グリーンドラゴン
空から見下ろした先にいたグリーンドラゴン。返事を待ったけれど、そう言えば全身を拘束魔術で縛ってたから口を開けられないのに気づいた。どうしようか。口を自由にしたらまたブレスが飛んでくるかもしれないし……
「ブレスを放つな。それが守れるなら口の拘束を解く」
そう告げると、暫く視線を彷徨わせてから頭を縦に振った。信用してもいいだろうか? 仮にブレスが飛んできても俺自身に害はないからいいか。口の拘束を解いた。
「余計なことはするなよ。ブレスを吐いたら心臓に魔術をぶち込む」
脅しのために攻撃魔術を奴の目の前の木に放った。木が真っ二つに裂けて燃え上がったのを見て奴が目を見開いたような気がした。ドラゴンの目は白目がないからわからないんだよな。
「……貴様、何者だ?」
帰ってきたのは質問の答えじゃなかったが、話が通じるのはわかった。話してわかる相手なら有難いんだが……
「俺はルーク、見ての通りブルードラゴンだ」
「嘘をつけ。ブルードラゴンが魔術なんぞ使えるか。こんなことが出来るのは人間くらいだ」
意外にも人間が魔術を使うことは理解していた。ガルアよりは頭がよさそうだ。年の功かもしれないけど。
「人間に習ったんだよ」
俺に魔術を教えてくれた教官は人間だった。うん、嘘はついてない。
「人間にだと? 貴様それでもドラゴンか? 人間に物を習うなど恥知らずな!!」
怒号が森の木々を揺らした。う~ん、人間にあんまりいい印象なさそうだなぁ。困った、これだと街を襲いそうだ。
「恥? いきなり襲ってくる奴に言われたくないね。そういうお前は何者だ?」
「貴様のような若造に名乗る必要などないわ」
やっぱそう来るか。いきなりブレスを飛ばしてきた奴だもんな。穏便に立ち去っては……くれないか。
「言いたくないから構わねぇけど、そうなると殺すしかなくなるんだよなぁ。それでもいいのか?」
「ふん! 貴様のような若造にやられるだと? このわしが? 逆鱗を失った奴にわしが負けるはずがないだろう!」
「逆鱗?」
「貴様、逆鱗を知ら……ああ、貴様、『魂替え者』か?」
「『魂替え者』?」
「ドラゴンの秘術で身体を入れ替えられた者だ。ドラゴンと名乗るのも烏滸がましい半端者を指す」
なるほど、ドラゴンから見た俺はそんな風に見えるのか。まぁ、間違っちゃいないよな。元は人間なのは間違いないし、寿命も短くなってドラゴンの常識も知らないんだから。
「確かにその通りだな」
「ふん、認めるか」
尊大な物言いだけど、縛られて地面に転がっているから全然怖くないんだよな。
「ああ。だがメリットもある。俺は人間だった時は魔術師だった。つまりドラゴンの身体と魔術師の力両方を手に入れた。身体が丈夫になった分、人間だった時には使えなかった強力な魔術も使えるようになった」
「……」
「さっきの魔術は初歩の初歩だ」
「な……!!」
理解したらしく、身体を強張らせた後暴れ出した。でもその拘束魔法は簡単には解けない。それに半端者って言うけど、俺はこいつを今すぐ殺せるんだろうなぁ。出来れば無駄な殺生はしたくないけど。言葉が通じる相手は特に。
「で、どうする?」
「どっ、どうとは?」
うわ、滅茶苦茶動揺しているよ。でも、動けないし木が真っ二つになったのを見たらそうなるよな。そうなってくれなきゃ困るし。
「俺の質問に答えるか、このままここで死ぬか、だ」
「なっ!!」
大きく息を呑む音が聞こえた。ここまで脅せばいうことを聞くかもしれない。聞いてくれないかなぁ。どっか行ってほしいんだけど……
ため息をついたその時だった。
「うわっ!!」
後ろから大きな衝撃を受けた。幸い結界があったから無事だったけど……これって……攻撃魔術か? しかもかなり強力なやつだ。誰が? どこから狙った? 後ろからってことは湖の方か? 振り返った瞬間、次の衝撃が来た。しかも立て続けに数発?
「なっ?! 何だよ? 俺の結界を破るのか?!」
敵の姿が見えない。地上にいるのは間違いないけれど深い森が襲撃者の姿を隠していた。俺は空にいるから敵からは丸見えだ。仕方ない、湖に逃げるか。こいつはどうする? 迷った一瞬に次の攻撃が飛んできた。今度は連射か?!
「まじぃ!!」




