人間に化ける方法
「はぁ。人化の方法、ねぇ……」
それから数日経った晴れた日の午後、俺はデルと湖の畔にいた。湖畔を駆け抜ける風が気持ちいい。湖を眺めるように並んで座り、デルの横には俺が湖の底から拾ってきた碧雲石という魔石の一種を十個ほど入れた籠があった。この石を以前からデルが欲しがっていたのはリサーチ済みだ。
ライリー兄さんは生きていると信じていると侍女は言っていた。俺も死んだなんて信じたくないし、送り出した母や長兄には不信感しかない。
それに不思議なのだが、この身体になって時間が経つとともに、兄さんの事が凄く気になり出したのだ。これまでは仕方ないと思っていたし、亡くなったと聞いた時もあまり感情が動かなかったように思う。なのに今は言いようのない焦燥感が湧き上がってくるのだ。
居ても立っても居られない思いが募るばかりだった俺は、兄さんのことを調べに行こうと決心した。だから直ぐにデルに人間になる方法がないか尋ねてみたのだ。さすがにこの姿で調べるのは無理だから。彼女は魔術師だし、こっちにはそんな魔術があるかもしれないから。
ドラゴンにはなったが、幸いにも魔術は以前と同じように使えることはわかっている。まぁ、この身体では魔物除けの結界くらいしか使うことはないけど。でも、もし人間の姿になれる術があるなら……そう思ったのだ。
「う~~~む……」
いつもなら即答するデルが、今日はやけに歯切れが悪かった。真っ白になった髪と、真っ黒な目。髪色は老化で白くなっているが、昔は鮮やかな緑色だったという。彼女は風と闇の属性の持ち主だ。
帝国では魔力が少ない者の方が多くてはっきりわからなかったが、デルに髪と目の色は魔力の属性を体現しているのだと教えて貰った。火の属性が強ければ赤に、水なら青、風は緑、土は茶、金は光、銀は聖、闇は黒と言った感じだ。
メインの一次属性が髪色に、二次属性が目の色に出るらしい。力が強ければより色が濃くなり、弱ければ薄くなる。一方で稀に三次属性を持つ者もいて、そういう場合は色が交じり合うのだそうだ。個人差があるから色は千差万別だとデルは言った。
そんな俺は人間の姿の時は、髪は濃い青緑、瞳は金色だった。確かに水と風、光の属性が得意だったな、と思う。俺は三属性持ちらしく、これは異界でも珍しいらしい。
「で、どうなんだ? 人間の姿がとれる方法はないのか?」
再度訪ねると、デルは大袈裟にため息をついた。
「……ないことはないよ。ただ……」
「ただ?」
「物理的にどうなのかは、私にもわからないんだよねぇ」
デルが言うには、人が変装するための魔術はあるのだという。これは特別難しいものではないが、ドラゴンサイズを人間サイズに出来るか、そこが不安なのだという。仮に出来てもドラゴンサイズの巨人が出来るのでは意味がないとも。確かにその通りだ。
「それもやってみなきゃわかんねぇだろう?」
「まぁ、そうじゃが……」
どうせ暇なんだ。練習する時間はいくらでもある。時間をかけても出来るようになれば、人間として暮らせるかもしれない。人間だった時間が長すぎて、ここで一人過ごすのも段々寂しくなってきたのだ。まずは兄さんのことを調べるのが先だが、それを終えたら田舎でのんびり暮らすのも悪くないと思う。
後日、デルに変装の魔術を教わった俺は、早速人間の姿になるべく練習を始めた。のだけど……
(くそっ! 口で言うほど簡単じゃなかった……)
そう、姿を人間にするのはまぁ、何となかった。昔の俺の姿のままじゃマズいから、俺に似ているようで似ていない、あまり目立たない容姿をイメージした。お陰で薄い茶の髪と目の、中肉中背の二十代後半の青年の姿にはなれるようになったが……サイズがドラゴンのままで小さくならないのだ。
(デルの言った通りになったな……)
悔しいけれど、小さくするのは難しかった。ほんの僅かな時間なら可能だが、ちょっと気を抜くと大きさが戻ってしまうのだ。もしくは尻尾が出たり、身体の一部が戻ったりなんかも。これじゃとてもじゃないが外には行けない。
「まぁ、せめて一週間は小さい姿を維持出来るまでは外に出ないことじゃな」
デルにもそう言われたし、確かにその通りだと思った。わかってはいるのだけど、大抵寝ている間に元に戻っているのだ。気を抜くと尻尾や耳が出たり、一部だけ戻ったりする。これじゃ魔獣よりも怪しくて、とてもじゃないが人前に出るのは無理だ。
「う~ん……一つだけ、手がないわけじゃないんだけどね」
デルの小さな呟きを、ドラゴンの俺の耳は聞き逃さなかった。




