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冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた  作者: 灰銀猫


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黒髪の美女

「おい、ルーク! 急に走り出してどうした?!」

「ああ、アンザさん。危険なんだよ!」

「危険って……騎士に絡まれている美人がか?」

「違う! 騎士の方だ!」

「はぁ?」


 走りながら尋ねて来たアンザさんにそう答えたが、アンザさんは腑に落ちなかったらしい。この場合、どう考えても危険なのは美人の方だと思うだろうが、もしその美人が俺の思っている相手だった場合、危険なのは騎士の方だ。それもかなり深刻度高めの……


 市場に着いたら、一角に人だかりが出来ていた。やばい、遅かっただろうか……いや、市場が破壊されていないところを見ると、まだ何も起きていない可能性もある。

 人混みをかき分けて人の輪の中心に出ると……そこには想像していた以上の後継が広がっていた。やっぱり……


 凛とした佇まいの黒髪黒目の美女は、予想通りデルミーラだった。しかも今は若い方の、本来の姿だ。腰まで届く艶やかな黒髪を隠しもせず、深灰色のローブを纏う姿は、その色合いに反して神々しく見えるのだから大したもんだ。冴え冴えとした美貌と闇属性に特化したその姿は、カラフルな住民の中では目立って仕方なかった。

 そして、その美女の足元には、四人の騎士が転がっていた。どうやら事後らしく、魔術で出来た縄でグルグル巻きにされて、立ち上がる事も出来ないらしい。這いつくばっている様に、街人は喜んでいるのが丸わかりだ。これまでの鬱憤の深さが伺われる。


「な、何がどうなって……」


 後ろではアンザさんがオロオロした声を上げていたけど……これ、どう考えてもデルに絡んだ騎士が返り討ちに遭った、んだろうなぁ……


「くそっ! 女、この拘束を解きやがれ!」

「不敬な! 貴様を逮捕してやる!」


 騎士達が這いつくばりながらも悪態だけは忘れていなかった。グルグル巻きにされて芋虫のようだが、そんな自分達の姿にも激高しているのは明らかだった。


「デル……」

「おお、ルークか! 久しいな!」


 何もなかったかのように声をかけてきたデルは、意外にも機嫌がよかった。意外だ、この状況で機嫌がいいなんて……絶対に何かしただろう。


「何が、どうなってるんだ?」


 とにかく話を聞かなきゃ進まない。大体の予想はついているけど、一応聞いてみた。


「ああ。何やらこいつらがいきなり絡んできたのじゃ」

「絡んで……」

「うむ。闇属性の者が何をしていると言ってな。知り合いを尋ねて来たと答えたのじゃが、何か悪さをするんだろう。一緒に来いとあまりにも強引でな。あんまりにも鬱陶しいから、とりあえず縛ったのじゃ」

「……」


 騎士たちの話に呆れてしまった。闇属性だから悪さをするなんて、どういう理屈なんだ? それを言ったら光属性や聖属性は犯罪など起こさないとでも言うのだろうか。でも、光属性や聖属性でも罪を犯す者はいるし、闇属性でも魔術師や騎士になって国に貢献する者も少なくないのに。


「これは魔術で作った縄じゃが、相手が暴れれば暴れるほど拘束を強めるようになっていてな。以前作ったのだが、実際に使うのは初めてじゃ。中々に便利であろう?」

「あ、ああ、まぁな」

「じゃが、どうせなら声も封じるようにした方がよかったかのう。これでは煩くてかなわん」


 どうやらデルの機嫌がよかったのは、新しい魔術を試すことが出来た満足感かららしい。彼女もネイトさん同様、研究馬鹿だからな。


「おいっ! さっさとこれを外せよ!」

「そうだ! でないと上に報告してお前を牢に放り込んでやるからな!」

「騎士を馬鹿にするなよ! 俺たちは不穏分子を取り締まる権限があるんだ!」

「お前のことだって、この場で有罪にして切って捨てても構わないんだぞ!」


 吠える犬ほど弱いとは言うけど、言っていることが破落戸のそれと変わらないのが情けない。とは言っても、彼らの言うことも尤もで、彼らが有罪と認めればその場で切り捨てても罪には問われないのだ。だから街のみんなも彼らの横暴に我慢していたのだが。


「ほう? わしを切って捨てるだと? 面白いことを言う」

「なんだとぉ!」

「『業焔の魔術師』と呼ばれたわしを切って捨てる? 是非ともやって貰いたいものだな」

「ご、業焔の、魔術師……?」

「ば、馬鹿な!」


 騎士の態度がいきなり変わったけど……『業焔の魔術師』って、何だ、その物騒な二つ名は……






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