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99.懐かしきM法の血

「──さん」

 誰かが私を呼んでいる。

「──さん!」

 大きな声で私の名前を呼んでいる。

「──さんってば! えいっ!」

「うぎゃあ!?」

 私の名前を呼ぶ誰かが飛び乗ってきた。私は思わず、情けない悲鳴をあげてしまう。

 目をゆっくりと開けながら、目をゴシゴシと擦りながら、情けなくあくびをしながら。私は起き上がる。

「やっと起きた……もうすぐお昼ですよ?」

 私の上に全身を乗っけている可愛い女の子──アムルちゃんが頬を膨らませながら、布団をバシバシ叩きながら、不満そうに言う。

 私はとりあえずテキトーに頭を下げながら、謝っておいた。

 せっかくの休日だし、もう少し寝ててもいいと思うんだけどなぁ。

「全くもう……おやすみだからって、寝過ぎはよくないんですよ? 平日休日問わず、規則正しく健康的に生きないと長生きできないんですからね」

 と。アムルちゃんが私の右腕に抱きつきながら言う。

 ので。私は彼女の頭を優しく撫でてあげた。

「……誤魔化そうとしないでくださいよ」

 上目遣いで私をじっと見つめながら言うアムルちゃん。不満を口にしているけれど、頬を赤く染め口角を少し上げているから、内心喜んでいるのが丸わかりだ。

 相も変わらずチョロい。それ故可愛く愛おしい。

 私はそんな彼女を撫でながら、もう一度あくびをしてから立ち上がった。

 それに合わせてアムルちゃんも立ち上がる。彼女は何故かニコニコと笑みを浮かべながら、私に全身でぎゅっと抱きついてくる。

 アムルちゃんの柔らかい身体を全身で感じ、少し恥ずかしい気持ちになってくる。脳裏に浮かぶのは彼女の裸体。

 朝から何変なこと考えているんだ、気持ちわるい。私はアムルちゃんにバレないように自分の左腕をつねり、自身を戒めた。

「今日は休みなんですよね? デートしません? デート」

 目をキラキラと輝かせながら、鼻息をフンフンッと鳴らしながら、アムルちゃんはより力を込めて私に抱きついてくる。

「ごめんアムルちゃん……疲れてるからあまり外行きたくないんだ」

 私は心の底から罪悪感を抱きながら彼女に謝る。私もアムルちゃんと遊びに行きたいとは思っているけれど、平日の疲れが土曜日は溜まりすぎている。

 土曜日はダメだ。せっかくの休みだと金曜にはウキウキするのに、いざ土曜日になると何もやらなくていい安心感と何もしなくていい責任感の無さが私をだらけさせる。

 だからといって日曜日に遊びに行くのも嫌だ。どうせ明日からまた仕事だと思うと本気で楽しめないし、若干鬱になる。

 ので、休みの日はどこにも行きたくないし何もしたくない。

 そんな私のグータラさで元気いっぱいアムルちゃんに不満を抱かせているのは本当に申し訳ないと思うけど、やっぱ無理。

「むぅ……またそれですか? もう何ヶ月もデートしてない……ていうか同棲してから一回も……むぅぅ」

 不満そうに喉を鳴らしながら、私をじっと睨みつけてくるアムルちゃん。

 ぎゅっと、ぎゅっと。物凄く強い力で抱きついてくる。

 抱きつかれるのには慣れているので、私はこのままベッドを降り、部屋を出た。

 そして廊下を歩き、アムルちゃんと共にリビングへと向かう。

「むうううう……! 私たち結婚してるようなものなのに……! 欲求不満ですッ!」

 と。アムルちゃんが俯きながら力強く言う。

 同棲はしているけれど、それで結婚にはならないと思う。て言うか、正確に言うと一応カップルでもないし。

 ので、私はそう思っているよと。彼女にやんわりと伝えることにした。

「んー……ごめんアムルちゃん。私は別に結婚したつもりはないし気もないよ」

「……私のこと、好きですよね?」

 私が素直な気持ちを伝えると、アムルちゃんが上目遣いで目を細めながら、じっと睨みつけながら言った。

 彼女の問いに、私は頷きながら答える。

「うん、大好き」

「じゃあ結婚してるも同義じゃないですか!」

 耳元で叫ばれ、キーンと耳が痛みを感じた。すごく、微妙に絶妙に痛い。

 と同時に。右腕が骨を軋ませながら悲鳴をあげた。やばい、アムルちゃんの抱きつきパワーが最大レベルに達している。このままじゃ私の右腕、折れる。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」

「ふぇ……? あ、ごめんなさい……」

 私が思わず悲鳴を声にすると、アムルちゃんはしょんぼりとして、抱きつく力を弱めた。

 普通は離れるのに、抱きつくのをやめないのがアムルちゃんのいい所だと思う。本当に。

 彼女が私を本当に好きなんだと実感できて嬉しくなる。私、あまり人に愛されない人間だし。

「……あー! またアーちゃんとイチャついてる……!」

 と、廊下を歩いてると突然現れた女性が私たちを指差しながら、大声で叫んできた。

 彼女はラルカ。アムルちゃんのお姉さんで、この前新しく増えた居候。フルネームは忘れた。

「ねぇ……何度も言ってるよね? アーちゃんは私の妹なの……そんなに抱き付かないでくれる……? 私のアーちゃんなんだからさ……私とずっと一緒にいたアーちゃんなんだからさ……返してよ……取り戻すよ……? 実力行使本気の本気でビーム撃つよ……?」

 と。ラルカは瞳孔をぐるぐるとさせながら、ゆらゆらと全身を揺らしながら、人差し指を噛みながらぶつぶつと呟き始める。

 彼女と出会うといつもこんな感じだ。彼女は私とアムルちゃんが付き合っていると誤認していて、私の顔を見るたびにこんな風に怒ってくる。

 居候なのに偉そうだなぁとちょっと思うけど、正直どうでもいいかなとも思っている。

 平和だし。

「お姉ちゃんこそ! 私たちの邪魔したら絶縁するって言ってるよね!? ビームとか撃ったらマジで絶縁するからね!?」

「ひぇ……ご、ごめんねアーちゃん! お姉ちゃんを嫌いにならないで!」

「うぎゃあ!? 抱き付かないでよ! バカお姉ちゃん!」

「……なにこれ」

 姉妹のよくわからない茶番を見ながら、私は思わず苦笑い。

 でも、なんだかんだ嬉しそうな顔をしているアムルちゃんを見て、私はちょっと嬉しくなる。

 学校で友達も新しく増えたみたいだし、私と違っていい人生を歩んでいるようで何よりだ。

「アムルキックッ!」

「ぐぇえ!?」

 と。アムルちゃんがラルカを思いっきりキックし、壁に打ちつけた。

 情けない悲鳴をあげながら打ち付けられるラルカ。大丈夫なのかな、大丈夫か。

「……もうっ。ほら、行きましょ!」

「はいはい……」



「コーヒーっていっぱい飲んできたけど……結局全部なんか苦い、ってだけだよね……私味音痴なのかな」

 誰に訊かせるでもなく、私は一人椅子に座りながら呟く。

 現在時刻午前十一時くらい。私の右腕には珍しくアムルちゃんがいない。

「──さん! えっへへ! どうですかこの服! 可愛いですか!?」

 と、噂をすれば本人が。ドタドタと足音を大きく鳴らしながら私の目の前にやってきた。

 その場で立ち止まり、質問通り服を品評してもらうため、くるっと一回転をするアムルちゃん。

 確かに可愛い服を着てる。私、服とか詳しくないからよくわからないけれど。

「うん……可愛いよ」

 とりあえず私はそう言う。別にお世辞じゃないし、心の底からそう思っているし良いよね?

「えっへへ……えへ……そうですか? 嬉しいです……」

 両頬に両手を添えて、嬉しそうに口角を上げながら照れくさそうに笑うアムルちゃん。

「……どこか出掛けるの?」

「はい! 本当はデートしたかったんですけど……やる気なさそうなんで……あーあ……デート、したかったなぁ……はぁ……」

 と、わざとらしくため息をついて、俯きながらも私をじっと見つめてくるアムルちゃん。

 私はそんな彼女から思わず目を背ける。申し訳なさで。

「友達と……? じゃあ、咲ちゃんと?」

「いえ、咲はなんか忙しいみたいで……」

「じゃあもしかして、この前友達になったって言うクティラちゃんとリシアちゃんと、サラちゃん?」

「いえ……リシアちゃんたちなんか忙しいみたいなので。お姉ちゃんと遊びに行きます」

「そう言うこと! ふぅうはははははぁ! 私の時代がキター! 今の時代は姉妹百合だよねぇ! 歳の差カップルとかコンプラ的に危ういもんねー! あは! あはは! あははははは!」

 と。突然現れたラルカが高らかに笑いながら、私を嘲笑うように煽るように指で差しながら、ドヤ顔を決めてくる。

 歳の差カップルって、ラルカとアムルもそうじゃないの? と思ったけど口には出さないことにした。面倒くさくなりそうだし。

「お姉ちゃん……絶対に外じゃそのノリ出さないでよね? 恥ずかしいから」

「はーい! アーちゃんとデート♡ アーちゃんとデート♡」

「お出かけだから!」

「え……アーちゃん……なんでそんな強く否定するん……?」

 アムルとラルカのしょうもない茶番を見ながら、私はコーヒーを一口飲む。

──やっぱり苦い。

「それじゃあ行ってきますね! 午後六時には帰るんで待っててください!」

「うへへへぇ……アーちゃんと何しようかな……かな……」

「ほら、行くよお姉ちゃん」

 妄想に耽るラルカの耳を引っ張りながら、アムルちゃんが私に手を振りながら部屋を出ていく。

 私もアムルちゃんに手を振りかえし、いってらっしゃいとジェスチャー。

 彼女たちが部屋を出た後、私はなんとなく天井を見上げ、思った。

──なんかこういうの、久しぶりだなって。

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