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103.誰かと繋がる楽しさ怖さ恐ろしさ辛さ嬉しさ

「うーん……どうしようかな……どうしようかな……」

 私、広末敬一は自分の部屋で唸っていた。

 今日のお昼に出会った男の子、愛作エイジくんに電話をするか否かで迷っているからだ。

 電話をしたい理由は相談事があるから。チャットでもいいけど、やっぱり私は直接会ってお話がしたい。エイジくんと。

「う……っと……でもなぁ……」

 相手に初めて電話をするのってすごく緊張する。どういう声色口調で話せばいいのかとか、そもそも電話に出てくれるかなとか、迷惑じゃないかなとか、色々考えてしまう。

 私は手に持つスマホに表示された時刻を確認する。遅いのかそうでないのか微妙な時間、午後九時五十分ジャストだった。

「……っ」

 固唾を飲みながら、私はメッセージアプリを開き、エイジくんを選ぶ。

 左下に表示された通話ボタン。押すか否か、迷いながら私はそこへ向け親指を近づけた。

 ドキドキ。ドキドキ。ドキドキと、心臓がすごくうるさく酷く速く鳴っているのを感じる。

「うぅ……あーダメだッ!」

 私はスマホの画面を暗くしてから、それが傷つかないようにベッドの上に放り投げ、叫んだ。

「……もう……もうっ……!」

 ほっぺがすごく熱い。それ故きっと顔が赤くなっているのだろうと推測する。

 ずっとドキドキが止まらない。電話をするだけなのに、簡単なことなのに、一歩踏み出せばいいだけなのに、それが出来ない。

「……でもやっぱり……」

 私は自分の両頬をパンパンッと叩き、自分を落ち着かせてからスマホを手に取った。

 右側に付いているボタンを押して、ロックを解除して、私は再び画面を表示させる。

 スーハーと深呼吸。すー、はー、と一呼吸。

「……無理ぃ」

 へにゃへにゃと全身の力が抜けていく感覚。私はそのまま、ゆっくりとベッドに倒れ込んだ。

 すぐ近くに置いてあったウサギのぬいぐるみを手に取って、自分の胸の鼓動を感じながら私はそれを抱きしめる。

 とても柔らかいウサギさん。ぎゅっと、ぎゅっと。恥ずかしさを押し殺すかのようにそれを抱きしめる。

「……バカバカバカ」

 ウサギさんに顔を埋めながら、私は自分を罵倒した。

 本当にバカだ。友達に電話の一つや二つ出来ないで、これからどうやって社会で生きていくと言うんだろう。怖い先輩とか、先生とかじゃなくてただの友達なのになんで電話できないんだろう。

「……どうしよ」

 頭の中で嫌な想像が、次々と巡る。

 電話をしたタイミングが最悪で、縁を切られたらどうしよう。

 電話の内容が気持ち悪くて、縁を切られたらどうしよう。

 電話越しの声とか喋り方が変で、縁を切られたらどうしよう。

 電話するほどの仲じゃないのにと呆れられ、縁を切られたらどうしよう。

「……やだなぁ」

 電話をするのがじゃなくて、こんな事を考えちゃう自分が嫌だ。

 わかっている。自分に自信が無さすぎて、変な被害妄想をしちゃう阿保だってことは。

 けど考えずにはいられない。私の趣味を知った人は、私をちゃんと知ってしまった人たちはみんな、私のそばから居なくなってしまったのだから。

 もしもエイジくんに電話をかけて、何か変なミスをしてしまったと考えたら──

──怖い。エイジくんと仲良くなって、彼がより私を知って、幻滅して、消えてしまうんじゃないかと考えると、すごく怖くなる。

(ううん……違う……違うよ……なんか軸がズレてる……)

 心の中での自分語りを否定するために、私は何も言わずに、ウサギさんに顔を埋めながら頭を左右に振る。

 怖いと言うのもある、あるにはあるけど。それだけじゃない。私は恥ずかしがっているんだ。

 本当はわかっている。エイジくんがそんな人じゃないって。ちょっと変なことをしたくらいで縁を切るような人じゃないって。

 だって血を吸おうと襲おうとした私を、彼はそれでも友達だと言ってくれたんだもん。優しい言葉、温かい言葉、思い出すだけで胸がキュンッとしてポカポカッと暖かくなる。

 そんな彼に甘えることを、私は恥ずかしいと思っているんだ。

 あまり人に甘えたことがないからだと思う。だって、自分を知られたくなかったから。

 素直な気持ちを出したら、素直な自分を表に出したら嫌われるって、キモがられるって。なんとなくわかってたから。

 けど、けど、けど──

 エイジくんはもう知ってくれている。私のダメなところ、汚いところ、弱いところ、その全てを。

 知った上で彼は言ってくれた。ずっと友達だと。

「大丈夫……大丈夫……勇気出せ私……私……!」

 私はウサギさんを抱いたまま起き上がりその場で座り、スマホを片手に固唾を飲む。

 そして意を決して、プルプルと震える指で通話ボタンを押した。



「うん……わかった。じゃあケイ、また明日な」

「それで? ケイは何と言っていたのだ?」

「明日一緒に遊ばないかってさ。なんか相談したい事もあるみたいだし」

「うむ! ならば明日が楽しみだな!」

「……やっぱり来るのか?」

「当然だろう?」

「……ケイに言っておいてよかった。クティラも来るかもっ

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