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冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた  作者: 灰銀猫


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フィンとの再会

「元気そうだな」

「はい。今はルゼと一緒に動けないのでここでお世話になっているんです」


 案内されたのは教会の一室だった。聞けばこの教会は年老いたシスターと行く当てのない老婦人の二人で切り盛りしているという。ここで身寄りのない孤児三人を世話しながら細々と生活していた。建物の傷み具合からも随分困窮しているらしい。異界でも帝国でも地方は似たようなものだ。


「それで、妹さん探しはどうなんだ?」


 フィンは静かに頭を横に振ると赤い髪も一緒に揺れた。そっか、まだ見つかっていないんだな。立ち入ったことかとも思ったけれど、俺も兄さんに再会出来て胸のつかえがとれただけに、フィンの力になりたかった。生死不明が一番辛いし、それに比べたら生きていてさえくれればどこで誰と暮らそうと大したことじゃない、と思う。これは俺の考えだけど。


「あ~俺も協力したいと思ってたんだ。でも、名前とか聞いてなかっただろう? 俺が住む街は田舎だけど時々は行商人も来るし、何か手掛かりになるものがあればと思ったんだ」

「え?」


 フィンがぱっと俺を見上げた。驚いているのか銀の目を大きく見開いている。


「そ、そう言えば、名前とか言っていませんでしたね」

「ああ。あの時はいつまでもネイトさんのところにいられなかったから俺も帰っちまったからな。でも、ずっと気にはなってなんだ。俺も……兄さんを探していたし」

「そう、でしたね。ふふっ、私ったら肝心なことを……」


 そう言って浮かべた笑みはどこか寂しそうで、捜索が上手くいっていないことを物語っているように思えた。いいところのお嬢さんっぽいのに冒険者にまでなったのに、手がかりもないとなると辛いよな。


「で、名前は? あと外見の特徴とか教えてくれ」

「あ、はい。名前はリューンです」

「え?」


 どこかで聞いたことがある名前なんだけど……うん、知り合いにはリューンという名前を持つ娘がいる。


「ルークさん?」

「あ、いや、続けてくれ」


 名前なんていくらでも被るよな。もし同名の他人だったら余計な期待を持たせちゃうからな。それはそれで酷だろう……


「妹は聖属性が強いんです」

「ああ、それで狙われているって言ってたよな」

「ええ、よく覚えていましたね。髪は銀色で瞳は水色です。私と違って可愛らしい感じですね」

「…………」


 えええええっ!? 何か、めっちゃ当てはまっているんだけど? もしかしてフィンの探し人って彼女だったのか? そういえばリューンもいいところのお嬢さんっぽかった、よな。


「フィン、ちょっと一緒に来てくれないか?」

「え? あ、あのルークさん? もしかして、何か心当たりが?」

「あるといえばあるけど、断定できない。期待しないで一緒に来てくれ」


 こうなったらさっさと会わせた方が早いだろう。魔石があれば時間はかからないし。


「ルゼ、武器屋には?」

「あ、ああ……これから行くが……」


 何度も往復するとまた魔石が必要だよな。これからゾンビの相手をするとなると無駄使いはしたくないし……


「だったら武器屋に行ってくれ。それが終わったらフィンも一緒にアシーレに行こう」

「あ、ああ。わかった」

「フィン、俺も街で買い物があるんだ。ここで待っていてくれるか?」

「え? ええ」

「じゃ、さっさと用事を終わらせよう」


 俺はフィンを境界に残し、ルゼと街中に戻った。ルゼの行きつけの武器屋で武器の修理を頼むと直すのに三日はかかると言われた。そこは仕方がない。職人が丁寧に作った値の張る武器を直すには時間がかかるものだ。その三日間丸腰とはいかないからと予備の武器を買い、街の人に頼まれた道具や日用品も買い集めた。荷物が多いので背負う籠も。


(そう言えば、ろくに物もなかったよな)


 教会では今日食べるものにも困っているように思えた。ちょうど屋台が出ていたから直ぐに食べられる物と麦を一袋、それに野菜なんかを籠に入るだけ買った。これなら数日はしのげるだろう。教会に戻った頃には、既に日が傾き始めていた。


「ルークさん、どうしたんですか、これ……」


 持ち帰った屋台の料理や食料にフィンが目を丸くした。シスターと老婦人、そしてここに預けられているらしい子どもたちが何事かとやって来た。


「何って……何もなさそうだったから買って来た」

「買って来たって……そんなお金……」

「ああ、これは教会への寄付だから気にすんな。ほら、料理が冷める前に食べよう」


 そう言うと子供たちがワッと声を上げた。さっきからいい匂いがしているせいか腹が鳴る音がしていたんだ。


「すみません、こんなに……」

「気にしないで下さい。ずっと支援は出来ないかもしれませんが、これで暫くは過ごせるでしょう」

「ええ、もちろんです」


 ひたすら老シスターが恐縮するのを止めてまずは食事にした。かなりの量を買ったはずだったけれど、育ち盛りの子どもたちの前ではあっという間に消えていった。この子たち、孤児なんだよな。仕事が出来るなら街に来て貰うことも可能だよな。ああ、何ならシスターたちも一緒でもいいか。あの街には教会はなかったし。でもそれも後の話だ。


「今から出かけるんですか?」


 食事が終わる頃には外は暗くなり始めていた。さすがに夜の移動を心配してかフィンが心細そうにしたが、魔道具があれば一瞬だ。


「ああ、移転の魔道具を使うからな。俺に掴まってくれ」

「え、ええ」


 どうも移転の魔道具を使うのは初めてらしい。さっきはルゼも驚いていたからな。


「フィン、大丈夫だ。俺もいる」

「ありがとルゼ」


 何だかいい雰囲気だな。あのルゼが誰かを気遣うのも珍しいし。まぁ、ずっと一緒にいたからな。


「行くぞ」


 俺は魔石に魔力を流した。




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