102.銀髪赤眼美少女お兄ちゃんと湯上がり狩人天使お姉ちゃん
「出たぞ! 私がなッ!」
「出たよーサラちゃんどうぞー」
テレビを見ていると、後ろから五月蝿い声と優しい声が聞こえてきた。
僕は声の主がわかっているにも関わらず振り返り、声の主を確認。当然、そこに居たのはクティラとリシア。お風呂から出たてで、二人とも全体的に濡れている。
クティラは何故かノーマルクティラになっているし、全身から湯気が出ていた。一緒に入っていたはずのリシアからは出ていないのに。
「……よし。じゃあ私行ってくるかな。私で最後だよね? お風呂。お兄ちゃん入ったっけ?」
「一番最初に入ったよ」
「そ。じゃあ行ってきまーす」
やる気なさげに、僕を一瞥もせずに会話を終わらせ、スマホの画面を見ながら脱衣所へと向かうサラ。
いつも通りだ。僕は特に気にせず言及せず、テレビの方へと視線を戻した。
「よっと……どうだエイジ?」
と。何故か嬉しそうに僕の名前を呼びながら、クティラが隣に座ってきた。
口角を上げニヤついているクティラ。いつものドヤ顔とは違う、どこか僕を試しているかのような顔。
僕は思わず首を傾げてしまった。彼女の意図が全くわからない。
しばらく見つめ合っていると、クティラはため息をつきながら僕から視線を外し、すぐそばに立っていたリシアを見上げた。
「なあリシアお姉ちゃん……エイジってモテないだろ」
「は?」
突然罵倒され、思わず声を出してしまった。
そしてその直後に、僕はリシアを見る。彼女がクティラの問いにどう答えるか気になったからだ。
「あー……うん……エイジはモテてないと思う……」
「リシア……!?」
いつもは優しくフォローをしてくれるリシアが、今日は、今回は何故かしてくなかった。そんな彼女は頬を少し掻きながら、僕たちの方を見ずにそっぽを向いている。
リシアがフォロー出来ないほどって、僕はどれだけモテていないのだろうか。
ていうか、なんで今その話になった。
「仕方がないな……見よエイジ、私の髪型をよく見よエイジ」
と。クティラが呆れ気味に僕を見ながら、自身の束になっている髪を片手で持ち、上下に動かす。
僕はまたも思わず首を傾げる。意味わかんない。
「……あ?」
そこでようやく気づいた。よく目を凝らしてみれば、クティラの髪型が変わっているではないか。
普段はシンプルストレートなクティラだが、今の髪型は三つ編みされたサイドテールになっている。元々小さく童顔なクティラが、髪型も相まって普段よりも幼く見えてきた。
「……なるほど髪型が変わっていたのか。全然気づかなかったよ」
と言うと、クティラが呆れ気味にため息をついた。ついでに後ろにいたリシアも。
クティラはともかく、リシアにため息をつかれたのは結構ショックだ。胸の辺りが一瞬ズキンッと痛む。
「このラノベにも書いてあったぞ。女の子の髪型が変わったことに気づかない男は最低なダメ男だ、と」
どこからか取り出したラノベを開き、僕に見せつけてくるクティラ。
書かれた本文を見ると確かに、そう書いてある。
「エイジ……私が髪型変えた時もあんまり言ってくれないもんね」
と、いつの間にかクティラの隣に居たリシアが悲しげに言う。
「い、いや! リシアのは気づいてるよ!? 一々言わないだけで……!」
僕は両手を勢いよく振りながら、リシアの言葉を急いで否定する。
嘘は言っていない。僕はいつもリシアをちゃんと見ているから、少し変なところがあったらすぐにわかる。
けど一々言わないだけだ。変なことを言って関係が拗れたら嫌だし、何より僕が変に意識しているみたいで恥ずかしいし。
「一々言うことが大事なのだぞ、エイジ」
と。ラノベ片手にドヤ顔をするクティラ。
そのアドバイスもラノベが出典なのだろうか。気になったけど、僕はあえて聞かない事にした。
なんかラノベ知識で説教されていると思うと変な気分になる。無論ラノベが悪いとか信用できないとかそう言うのじゃなくて、それをドヤ顔で語る吸血鬼というシチュエーションが意味わかんないというわけで。
「じゃあじゃあエイジ、私がお風呂入る前後で変わったところ、わかる?」
と。リシアが身を乗り出して、人差し指で自分を差しながらニコニコと問いかけてきた。
僕はそんなリシアを見て、思わず首を傾げてしまう。
リシアの変わったところが全然わからないからだ。強いて言うなら、風呂上がりが故に全体的に湿っているところ。
「……くっ」
一瞬前、リシアのことはちゃんと見ていると言ったばかりなのに、違いを答えられない自分が情けなく思えてくる。
悔しい。ムカつく。自己嫌悪とそれに連なる自らへの怒りで、僕は拳を握りしめ唇を噛み締める。
「……ごめんリシア、わかんない」
僕は正直に答えた。リシアにはなるべく嘘をつきたくないからだ。
ここは素直に謝っておいた方がいい。僕が百悪いのだから。
「……ぴぇ」
と。意外な反応が返ってきた。いつも通り頬を膨らませながら不満そうな顔をしながら睨みつけてくると思ったのに、彼女は何故か照れくさそうに頬を赤く染め、両手で両頬を押さえている。
「ほんとにちゃんと見てくれてるんだ……エイジ……」
小さな声で何かを呟くリシア。小さすぎて、か細すぎて、よく聞こえなかった。
「うむ、よかったな! リシアお姉ちゃん!」
「……えー……と?」
照れくさそうなリシアと、嬉しそうに彼女をベシベシと叩くクティラを見て、僕は思わず首を傾げる。
(女の子ってわかんねぇ……)
心の中でそう呟きながら、心の中だけで僕はため息をついた。




