人間の姿を維持する魔道具
「何か手があるのか?」
人間の姿を維持したかった俺は、デルの呟きを聞き逃せなかった。兄さんのことも、この身体のことも、調べたいことは山ほどあるが、そのためには人間の姿でないと難しいからだ。ドラゴンが人語を話せるとか、こっちでは魔獣も人間と同じように暮らしているとかならいいけど、今のところそんな様子はない。となれば、やっぱり人間の姿にならないとどうしようもないだろう。
「この距離でよく聞こえたね……」
「ああ、ドラゴンになってから耳は凄くよくなったんだ」
これは嘘じゃない。ドラゴンの身体になってからは五感が鋭くなったと思う。湖の中にいてもデルの声が聞こえるのもそのせいだろう。
「魔道具?」
「ああ。主に魔石を利用して作る道具さ。異常状態を無効にしたり、防御力を上げたりと、何らかの効果が得られる道具だよ。帝国にはなかったかい?」
「帝国では……そう言えば、騎士達が身体能力を上げる指輪を使っていたが……」
「ああ、それもそうだね」
帝国では騎士が使うものとしてあまり馴染みなかった。こっちでは一般的に使われているのか。
「一応、変装を維持する魔道具はあるよ」
「あるのか?!」
「あ、ああ。だけど……」
「だけど?」
「見た目は問題ないだろうよ。だけど、サイズがねぇ」
「サイズ?」
「ドラゴンを人間の大きさに、ってのが問題さね」
なるほど、変装の魔術は見た目を変えるだけで、物理的なサイズを変えるものではないらしい。大人を子供にするくらいなら辛うじて出来るが、俺の場合は三、四倍だ。この差を埋めるのは難しいらしい。
「腕のいい魔道具職人がいる。あの者なら何とかなるかもしれんが……」
「そうなのか?」
「保証は出来んね」
「それでも構わねぇよ。紹介してくれ!」
こうなりゃ出来る事は何だってやってやる。
「紹介くらいはしてやるけど、その前にせめて三日は維持出来るようにしないとね」
「三日か……」
簡単に言ってくれる。今は一日だって難しいのに……
「しかし、そこまで人間になりたいかねぇ……」
デルはドラゴンになったのならドラゴンで生きればいいじゃないかという。ドラゴンの方が寿命も長いし強いし、何と言っても自由だから。
「元々人間なんだから仕方ねぇだろう。第一、どうしてこうなったかもわからねぇんだぞ? 怖いじゃねぇか」
「まぁ、確かにそうじゃが……」
ドラゴンになった理由がわからない以上、安心なんて出来そうもなかった。何かの呪いかもしれないのだ。今のところ体の不調もないが、知らない間に、気付かない間に何かが起きている可能性だってある。
それに、俺の身体がどうなったのか、それも知りたい。あのまま死んでしまったのか、それとも……
「変な奴じゃな。最初は自由だー!なんて喜んでたくせに」
「あん時は本当にそう思ったんだよ。ずっと寝る間も惜しんで働いていたからな」
「帝国もろくなところじゃないね」
「ああ、日が経つにつれて段々そう思うようになったよ」
「日が?」
デルが訝し気に俺を見上げた。
「あ? ああ。なんていうか、こっちで過ごすようになってから、頭がはっきりして来たっていうか。前は疲れ過ぎていたのか、あんまり考えることが出来なかったみたいで。兄さんのことも、ああそうか、くらいしか思えなかったな」
上級魔術師になってからは、一層忙しくなって休みなんてなかった。スタンピードが増えて出動回数も増えたし、上司が自分の仕事まで俺たちに押し付けたから、寮に帰って自分のベッドで寝るよりも、執務室のソファで寝る日の方が多かったくらいだ。
「今は違うのかい?」
「ああ、今は腸が煮えくり返るくらいに怒りを感じているな。不思議なもんだよ」
兄さんが死んだと聞いた時も、侍女と会った時も、悲しみはあっても怒りはあまり感じなかった。それがここに来てからは、自分でも信じられないくらいに怒りを感じるようになっていた。夜中に帝国に殴りこみに行きたくなるほどに。今は落ち着いたけれど、怒りで眠れない日が続いたし、気が高ぶり過ぎて魔力が暴走しそうになったこともある。
「お前さん、もしかして……感情を抑える魔道具でもつけられていたんじゃないかい?」
「……は?」
デルの言葉の意味が、直ぐには分からなかった。




