姉妹の再会
魔道具での移動は一瞬で、目を開けた時にはアシーレの街の入り口にいた。
「え? あ、あれ……」
初めての移転にフィンは戸惑いきょろきょろと周囲を見渡していた。ルゼは落ち着いているように見えたが眉間に皴が刻まれていてまだ不安が残っているように見えた。
「ここが俺たちが住んでいるアシーレの街だ。まだ出来てそれほど経っていない新しい街なんだ」
説明しながら街に入るとあちこちからいい匂いが漂っていた。既に夕食の時間を迎えていてアンザさんの酒場からも人の笑い声が上がっていた。
「ああ、ルーク、出かけていたのか?」
家の方に向かっていたらアンザさんが店から顔を出して声をかけられた。
「ああ、ちょっとコルナガまで行ってたんだ。アンザさん、これ、頼まれていたやつ」
「おっ! 早かったな。助かったよ!」
「こっちはマイラさんに頼まれていた調味料とか。渡しておいて」
そう言いながら背負っていた籠を渡すとすまねぇなと笑いながら受け取ってくれた。お使いはこれで全部だったはずだ。店の奥からは賑やかな声が上がっていた。
「さ、俺の家に案内するよ」
「は、はい」
フィンは街の様子が気になるのか視線をあちこちに向けていたが、声をかけると緊張した面持ちになった。リューンのことを思い出したんだろう。俺も緊張してきた。どうか本人であってほしいと願うばかりだ。
「ただいまー」
天幕を上げて中に入るとステラが夕食の準備をしているところだった。家では交代で食事の準備をしている。今日の当番はステラだったか。
「あ、ルークさんお帰りなさい。って、お客様?」
ステラがルドの後ろにいたフィンの姿を認めて声をかけてきた。
「ああ、人探し中なんだ。リューンはいる?」
「え? ええ。ガルアさんと奥に」
リューンもガルアも滅多に外に出ない。日中は時々木の実や山菜を採りに森に入るけれど、ガルアは過保護で夕方には必ず家にいる。
「そっか。リューン、いるかー! ちょっと来てくれ」
「え? リューンって……」
天幕の家は音を遮らないからちょっと大きな声で呼べば聞こえてしまう。後ろでフィンが戸惑いの声を上げた。期待が空振りで終わらなきゃいいんだけど……
「どうしました、ルークさん? ……え? ね、姉さん?」
部屋の仕切り代わりの布の間からリューンが姿を現した。
「リューン! あなたなの?!」
リューンの姿を認めたフィンがガシッとリューンの両肩を掴んだ。
「ね、姉さん、どうして……」
「リューン!! あなた、今までどうしていたのよ! どれほど心配したと思っているの?!」
「ご、ごめんなさい……」
フィンの剣幕にリューンが押されていたけれど、次の瞬間フィンの手がリューンの肩から離れた。
「何者だ? リューンに何をする?」
現れたのは水色の目に怒りを込めたガルアだった。リューン至上主義で心が果てしなく狭い元ドラゴンはリューンのことになると余裕がないし容赦もないが、ガルアの出現に慄くフィンではなかった。
「リューン、何なのこの男?! あなた、もしかしてこの男に無理やり……」
「ち、違うの姉さん!! ガルアはそう言うんじゃないわ!!」
「違うって何がよ!! どれほど心配したと思っているのよ!」
「リューンを責めるな!」
あっという間にフィンとガルアの言い合いになってしまった。こうなるだろうなぁとは思っていたけれど案の定だったな。放っておいたら話が進まないし近所迷惑だ。
「はいはい、お二人さん落ち着けって」
手を叩いて意識をこっちに向けて話しかけると、ようやく二人の動きが止まった。
「ルークさん!」
「落ち着けってフィン。ガルアも。ほら、飯の時間だ。まずは食べながら話をしよう」
さっき少しだけ食べたけれど、ガルアも腹が減ると気が短くなるし、せっかくステラが準備してくれたんだからまずは飯だ。
「済まないステラ。急に客なんか連れてきて」
「いいんですよ、ルークさん。そもそもここでの食事だってルークさんのお陰ですし、私は居候ですから」
そう言ってステラがてきぱきと食事の準備をするので俺はガルアとリューン、フィンとルゼを食事用の天幕に連れて行って、ステラの手伝いをした。幸いここは人が集まることがあるから食器なんかは足りている。でも、もう少し足した方がいいかもしれないな。
「まぁまず食事からにしよう」
ステラが出してくれたのは魔獣の肉の香草焼き、豆と根菜と魔獣肉のスープ、魚の煮物と近くの森で採れた果物だった。
「随分、豪勢なのね……」
教会での食事を思い出したのかフィンが料理の品数と量に驚いたけれど、ここでは割と一般的だと思う。コルナガは人が多い分だけ貧富の差が多いんだろうな。ここでは魔獣の肉や魚、果物なんかは交換したりお裾分けしたりしている。街の人数がまだ少ないのもあって距離が近いから互助の意識が高い。
「新しい街だからみんな協力し合っているからじゃないかな」
そういう意味では自慢の街だった。




