攫われた三人の行方
(三人とも、無事でいてくれよ!)
バルクさんやマイラさんから攫った男たちの特徴や情況を聞いた俺は、直ぐに彼女たちを追った。人減の姿じゃまどろっこしいので、街から少し離れた場所でドラゴンに戻り、空から彼女たちの姿を探した。
多分、ガルアたちも地上から彼女たちを探してくれるだろう。馬や
ロバもいるし、ガルアには魔獣除けの魔道具を持たせているから多分大丈夫のはずだ。
小一時間ほど空を旋回して三人の姿を探した。一番心配なのは単独で二人を追ったカリュンだ。子どもでは魔獣どころか普通の獣でも危険なのだ。鮮やかな緑色の髪を持つカリュンは、魔術の才はありそうだけどまだ訓練もしたことがない。こんなことなら簡単な魔術を教えておけばよかったと思うが、後の祭りだ。
(とにかく、無事でいてくれよ……)
ちょっとくらい怪我をしてもリューンが治せるけど、命を失ったらどうしようもない。カリュンは賢いけど、体力もないし身を護る術がないだけに不安が募った。
「あれは……」
木々が生い茂る森の中の一角から、か細いながらも煙が上がっているのが見えた。その咆哮に向かうと、粗末な小屋が目に入った。煙はそこから上がっている。猟師か冒険者が何かの時に泊るためのものだろうか。
そっと近くに下りて人間の姿をとった。認識障害の術を掛け、静かに小屋に近づいた。幸いにも見張りらしい人影はない。裏側に回り、小窓からそっと中を窺った。
(……何、やってんだ?)
小屋の中では四人の男が縛られて床に転がっているのが見えた。その周囲に立っているのは……
「ステラ?! リューンも?!」
思わず声が出てしまったが、慌てて口を押えた。だが、既に遅かった。しっかり俺の声は小屋の中に伝わっていた。
「ルークさん?!」
「ルークさん!」
二人は俺の声に反応してこちらを振り返ったので、俺は数歩進んで小窓よりも倍は大きい窓まで移動した。直ぐにリューンが窓を開けてくれたので、俺はそこから中に入った。
「二人共怪我は……って、大丈夫そう、だな?」
二人を頭から足先まで眺めたが、怪我をしている風はなかった。今朝別れた時の服装のままだったけど、その服にも乱れや汚れは、ない。
「大丈夫です。でも、服は汚されちゃいましたけど」
「本当に、乱暴な方達だったんですよ。もう、腹が立っちゃって思わず殴っちゃいました」
服の汚れに怒ったのはリューンで、殴った発言はステラだった。まぁ、魔術師は護身術として体術なんかは習うから、それなりに腕は立つんだけど……男たちはボコボコにされて気絶してるっぽいし、ちょっと、やり過ぎじゃぁ、ありませんか? いや、無事で何よりなんだけど。
「そう言えば、カリュンは? 一緒じゃないのか?」
「ああ、カリュンなら街に戻りました。誰か応援を連れてくるって」
「はぁ? この森の中をか? あんな子供が?」
さすがにこの森を一人で移動するのは危険だろうに。そう思った俺にステラは、男たちが持っていた魔馬で帰ったのだと言った。魔馬は馬型の魔獣で凄く早い。早いけど、乗りこなすのは凄く難しいんだけど……
「カリュンは風属性だったから、風属性の魔馬とは相性がよかったみたいで。直ぐにあの子の懐いちゃったんですよ」
「懐いてって……」
そりゃあ、魔獣にも属性があって、同じ属性だと従わせることも可能だ。でも、そんなに簡単に出来ることじゃない。
「リューンが魔馬を癒したのもよかったみたいです。それでこっち側に懐いちゃったんですよねぇ。魔馬もこの人たちに無理やり従わされていたみたいで不満だったらしくって……」
そりゃあ、魔獣にも頭のいい奴は人間と仲良くなる奴もいるけど。傷を治したら恩を感じたのもわかるけど。でも、従属させていたのならそれを反故にするのは簡単じゃないだろうに。そりゃあ、カリュンは動物と年寄りに凄く好かれるけど、それで魔獣を従わせるのは違うだろう。
「それじゃ、これが原因かもしれませんね」
そう言ってステラが示したのは、床に散らばった割れた魔石だった。あんまり質はよくなさそうで色も悪いけど、魔術の残骸を感じるからこれで魔馬を従えさせていたのか。
「なるほど、魔馬を操っていた魔石が割れたから、従属が解けたのか」
「そうみたいですね」
ステラがそう答えた。簡単に解決してよかったんだろうけど、あまりの呆気なさに肩透かしを食らったような気分だった。




