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101.風呂トリアム

「……やる事ないなー」

 見慣れた実家の天井を見上げながら、僕はボソッと呟いた。

 ショッピングモールから帰ってきた数時間。夜ご飯を食べ終え風呂も終えた僕は、何もやることがなかった。

 サラはスマホで動画を見て一人で楽しんでいるし、リシアは現在クティラと入浴中。故にぼっち。

「やる事ねーなー……」

 今度は少し大きな声で、僕は暇を宣言。

 そしてサラを一瞥。彼女は僕の声に反応する事なく、ニヤつきながらスマホと睨めっこ。

「……マジで暇だな」

 はぁ、と小さくため息をつきながら。今度はサラに聞こえぬよう小さな声で呟いた。



「ふへぇ……やっぱりお風呂はいいなぁリシアお姉ちゃん」

「そーだねー」

 天井を見上げながら、クティラちゃんが泳ぐパチャパチャ音を聞きながら、私は一息ついた。

 今日は大変だった。けど、サラちゃんに彼氏が出来てなくてよかったと、心の底から安堵のため息をつく。

「なあリシアお姉ちゃん」

 と、浮き輪でぷかぷか浮くクティラちゃんが話しかけてきた。

「んー?」

 私はテキトーに返事をしながら彼女に視線を合わせる。すると意外に、彼女は真面目な顔をしていた。

「……どうしたの? クティラちゃん」

 真面目な雰囲気な彼女に合わせ、私も真面目な雰囲気を纏う。

「リシアお姉ちゃんは……気づいたか?」

「気づいた……?」

 真面目な顔でシリアスな声色なのに、浮き輪で浮きながらその場でくるくると回るクティラちゃんの姿に、そのギャップに、私は思わず笑いそうになる。

 けど我慢。我慢しなきゃ。真面目な話しそうだし。

「ケイが半パイア、という事にだ」

「んぇ? ケイって……ケイちゃんの事?」

 名前を聞いても一瞬、顔が出てこなかった。

 ので。私はその名前を呟きながら、その子の顔を思い浮かべる。

 そうだ。居た、確かに居た。サラちゃんがデレデレになっていた可愛い子が。

 サラちゃんがあまりにもデレデレすぎて私はあまりあの子と話せなかったから、どんな子なのか正直、よくわかってないけど。

 その子の事をクティラちゃんは今何て言った? 確か、半パイアと──

「うぇえ!? あの子もヴァンパイアなの!?」

「……やはり気づいてなかったのか、リシアお姉ちゃん」

 全然気づかなかった。どこもヴァンパイア要素無いし、ただの可愛い男の子だと思っていた。

 いやでも言われてみれば確かに、ヴァンパイア特有の気配が少し出ていたかも。でも思い返せばそうだったかも程度で、その場に居ても集中して彼を見なければ気づかなかったと思う。

「それでだが……私は懸念しているのだ。いつかケイがヴァンパイアハンターに襲われるのでは? とな」

 相変わらず浮き輪に捕まりながら、その場でくるくると回りながら、真剣な声で顔で喋るクティラちゃん。

 なるほど確かに。ヴァンパイアハンターの三割が持つ信条は見敵必殺、見敵必殺だ。ケイちゃんを見つけ次第、倒しにかかる不届きものが居てもおかしくない。

 でもそれは、相手がヴァンパイアだと確証を得てからだ。

「まあケイは慎重な性格だから正体がバレるような迂闊な行動はしないと思うのだが……一応、リシアお姉ちゃんには伝えておくべきだと思ってな」

「うん……多分大丈夫だと思うよ。私もクティラちゃんに言われなきゃ気づかなかったし」

 私は力強く頷きながらクティラに言う。

 正直、今でもケイちゃんがヴァンパイアだと確信は出来ていない。あまりにも普通の、そこら辺にいる可愛い子にしか見えないから。

 それにしてもクティラちゃん以外にもこの街にヴァンパイアが居たとは驚きだ。しかもケイちゃんは私と同じ学校、それなのに気づかなかったんだからカモフラージュがすごい。

 それとも半パイアだからかな。それで気づかなかったのかな。

「さてと……話も終わったし、ではではリシアお姉ちゃんッ!」

 と、何故かクティラちゃんはドヤ顔をして、突然浮かび上がる。

 それと同時に何か不思議な呪文を唱え始める。そしてその直後、ポンっとサッカーボールを蹴った時のような音が鳴ると同時に、クティラちゃんが大きくなった。

 ドボンっと大きな音を立てながら、クティラちゃんが浴槽に降り立つ。

 綺麗な裸体を私に見せつけながら、腰に手を当てながらニヤリと笑うクティラちゃん。意図が全然わかんない。

「洗いっこしようではないか! 漫画やラノベで見たぞ! こうして女子同士は仲良くなるのだとな!」

 大きな声で叫ぶクティラちゃん。彼女の綺麗で透き通る声が、ほんの少し曇りつつ浴室に鳴り響く。

「……別にいいけど、必要な通過儀礼ではないと思うよ?」

 否定する理由もないし、したら面倒な事になりそうだし。私は苦笑いをしながら、ゆっくりと立ち上がった。

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