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114.誰もが誰かに深く強く依存している

「……恥ずかしすぎて死ぬかと思った」

 パンツを履き終え、ズボンを着て、シャツを着けた僕は小さく呟いた。

 部屋で着替えていたのはリシアとサラが風呂に入ってから数分後、急に男に戻ったからだ。

 僕は女の子の身体になっていたから仕方なく着ていただけで、可愛い服をを好き好んで着ているわけではないので、男に戻ったと同時にすぐに着替えていたのだ。

 だが、まさかリシアが入ってくるとは思わなかった。油断していた。しまくっていた。

 面倒くさいからと言って一度素っ裸になってから服を着るんじゃなかったと後悔。けどこんなの誰にも予想できないし予測できない。仕方ないことだ、これは運の悪さが招いた事故だ。

 というより、僕よりもリシアだ。僕の裸なんて見てリシアは気分を悪くしていないだろうか?

 幼い頃のリシアのあの顔を思い出し、僕は少し嫌な気分になる。あんな顔は二度とさせたくないと気を遣って生きてきたのに。

「……はぁ」

 僕以外に誰もいない部屋だけど、誰にも聞こえないように小さくため息をつく。

 部屋に鍵が付いていればいいのに、とこれほど思ったことは今までにない。

 とりあえずリシアに謝っておかなくては。そう思い僕は一歩踏み出しそのまま歩き出し、扉へと向かう。

 ドアノブを強く握って、少し躊躇しながら僕は扉を開ける。

「ぴぇ!」

「へ?」

 扉を開けると同時に変な声がした。僕は思わず扉を開け切るよりも先に、廊下を見た。

 そこには、何故かリシアが女の子座りをしていた。痛そうに頭を押さえている、まさか僕の開けた扉が当たったのか?

「ご、ごめんリシア! まさかまだここにいるとは!」

 僕は扉を半開きにしたまま部屋を出て、その場にしゃがみ込みリシアの目を見て謝る。

 するとリシアは恥ずかしそうにしつつも、ほんの少し上目遣いで僕を見て、小さく頷いた。

「う、ううん大丈夫……ありがとエイジ」

 小さく笑みを浮かべながらリシアが例を言う。それは僕が言わなければならない言葉なのに、彼女に言わせてしまった。

「それと……その……リシア。さっきの……ごめん」

 続けて僕は彼女に謝る。だらしないみっともないしょうもないつまらないくだらない裸体を見せてしまったことを。

「へ……? へ!? いやいやエイジ!? さっきのってその……私がエイジの裸、見ちゃったことだよね? 違うよ!? 私が謝るんだよ!? ノックもしないでドア開けちゃったからああなったんだし……!」

「いやでも……」

「エイジ……! ちょっとそれはダメ!」

 と。リシアは少し怒ったような口調で叫びながら、僕の両頬を軽く両手で包み込んできた。

 そしてじっと見つめてくる。大きく、可愛らしい、綺麗な目で僕の目を彼女はじっと見つめてくる。

「良くない癖だよエイジ! エイジってなんかさ……いつも私にどこか遠慮してない? 私に気を使いすぎっていうか……私のこと大事にしすぎっていうか……その……嬉しいけど……! ちゃんと良し悪しは考えるべきだよ……! だってさっきのは百対ゼロで私が悪いんだから! それを自分のせいだって謝られちゃったら私……なんかやだよ!」

「リシア……」

 精一杯にフォローしてくれるリシア。僕はそれが嬉しくて、本当に嬉しくて、物凄く嬉しくて、すごく胸が熱くなる。

 リシアはいつだってそうだ。あの時もその時も今この時も、ずっとずっと僕に優しい。

 甘えたくなる包容力。思いっきり我を出してしまいそうになる母性。彼女の優しさには本当に救われている。

 例え僕が悪くても彼女は糾弾をしない。どうしてここまで優しくしてくれるのかわからないけど、それに救われているのだから文句を言う筋合いはなく疑問を抱く必要もない。

 彼女の優しさを受けるたびに心の奥底で思う。甘えてばかりいちゃいけない、優しさばかり施してもらうわけにはいかない、と。

 それでもやっぱり受け入れたいし受け続けたい。今まで僕は、そうやって生きてきてしまったのだから。

「……ありがと、リシア」

 僕は彼女の名を呼びながら彼女の目を見ながら、力強くゆっくりとしっかりと頷く。

 それを見たリシアはどこか呆れ気味で、だけど優しく微笑みながら、小さく頷いた。

「もぅ……エイジはいつも……」

 と。小さく何かを呟きながら、リシアが僕の頭を撫でてきた。

 僕はそれを払いのける事なく遠慮なく身を委ねる。だってリシアの撫で撫で、好きだから。

 側から見たら、誰かに見られたら恥ずかしすぎて軽く死ねるけど。今は誰もいないし見てないし、たまにはいいと思う。

「じゃあほらエイジ、行こっかリビングに。サラちゃんとクティラちゃん、待ってるよ?」

「……そうかな?」

 僕に手を差し出しながらゆっくりと立ち上がるリシア。僕はそんな彼女の手を受け取りながら、素早く立ち上がった。


 *


「うんうん、あれでこそリシアお姉ちゃんとお兄ちゃんだよねぇ。えへへ……いいもの見れたいいもの見れた」

「なあサラ……私疑問なんだが?」

「ん? なになに?」

「もしかしてエイジは……主人公じゃなくてヒロインなのか? ラッキースケベが起こるというよりも、ラッキースケベを起こされているような気がするのだ」

「……あー。私もちょっと前にお兄ちゃんが着替えてる時に洗面所に突撃しちゃったし。確かによくよく考えたら普通逆だよね、私が見られる側だよね」

「うむ……私は勘違いしていたのかもしれない。もしかしたらリシアお姉ちゃんが主人公で、エイジがヒロインなのかもな」

「……その、なに? クティラちゃんは第四の壁を超えて、神目線でお兄ちゃんとリシアお姉ちゃんを見てるの?」

「否、私は所謂オタクという生き物に近いだけだ」

「へぇ……じゃあさ、クティラちゃんはナマモノとかが好きなの?」

「んぇ? ナマモノ……? 確かに私は、焼き魚煮魚よりもお刺身の方が好きだぞ」

「ん? あ……」

「どうしたんだ? サラ?」

「……んにゃ、なんでもない」

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