派遣された騎士
それから半年が過ぎた。アシーナの街は宿屋が完成し、人が住む家も程々に建ち、市場が出来上がり、ギギラの街ほどではないものの、街としての体を示すほどになってきた。新しい物好きの商人が新しい街に興味を持ったのか、訪れる商人も倍増していた。
「そろそろ騎士の派遣を頼むか」
「そうだなぁ。この前も商人同士の小競り合いがあったし」
「それに、粗悪な品を法外な値で売りつけようとした輩もいたぞ」
アンザさんたち街の中心メンバーとの話し合いで、行政区から騎士の派遣を頼むことになった。騎士が駐在する用の家も建てたし、そろそろ頃合いだろう。騎士がいると言うだけで、悪さをしようという者は減るし、トラブルが起きる前に来て貰った方がいいと言うのが皆の意見だった。
行政府に騎士派遣の要請を出したところ、一月ほどして四人の騎士が派遣された。派遣されたんだけど……
「何だよ、あの騎士! 市場の屋台で金も払わなかったんだよ!」
「こっちもやられたよ。散々飲み食いして金を払わなかったんだ」
「若い娘を無理やり連れ込もうとしたんだよ!」
「ああ、俺も見た! 幸い側に居た若い衆が助けたからよかったものの」
「しかも逆らうなら逮捕するって、二言目にはそればっかり!」
どうやら派遣された騎士は質が悪かったらしい。まぁ、こんな辺境に派遣されるんだから推して図るべしってとこか。左遷扱いで飛ばされたんだろう。
そうは言っても、こっちもそんな騎士では意味がない。いや、むしろマイナスだ。いないほうがマシだとみんなが口を揃えるってどういうことだ?これなら矯正が利く破落戸の方が扱いやすいかもしれない。
「おい、飯が不味いぞ!」
「全く、世話役がばばぁとはどういうことだ?! 若い娘を寄こせ!」
「俺たちはお前らの要請で来てやったんだぞ。なのになんだよ、この待遇は」
別にギギラの街の時と変わらないし、何ならあの時よりも住む家も家具も新しくて、かなりよくなっている筈なんだか。それでもあいつらは不満しか口にしなかった。
「前よりは格段によくなっている筈です。それに、行政府からの指導通りですよ」
「はぁ?! てめぇ、誰に物言っているんだよ!」
「そうだぞ、俺たちは今すぐここを引き払ったっていいんだからな!」
どうやら話が通じない類いの人種だったらしい。アンザさんもバルクさんもお手上げだった。
「どうする、ルーク?」
「そうだなぁ……」
このまま放っても置けないけど、街の人に支障が出ているし、取り返しのつかない被害が出る前に何とかしないと不味いだろう。無銭飲食は行政府に請求すりゃあいいけど、女性への狼藉は取り返しがつかない。現に若い娘は最近、外に出なくなってしまった。
かと言って、せっかく派遣して貰ったからあまり揉めたくない、というのがアンザさんたちの考えだった。まだ新しい街だし、あいつらの狼藉を報告してもこっちが彼らを嵌めようとしている、なんて思われるのも面倒だ。それもあって、俺たちはどうすべきかを考えていたせいで、対応が遅れたのは否めなかった。
その日は、俺たちの予想よりも早くにやって来てしまった。
「アンザさん! ルーク! 大変だ!」
「どうかしたのか?」
アンザさんの宿屋の前の食堂で、騎士をどうするかの対応を相談していた俺たちの元に飛び込んできたのは、バルクさんの部下の若い大工見習だった。
「あの騎士が……! 市場で若い女性に絡んでて……!」
「若い女性だって?! 誰だ?」
まさかリューンやステラじゃないだろうな。あの二人は見目がいいから特に危険だからと、この件が片付くまでは外には出ないように言ってあったんだけど……
「それが……見たこともないすっごい美人です」
「美人だって? 誰だそりゃあ?」
「わかりませんよ。でも、騎士に怯まずにガンガン言い返しているんです。このままじゃ、あいつらに何をされるか……」
あの騎士たちに言い返せるような若い娘なんてこの街にはいなかったはずだ。ステラやリューンの可能性も考えたけど、彼女たちなら街人が知らない筈がないし……
「で。その美人とやらの特徴は?」
「それが……髪も目も真っ黒で、すっごく綺麗な顔をしていて、でも滅茶苦茶気が強いです」
ちょっと待て! 髪や目が真っ黒で、美人で、滅茶苦茶気が強いって……俺は一目散に市場に向かった。




