新しい街造り
それから一月が経った。あれから話があっという間に進んで、森を拓いた後には街造りが始まった。最終的には六十人が新天地での生活を選び、残りは親族などを頼って別の街へと旅立っていった。新しく街を作る事への不安が大きかったのだろう。一から作るのはそう簡単じゃないから、だったら他所へ行こうと思うのは仕方がないだろう。
新しい街は地名からアシーレと名付けた。行政側がそう呼んでいるし、同じ名の街がなかったのもある。川の名前と同じだけど、その方が覚えやすいだろうという、実に消極的な理由だった。というか、誰も名前に拘っていなかった。意外だ。
俺はガルアとリューン、ステラと一緒に暮らすことになった。家の数がまだ十分ではないため、家の替わりに小さい天幕を集めて家にした生活だ。まぁ、結界で雨風はある程度防げるし、天幕も食事用や寝室用などに分かれているので意外に快適だった。本格的な家を建てるには何か月もかかるから仕方ない。自分だけのスペースが確保出来ただけでも御の字だった。
街造りの中心は、俺とガルア、そしてギララの街でも中心的な役割を担っていたアンザさんたちだった。俺とネイトさんの魔術や魔道具が大きな役割を果たしたから俺が中心メンバーになっていた。
でも俺は、いずれは街をアンザさん達に任せて兄さんを探しに行こうと考えている。あれから帝国の結界を超える方法も調べたけど、こっちは簡単ではなさそうで、その対処法を考えなきゃいけない。今の俺はドラゴンだから、魔獣除けの結界に引っかかるのは必須だ。勿論、超える事は可能だろうけど、帝国の魔術師が押しかけてきそうだ。いや、絶対に来るだろう。俺が向こうにいた時はそうしていたんだから。
そういう訳で、兄さん探しは長期戦になりそうだった。最も、既に死んだと言われているし、一緒にいた人たちも亡くなっているらしいから、兄さんだけが生き残っている可能性は限りなく低い。だから今は、どこでどんなふうに死んだのか、それを知りたいと思うようになっていた。
「ルークさん、アンザさんがお呼びですよ」
声をかけてきたのはステラだった。彼女は実はまだ魔道具が外せず、細々とした手伝いをして暮らしていた。ネイトさんに言われた通り、光魔術を流せば耐性が弱いからすぐに壊れるだろと言われていたんだけど、既に一月以上経っているのにその兆候はなかった。
ネイトさん曰く、だったら俺がつけられた物と術式が違うんじゃないか、とのことだったけど。一応今でも魔術を送っているけど、これじゃ外せないんじゃないかと俺は思い始めていた。
「アンザさんが? わかった、行くよ」
「はい。建てている宿屋前の食堂にいるそうです」
「ああ、ありがと」
アンザさんは新しい宿屋を建てていた。ここはよそから来た商人たちも泊る予定だから、最優先で建てているのだ。商人が来なければ物の流通も起きないし、情報も入ってこない。新しいだけに定期的に商人に来て貰える環境が大事なのだ。
そしてその宿屋前には、先にアンザさんが建てた食堂兼酒場があった。どこの街でも食堂も酒場の必須だから、こっちは一足先に出来上がって営業中だ。そして、街の人の交流の場にもなっていた。
「アンザさん、どうかしたか?」
「ああ、ルーク、すまないな。ちょっと気になる話を聞いたんだ」
「気になる話?」
「ああ。ここから最も近い街、いや、村かな。そこに夜盗が現れるらしいんだ」
「夜盗……」
どこの世界でも、盗賊やら夜盗はいなくならない。帝国でもそうだったけど、人の物を奪っては売り、それで生きている者たちもいる。彼らは目を付けた街や村を襲うので、その警備も大変なのだ。
「ギギラは辺鄙だし、魔獣も多くてその手の類は滅多に出なかったんだが……」
「なるほど。そういうことなら、夜には結界を張るか」
「出来るのか?」
「ああ。人が誰も入れない結界もあるし、何なら相手から認識されない魔術もある。それらを使えば簡単には襲われないだろう」
街はまだしっかりした建物がない。俺たちのように天幕で暮らしている者が殆どだから、夜盗に襲われれば一発だ。まぁ、取られる物もないんだけど、違法だと言われようとも人身売買はなくならない。ここには女性や子供もいるからみんな不安なのだろう。
「早速今夜から結界を張る。でも、その間は誰も中に入れないぞ。時間までには必ず戻って来るようにみんなに言っておいてくれ。あと商人も」
「分かった。助かった!」
アンザさんがようやく安心したのか表情を緩めた。こうなると、街の周辺に壁とか作ってもいいのかもしれない。物理的な侵入はかなり防げるだろうし。でも、それも建てる物を建てた後になるんだろうけど。




