達を見ながら──


 *


(やっぱこの時間が一番人多いなぁ……)

 朝、コンビニで買ったパンを食べながら。私、若井アムルは一人で通学路を歩いていた。

 私の家は学校から結構遠いから、一緒に登校する友達は一人もいない。私に合わせるの大変だろうし、私も別に誰かと一緒に行きたいわけじゃないし。どうせ学校に着いたらみんな居るわけだしね。

(本当はあの人と仲良く家を出たいんだけど……微妙に時間合わないんだよねぇ……)

 魔法少女の力を使えばそれなりに早く学校に着けるから、それを使う前提であの人と一緒に家を出てもいいけれど、魔法少女の力はあまり使わないでと言われているから私はそれに従っている。

 だから一緒に家を出れない。出たいのに。

(……眠いなぁ)

 私は一度パンを口から離して、誰も見てないだろうけれど一応手で隠しながら、小さくふわぁとあくびをした。

(……んぇ?)

 と、同時に。誰かが私の背中を叩いた。

 それに当然反応して、私は振り返る。

 そこにいたのは、クラスメイトで一番の友達。私の親友、咲畑咲だった。

「おはよっ、アム。同じ時間に学校着くとか珍しくない?」

「咲……おはよ」

 私はパンを齧りながら挨拶する。すると咲は、ぎゅっと私に抱きついてきた。

「アム……眠いから抱きつかせて。それで私を学校に連れて行って……」

「眠いって……またしてたの?」

「んー……そんなところぉ……」

 情けなくはしたなく大きくあくびをする咲。私はそんな彼女に抱きつかれたまま、歩き続ける。

「……別にとやかく言う気はないけど、気をつけなよ? 変な人に騙されないようにね? 避妊とかちゃんとしてる?」

「してるしてるー……てか昨日は女の子とだし……あ、違う。女の子ともした、だった……」

「ふーん……」

 他愛ない会話を続けながら、私は抱きつかれたまま歩き続ける。

「……ねえねえアム。私さ、今日学校に来るの楽しみにしてたんだぁ……なんでかわかる?」

「……新しい獲物を見つけたから?」

「……そっ。流石アム、私のことわかってるぅ……」

「学校でするのくらいやめたら? 先生に見つかったらやばそうだし……」

「無理無理……私、そう言うのが好きな子だもん。好きだから……好きなんだったら……しないとじゃん?」

「まあいいけど……バレて退学とかはやめてよね」

「なーにー? アム、私がいなくなったら寂しい?」

「まーねぇ……ちょっと寂しくなるかな」

 友達とのイマイチ盛り上がらない会話。だけど何となく楽しい会話。

 さっきは強がっていたけれどやっぱり、登校する時は、歩く時は誰かと一緒の方が楽しいなと改めて思う。

 話し相手がいるだけで全然違う。気が楽になる。

「そろそろ離してくれない?」

「無理……眠いもんっ」

「歩きづらいなぁ……。あ、もしかしてあの人も実はこんな気分だったのかな……」

 私は小さくため息をついて、変わらず彼女に抱きつかれたまま、学校へと向かい歩き続けた。

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