105.お留守番シスターズ
「……んー……っはぁ」
お兄ちゃんとクティラちゃんがいないためか、とても静かなリビングで私は変な声を出しながら背伸びをする。
全身に力を込めて、全身の力を抜く。この世で最も開放感を得られるこの動作、私は大好きだ。
手に持っていたスマホを置いて、暇だから構ってもらおうと、私はリシアお姉ちゃんを探す。
「……あれ? リシアお姉ちゃん?」
さっきまで。私がスマホで動画を見始めるまで、確かに椅子に座っていたのに、彼女の姿が見当たらない。
私はソファーから立ち上がり、改めてリビングを見回す。けどやっぱり、リシアお姉ちゃんはいない。
(外に行ったのかな……? ううん、リシアお姉ちゃんなら、ちゃんとどこに行くか伝えてから行くよね)
私は思わず首を傾げる。どこに行っちゃったんだろう、と。
「……もしかして」
ふと、私は閃いた。閃いてしまった。
そして察した。把握した。想像が付いた。
私は一度あくびをしてからリビングを出て、真っ直ぐにお兄ちゃんの部屋へと向かう。
一応ノックをしようかと思ったけど、やっぱりやめて私は勢いよく扉を開いた。
「リシアお姉ちゃーん?」
「ぴえ!?」
予想通り想像通り理想通りやっぱり。リシアお姉ちゃんはお兄ちゃんの部屋にいた。
何やら顔を赤らめながら、彼女はお兄ちゃんのベッドの上に座っている。
可愛らしく女の子座りをしている彼女は、私が部屋に踏み入ると同時に、布団をぐちゃぐちゃにしながら急いで立ち上がった。
「えっとね! これは……その……えと……そうなの! じゃなくて! どうなの!?」
(な、何が……?)
明らかに情緒不安定になっているリシアお姉ちゃんの言動に、私は思わずはてなを浮かべながら、首を傾げてしまう。
お兄ちゃんの部屋に居たことがそんなに恥ずかしかったのかな。
「そ、それでサラちゃん! 何かな何かな!?」
そわそわと、全身を落ち着かせずに色々と身振り手振りをしながら問いかけてくるリシアお姉ちゃん。
頬はりんごのように真っ赤になっていて、急いで立ち上がったからか暴れているからかパジャマが所々はだけていて、額には冷や汗が浮かんでいる。
私はそんな彼女を見てつい笑ってしまった。いくらなんでも焦りすぎだと思う。
とりあえず私は何も言わずに、そのまま彼女の元へと行き、なんとなく抱きついた。
「ぴえ!? な、なに……!?」
「ん? なんとなく……暇だから構ってほしいなーって」
リシアお姉ちゃんの胸元に、私は顔を埋める。ドクンドクンと、心臓の音が凄く五月蝿い。けど、凄くいい匂いがする。
「あのー……サラちゃん? 恥ずかしいんだけど……」
リシアお姉ちゃんの言葉は聞かずに無視して、私はほんの少しだけ、彼女を抱く力を強めた。
お兄ちゃんやクティラちゃんがいる時は恥ずかしいから、今のうちに甘えておかなくてはいけない。
私が素直に甘えられるのはこの世でただ一人、大好きなリシアお姉ちゃんだけなんだから。
優しくて、ふわふわで、可愛くて、素敵な最高のお姉ちゃん。すぐバカにしてきたり、どこか見下してくるようなお兄ちゃんとは大違いだ。
お兄ちゃんとはそういう関係でいいけど。ずっと、そう言う関係で良いはず。だって兄妹なんだから。
「……サラちゃん」
と。リシアお姉ちゃんが私の頭を撫でながら、いつもの優しい声色で私の名前を呼んだ。
それに反応して、私は思わず頭を上げてしまう。そして視界に入ったのは、まるで女神のように微笑むリシアお姉ちゃんの笑顔。
「あはは……サラちゃん、昔からあんまり変わんないね。覚えてる? 小さい頃もよく、私にこうやって抱きついてきたの」
「……そりゃ、覚えてるよ」
忘れるわけがない。私がどれだけリシアお姉ちゃんに甘えて、リシアお姉ちゃんに頼ってきたことか。
お父さんとお母さんは厳しめだから少し怖いし、お兄ちゃんにはなるべく甘えたくないし。だからリシアお姉ちゃんに私は依存してきた。
それだけ好きだと言うことは口には出さないし、絶対伝えないけど。この前ちょっと好意を伝えたら、めちゃくちゃぎゅっと抱きしめられて痛かったから。
「えっへへ……可愛い可愛い……あーあ……サラちゃんが本当の妹だったらなぁ……」
(……あ、そういえば)
「戸籍上で早く繋がりたいなぁ……えへ……えへへへ……」
「……ねえ、リシアお姉ちゃん」
ふと、私はあることを思い出したので、それをリシアお姉ちゃんに尋ねることにした。
「んー? えへへ……かわわ……」
私が彼女の名前を呼ぶと、だらしなくにヘラと笑みを浮かべるリシアお姉ちゃんは、ほんの少し首を傾げた。
私は特にそれに言及することなく、話を続ける。
「お兄ちゃんの誕生日がもうすぐって……覚えてる?」
「えー? エイジの……誕生……ハッ!?」
「クティラちゃん関係で色々あったから忘れてたよね……」
「……うん」
と。私たちは苦笑いをしながら目を合わせる。
お兄ちゃんの誕生日プレゼント、実はまだ決まっていない。リシアお姉ちゃんに相談しようと思ったその日に色々ありすぎて、そこから良いタイミングが無くて、すっかり忘れかけていた。
リシアお姉ちゃんも同じだったみたい。凄く驚いた顔をしてショックを受けてる。
「お兄ちゃんちょうどいないし……考える? リシアお姉ちゃん」
「うん……! そうしよサラちゃん……!」
と。リシアお姉ちゃんは顔をキリッとさせ、私をぎゅっと抱きしめながらベッドの上に乗る。
(抱きしめられるのはいいけど……ちょっと痛い)
お兄ちゃんたち、今頃何してるのかな?




