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116.夜中に目覚め飲み物を

「さあ寝るぞエイジ! 寝ようぞエイジ!」

「……なんでこっちにいるんだよ」

 午後十一時後半、僕とクティラは僕の部屋のベッドの上に居た。

 可愛らしいふわふわモコモコパジャマを着ているクティラ。どこから持ってきたのかわからないが、初めて見るコウモリのぬいぐるみを抱えながら、彼女は僕をじっと見つめてくる。

「ほら、最近私とエイジ、一緒に寝てないではないか。私たちは本来一心同体の身。共に寝るのは至極当然のこと、どちらかというと一緒に寝ていない方がおかしいのだ」

「リシアとサラの方行けよ……ったく」

 僕は小さくため息をつきながら、ゆっくりと寝転ぶ。

 するとクティラも僕の真似をしてか、その場で勢いよく寝転んだ。

「エイジ、電気消してくれ」

「はいはい……」

 ガシガシと、僕を蹴りながら命令してくるクティラに呆れつつ、僕はリモコンを手に取り、消灯を押す。

 ピッと小さく音が鳴ると同時に、ゆっくりと照明が消え、部屋全体が暗くなっていく。

 それに合わせて僕は目を閉じた。明日は学校があるし、早く寝なくては。


 *


「……んっ……んー……?」

 目が覚めた。頭がもやもやして、視界がぼやけている。

 僕は一度あくびをして、目を擦ってから、もう一度目を閉じた。

 今が何時かは知らないわからない興味がない。何故なら、目覚ましが鳴っていないと言うことは、まだ起きる時間ではないからだ。

 それさえわかっているならば十分。それさえ知れれば満足。あとは二度寝をするだけだ。

「……ダメだな」

 目を閉じて数秒数十秒数百秒。何も考えずただ寝ることだけを考えていたにも関わらず、何故かだんだんと思考がクリアになっていき、眠気が引いていった。

 仕方なく僕は起き上がる。隣にいるクティラを蹴らないように起こさないように注意しながら。

「……すー……」

 可愛らしい寝息を立てながら、普段の様子が嘘かのように静かに大人しく可憐に眠るクティラ。僕はなんとなく彼女の頭を撫でてから、ベッドを出た。

 次に部屋を出て、リビングへと向かおうと歩き出す。何故そこに向かうのか、その理由はなんとなく何かを飲みたい気分だったからだ。

 隣の部屋で寝ているであろうリシアとサラを起こさないように気を遣いながら、僕は静かに素早くリビングへと向かう。

「……ん?」

 リビングのすぐ近くまで着くと、そこから光が漏れているのに気づいた。

 僕以外に誰かが起きているのだろうか。クティラは寝ているのを間近で見たし確認したし、だとしたら、リビングに居るのはリシアかサラのどちらかだろう。

(ちょっと前にも似たようなことあったな……その時はサラだったか)

 なんとなくあくびをしながら、誰が居るのか確かめようと、僕はリビングに入った。

 そこに居たのは、椅子に座りながら何かを飲んでいるリシアだった。

 僕は何も言わずに彼女の元へと向かう。そんな僕に気づいたリシアは、少し驚きつつもいつもと変わらない優しい笑顔を浮かべながら、僕を見た。

「……どうしたのエイジ? 眠れない?」

「……ん、まあ、そんなところ」

 リシアの問いに答えてから、僕は真っ直ぐに冷蔵庫へと向かう。

 大きなペットボトルのお茶を取り出し、コップを手に持ち、そのままリシアの元へと向かう。

 空いている椅子を引いて、先にお茶とコップを机の上に置いてから、僕は椅子に座った。

 そんな僕を、リシアは何も言わずに見つめている。そして彼女は、手に持ったカップをゆっくりと口元へ近づけ、中に入っている液体をコクリと小さく音を立てながら飲んだ。

 ふぅ、と一息つくリシア。カップを机に置いて、肘を机に付けて頬杖をしながら、僕を見つめてくる。

「……エイジ、飲まないの?」

「……飲むよ」

 リシアに言われたと同時に僕はペットボトルの蓋を開け、中身をコップに注いだ。

 そしてコップを手に取り、僕は注いだお茶を一気に喉に流し込んだ。

「あはっ……いい飲みっぷり。流石男の子だね」

「リシアは……何を飲んでいるんだ?」

「私? 私はね……ココア。本当はカプチーノが飲みたかったんだけど、無かったからココア」

「そっか……」

 僕との会話が終わると同時に、リシアが上品にお淑やかにココアを飲む。

 一口飲み終えると、彼女はそれを机の上に置き、再び僕の目をじっと見つめてきた。

「あ、ねえねえエイジ……何気に二人っきりなの、久しぶりじゃない?」

「そう……だな」

 言うても少し前、二人っきりで登校したけど。と思ったけどそれは黙っておく。

 事実。周りに人がいない状態で二人っきりなのは本当に久しぶりなのだから。

「……私ね、エイジのこと好きだよ」

「……へ?」

 あまりにも急に、脈絡なしで言われたので僕はつい驚いてしまった。

 コップを落としそうになるが、それもギリギリキャッチ。危なかった、割れたら片付けるのが大変だし。

 それより今リシアは何と言った? 聞き間違いでなければ、彼女は僕のことを──

「サラちゃんのことも……もちろんクティラちゃんのことも。私ね、今が大好き。みんなでテキトーに暮らしている毎日が好き」

(あ、なんだ……良かった……そうだよな、リシアが言うんだったらそっちの好きで違いないよな……)

 自分だけで変な勘違いを起こして妙なことを言わないで済んでよかった。セーフだ、セーフ。

「仲の良いみんなで……スッゴイ楽しいこととか起きなくていいからさ。こんな風に暮らせていけたらなぁ……って、そう思うの」

 心の中だけで暴走している僕を傍目に気づかずに、リシアは静かに寂しげに語り続ける。

 彼女は儚げな雰囲気を纏いながら、ココアを一口飲んでから話を続ける。

「そんな事を考えてたんだ……エイジが来るまで、ここでココアを飲んでいた時にね」

「……そう、か」

 僕は上手い言葉を出せなかった。変にカッコつける勇気がないし、何よりリシアの語りの邪魔をしたくなかった。

 中身のなくなったカップを、リシアがじっとじっと見つめている。

 僕はそんな彼女を見ながら、再びコップにお茶を注いだ。

「ねえエイジ……」

 と。小さくも力強く、儚くも印象強く、リシアが僕の名前を呼んだ。

 僕はそれに反応して、お茶を注ぐのを途中でやめ、何も言わずにじっと彼女を見つめる。

「エイジはさ……もしも私が、エイジとこれから、これからもずっと一緒に居たいって言ったら……うんって言ってくれる?」

 いつものように優しく微笑みながら、ほんの少しだけ首を傾げながら、リシアが僕を見つめる。

 僕は彼女の視線に自らの視線を合わせ、大きくて綺麗な瞳を見つめながら、力強く頷いた。

「リシアが僕と一緒に居たいと言ってくれるなら……僕はずっとリシアと一緒に居るよ」

 我ながらクサイ台詞を、されど飾り気のない本音を彼女に伝える。

 幼い頃から一緒だった文字通りの幼馴染。大切な幼馴染。僕にとって、この世で一番大事にしたい幼馴染。

 そんな彼女の頼みを断る理由なんてなかった。僕にとって、とても都合の良いそれを。

「……えへへ。そう言ってくれると思った」

 と。リシアがすこしはにかみながら、それでも笑顔を浮かべながら、ゆっくりと立ち上がる。

 そしてカップを手に持ち、僕を見つめる。

「サラちゃんも同じこと言ってくれたんだよ……だから、エイジもきっとそう思っているだろうそう思ってくれているだろうって、私は思ってた。けどちゃんとエイジから聞くまでは、私のただの妄想で想像で理想で空想だから……」

 小さく呟きながら、その場でくるりと周り僕に背を向け歩き出すリシア。

 ゆっくりと流し台に向かい、そこにカップを置くと、こちらに戻ってきた。

 けれど椅子に座ることはなく、そこから少し離れたところから、後ろで手を組みながら彼女は僕を見つめてくる。

「ちゃんと聞けてよかった……知れてよかった。私たちみんな、同じこと思っているんだって」

「……リシア」

 嬉しそうに笑みを浮かべながらも、どこか寂しそうな彼女の姿に、僕は何も言えなくなる。

 だから見つめる。彼女を見つめることしかできない。

 じっと、じっとじっとじっと。僕は、僕たちは見つめ合う。

 とても長く、意外と短く。僕たちは互いを見つめ合った。

「……えへへ、忘れてるかもだけどエイジ、明日学校なんだよ? そろそろ寝なきゃだね……」

 と。リシアが先に動き、リビングの出口へと向かう。

「おやすみ……エイジっ」

 リシアはおやすみを僕に告げると同時に、パチンッと珍しくウィンクをした。

 それと同時に彼女はゆっくりと、足音を立てずにリビングを出て行ってしまった。

「……おやすみ、リシア」

 少し遅れて僕もおやすみを告げ、コップを手に取り中身を一気に飲み干してから、ゆっくりとその場から立ち上がる。

 そして、一度小さくあくびをしてから、自分の部屋へと向かった。

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