ハンターの答え
「わかった」
しばらく経ってからディオが静かにそう言った。わかってくれたか、よかった。
「師匠!!」
一方でガエルは納得出来なかったらしい。ディオに掴みかからんばかりに迫った。
「ガエル、落ち着け。教えただろう、ドラゴンの中には人語を喋って意思疎通が出来る奴もいると」
「だけど!!」
「中には人間に好意的な者もいる。彼らは時には他のドラゴンから守ってくれることもある。人間は弱い。相手を見誤るな。一頭のドラゴンを狩るのにどれだけの犠牲が必要かわかっているだろう? もっと冷静になれ」
意外にもディオはドラゴンに好意的に見えた。倒すのに多大な労力が必要だし、失敗すれば街一つ滅びかねない危険性を理解しているからだろう。俺も攻撃されたらある程度は反撃するだろう。街一つ滅ぼすのも……うん、出来るだろうなぁ、やらないけど。やりたくないけど。そうなったら……デルがいる古巣に戻って暮らすか。あそこなら人は来ないし。
「ガエル、ディオの言う通りだ。今はゾンビ討伐が先だ」
黙って話を聞いていたルゼもディオに同意した。
「ルゼ!! お前まで裏切るのか?!」
「裏切ってなどいない。ドラゴンの中にはゾンビを厭う者もいる。彼らの協力が得られれば我らハンター百人以上の戦力になる。その方が有利だと思っただけだ」
「そうだ、ガエル。ルークと言ったか、もし機会があったらそのブルードラゴンが我々に協力する気があるか聞いてみてくれないか?」
「師匠?!」
中々ガエルは納得出来ないようだったけど、ディオの言う通り味方にした方がいい。もし敵対したらそのドラゴンとゾンビ両方を相手にしなきゃならないんだぞ。ちなみに俺なら魔術も使えるからより戦力になるだろう。
「ガエル、今俺たちがしなきゃいけないのはゾンビ討伐だ、わからないか?」
「…………チッ」
舌打ちしたけれど一応ガエルは矛先を治めたらしい。俯いて地面を蹴っているけど。でも、ディオが止めてくれるなら今はそれで十分だ。まぁ、実際会ったら攻撃してくるかもしれないから警戒は必要かな。
「わかった、聞いてみる。他に協力してくれるドラゴンがいないか聞いてみるよ」
「ああ、頼んだ」
とりあえずハンターの攻撃は回避できた。後はあのルダーとかいうグリーンドラゴンだな。この様子だと接触はなさそうだし無事でいることを祈ろう。
「ルーク、まだ顔色が悪い。今日はもう休め。詳しい話はまた明日にしよう。俺は街の皆に話してくる」
「あ、ああ」
どうやら今日はここで終わってくれるらしい。まだ身体が怠いから助かった。ガルアに話を聞きたいし、あのグリーンドラゴンのことも気になるからな。
「ちゃんと休めよ。いざという時に動けないのは困る」
「わかってるよ」
そう言うとアンザさんはディオたちを連れて宿に帰っていった。とりあえず攻撃されないなら助かる。何度もあれを受けるとゾンビに対抗出来なくなるかもしれないし。
彼らが帰った後、俺とガルア、ステラが残され、リューンが出てきて定位置のガルアの膝の上に座った。
「ガルア、ゾンビドラゴンって……」
元々ドラゴンだったガルアを心配しているらしい。もう人間だからガルアがゾンビにはならないだろうけど、リューンにしてみればドラゴンに関わることは不安に繋がるらしい。
「大丈夫だリューン。心配はいらない」
「そう」
不安そうだった顔に笑みが戻った。
「で、ガルア、ドラゴンがゾンビ化するって本当か?」
リューンを抱きしめたガルアに尋ねた。この二人のいちゃつきはいつものことだから誰も気にもしない。
「わからん、我も初めて聞いた。ゾンビなど人間が作ったお伽噺ではないのか?」
ドラゴンだったガルアに作り話認定されてしまった。でもゾンビなんて自然の摂理に反している。人間よりは野生が残っているドラゴンならそう思うんだろうか。
「あの逆鱗を使っての秘術にゾンビ化出来そうなものがあるとか?」
「それはない、と思いたいな。秘術とはドラゴンの持つ力を使って願いを込めるものだ。人間の魔術とは違う、と思う」
ガルアの話ではドラゴンの秘術は逆鱗という魔力の核を触媒にして願いを叶えるもの、らしい。脳筋ガルアは深く考えたことがないらしく、身体の交換も昔そんなことをしたドラゴンがいたと噂で聞いてやってみただけだとか。よくそんな噂でやる気になったなぁと思うけど、そこはガルアだからな。
「じゃ、ゾンビ化している可能性もあるか。逆鱗に深い無念を込めれば出来るかもな」
「……ない、とは言えんな。我もドラゴンだった時にリューンを奪われて絶望したら、あるいは……」
あ~やりそうだよなぁ、出来そうな気がしてきた。怒りや恨みってのは段々増幅するんだよな。昔の先輩に恨み辛みで魔力を暴走させて建物吹っ飛ばした人がいたっけ。可能性があるってことはルゼたちに話してもよさそうだな。




