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冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた  作者: 灰銀猫


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兄さんと新しい目標

 全てが虚しくなったのは、今から五年前、俺が二十三歳の時だった。兄が、俺が会いたいと切実に願っていたライリー兄さんが、亡くなったのだ。




 事の経緯は今でもはっきりとはわからない。兄さんが亡くなっても葬儀に出ることも許されなかったからだ。当時はスタンピードが続いていたのが最大の理由だが、どうせ上司らが跡取りでもない次兄の葬儀に行かせる必要はないと判断したのだろう。兄さんの死因も病死と聞かされたが、俺はそんなことは信じちゃいなかった。


 実際、兄さんの世話をしてくれた侍女が屋敷を辞めて故郷に帰る際、俺の元に形見の品を渡すために来てくれた。その時に聞いた話では、兄さんは長兄の代わりに魔獣退治に向かい、そこで命を落としたという。本来なら長兄が行くべきところを母と長兄が兄さんに押し付けたため、外聞を気にして病死にしたのだと。


「兄さん……!」

「ルーカス様。ライリー様は最後までルーカス様を案じていらっしゃいました」


 兄さんの死の真相を聞いて、やっぱりという思いが蘇った。母も長兄も、俺や兄さんを軽んじていたのは間違いなかったからだ。兄さんは責任感が強い人だったから、領民のために奔走していたと聞いた。なのに……


「ライリー様のご遺体は見つかっておりません。私は、私たちは、きっとどこかで生きていらっしゃると、そう信じています」

「そっか、ありがとう」


 その言葉がただの慰めであることはわかった。他の騎士や魔術師も一緒に亡くなっているのだ。魔術も剣術も平均だった兄さんだけが生きているとは、到底思えなかったからだ。貰った形見の品は、俺に宛てた手紙の数々だった。兄さんの俺を案じる言葉が並んだそれを手に、俺は泣いた。ずっとずっと兄さんは俺のことを案じ続けてくれたのだ。

 いつか兄さんに楽をさせたいと願っていたが、それは叶わなかった。それでも、兄さんが俺に生きろと、どんなことがあっても心を腐らせるなと手紙には繰り返し書かれていた。その言葉を拠り所にして、俺は今日まで生きてこられたのだ。


 実家がどうなったのかは、俺にはわからない。侍女の話では既に没落寸前で、多額の借金があるという。俺は知らなかったが、俺の報酬は生活費を残して実家に送られていた。その金で何とかなっていたらしい。

 だがそれも、俺が追放されたから途絶えただろうし、罪人の実家ということで取り潰しにあったかもしれない。それすらももう知る術はない。領民には悪いが、母と長兄以外が領主になった方がよっぽどマシな生活が出来る気がする。あの二人は欲深くて身勝手だったから。


「うめぇ」


 デルから貰ったキクルの実を口に放り入れた。酸味が弱く甘いキクルの実は今の俺の一番のお気に入りだ。ドラゴンは雑食だが、俺はどうにも生で肉や魚を食う気にはなれず、ずっと木の実や果物なんかを食べて過ごしていた。まぁ、たまに肉が食いたくなるが、さすがにこの身体では料理をするのは難しい。

 それに、今の俺の身体はでかい。頭から尻尾の先までの長さは、人間の三、四人分はある。この身体で満足できる肉の量がどんだけ必要になるか……大型魔獣の一角ベアは人間の倍の大きさがあるけど、あれが二、三匹はいないと腹が膨れない気がする。

 それに火を通す難しさと、狩った後の始末を想像すると躊躇してしまうのだ。肉は好きだったけれど、実を言うと俺は血が苦手だったりする。自分で捌く……なんて無理なのだ。それに食べたいのは香辛料が程よく聞いた肉だ。焼いた肉なら何でもいいわけじゃない。


 人間やっていたころは、魔術師やってる間に金を溜めて引退して、兄さんに楽をさせてやりたい、なんて思っていた。忙しすぎるし命がけの仕事も多く、とにかく余裕がない毎日だった。その反動か、陽が昇ったら起きて働き、陽が沈んだら寝る、普通の生活に憧れていた。

 それが今や、人間やめてドラゴンだ。スローライフどころか、食っちゃ寝の自堕落生活三昧ときたものだ。木の実や果実は食べきれないくらいにあって食うに困らないし、やらなければならない「何か」もない。だったら……


「兄さんを、探しに行くのもありかもな……」


 ずっと行けなかった、兄さんを探しに行くこと。今は時間も有り余っているのだから問題ない筈だ。あのクソ上司らにお礼参りすることも考えたけど、それよりも兄さんの方が大事だった。そうは言っても、問題があった。


(この身体、何とかならねぇかなぁ……)


 そう、ドラゴンの姿ではどうしようもない。この身体なら帝国の結界なんぞ屁でもないが、目立ち過ぎるし人探しをするには適さない。


(まずはデルにでも聞いてみるか)


 これからの目標が見つかった。そろそろ食っちゃ寝の生活にも飽きてきたし、頃合いかもしれない。さてどうするかと、俺は今後の予定を考えながら空を見上げた。





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