新人ハンターとの軋轢
街に戻った後、ハンター三人を呼んでルダーのことを話した。
「そう、か……協力してくれると」
「いや、協力してくれるかはわからない。でもルダーもあのゾンビを救いたいと思っている。だから邪魔はしないと思う」
「何だよそれ。邪魔しないって」
ガエルはよほどドラゴンが嫌いなのだろう。一々突っ掛かってくる。ルダーと会わせたらすぐに喧嘩に突入しそうでそっちの方が心配なんだけど。
「ガエル、お前さんがどうしてドラゴンをそこまで嫌うかは知らないけど、お前さんのような人間に会ったらドラゴンも人間を嫌うだろうよ」
「何だと?!」
「そのまんまだよ。敵意を向ければ相手も敵意を向けてくる。当り前だろう? あっちも人語を解するし感情があるんだからな」
「なっ!!」
顔を赤くして立ち上がろうとしたのをディオが腕をつかんで止めた。
「いい加減にしろガエル。我々は協力してもらう立場だってことを忘れるな」
「でも!」
「でもじゃない。相手はドラゴンゾンビ。どんな能力を持っているかもわからないんだぞ? 協力者は一人でも欲しいんだ。しかもドラゴンなら尚更だ。奴らの力は俺たちハンターの何人分にもなるんだ」
「だけど!! 俺たちはドラゴンハンターなんだぞ?! なのに協力なんて!!」
「俺たちはドラゴンハンターだが無暗にドラゴンを狩るわけじゃない。狩るのは人間を攻撃してくる危険だと判明された個体だけだ。それを忘れるな」
「っ」
ディオに諭されて浮かした腰を下ろしたけれど、若いと言うか脳筋なんだよなぁ。そこはドラゴンに似ているのかもしれない。俺がドラゴンになったせいか地味にイラっとする。
「なぁディオ。ハンターってこんなのが多いのか?」
「え? あ、ああ、すまない。まぁ、ハンターを目指す者は襲われたり傷つけられたりした者が多いからな。そういう意味では敵意を持つ者は少なくないな」
「だったらドラゴンとの協力は難しいだろうな。あっちも嫌われている相手と共闘なんて考えられないだろうし。ドラゴンは群れずに単独で暮らす。他と協力するって概念が薄いんだ」
これは俺がドラゴンになって感じたことだが、群れで暮らすドラゴンの話はほとんど聞かない。ガルアも基本的に人付き合いを好まない。ただリューンのために最低限の付き合いはしているだけだ。俺も人間だった頃ほど人との交流は望んでいないし。
「そう、だな。だが、今回は……」
「ディオが言いたいことはわかるつもりだ。ゾンビなんて得体の知れないもの、倒せるかもわからないんだろう?」
だんまりかぁ、図星なんだろうなぁ。本当にどうにか出来るのか? やっぱりデルやネイトさんに相談するか。
「この街を守るために協力はするけど揉め事はごめんだ。ルダーのこともだ。奴の怒りが街に向けられても困る。ガエルがその態度のままなら協力は断るぞ。俺たちだってドラゴンと揉めたくないからな」
「何だと!!」
「そういうところだよ。ドラゴンを見つけたからっていきなり攻撃するなよ。するならこの街から離れた場所でやってくれ。あいつらにとって人間はどれも同じなんだ。この先何百年も生きるドラゴンの恨みを買いたくないんだよ。この街もやっとここまで作り上げたんだからな」
これだけ釘を刺しておけば大丈夫か? 少々きつい言い方になったけど、これくらい言わなきゃ理解しなさそうなんだよな。全く、恨みや怒りに取りつかれた奴ほど面倒なものはないな。
「すまない、ルーク。ガエルのことは俺の命をかけて対応する」
「ディオさん?!」
「言葉通りだガエル。お前の境遇には同情するがそれとこれは別の話だ。お前はこの街の人たちをお前の同郷と同じ目に遭わせる気はないんだろう?」
「あっ、当り前だ!!」
「だったら大人しくしていろ。俺が許可しない限り攻撃はするなよ。破ったら俺が死ぬことになる」
「っ!」
さすがにここまで言われてはガエルも従わざるを得ないだろう。ディオの様子からしてガエルは故郷をドラゴンに襲われたんだろうけど、同じことをこの街でやられても困るんだよな。
ルダーはガルアがここにいる間は攻撃してこないだろうけど、その先はわからない。ガルアだってあと五十年ほどしか生きないだろうし、俺だって百年生きるかどうかだろう。その後は街を守れないんだよなぁ。まぁ、俺やガルアみたいなのは例外中の例外なんだろうけど。
その翌日、やっと身体が本調子になった俺はネイトさんを訪ねた。デルの住む山に直接行けないからネイトさんに同行して貰おうと思ったのもある。ネイトさんならデルの住む山に移転で行けるだろう。
「ゾンビドラゴンねぇ……聞いたことねぇな」
腕を組んでネイトさんも考え込んでしまったけれど、過去にもそういう話は聞いたことがないと言われてしまった。残念だ。ネイトさんは軍にいたこともあるっていうから期待したんだけど。
「そっか、ネイトさんでも知らないか。じゃデルは知ってると思うか?」
「デルミーラ様かぁ……」
ネイトさんは目を瞑って思案しているのか頭を回した。
「どうだろう。ゾンビは死の領域。ある意味闇属性とも言えるが……そもそも本当にゾンビ化しているのか?」
「そこは俺も見ていないから何とも。ただハンターがそういうのならそうなんだろうとしか……」
「だよなぁ……」
結局二人で考えても何も出てこないのでデルの元に向かった。行ったついでに地点登録しておかなきゃな。




