移住の準備
翌朝、俺はみんなを集めて移住先の提案をした。行政官から示された場所と移動にかかる時間の説明などだ。既に街がなくなってから日が経ち、一部ではここを離れる人も出ている。多くは他所に親戚や知り合いがいて、そちらを頼って移住する者だ。先が見えない現状では、早く生活の基盤を立て直したいと、伝を頼るのは当然だろう。
結局、百人ほどいたが既にここを離れた者が二十人余りで、新天地への移動を希望したのが三十人ほど、後はまだ態度を決めかねた。一生に関わることだから簡単に答えが出ないのは仕方がない。一部ではギララの街の再建を望む者もいるが、危険だからと言ってもそう望むのならどうしようもない。
「それで、移動はどうするんだ?」
そう問いかけてきたのはアンザさんだった。アンザさん一家は移住を希望していた、カリュンがいるからギララの街では暮らせないと判断したらしい。カリュンはまだ幼いし、何かあったら真っ先に命を落とす可能性がある。それに、長年濃い魔素の中で暮らす懸念がマイラさんには強かったようだ。
「う~ん、今そこを考えているところ」
さすがに大人数での移動は襲われる心配があって難しいだろう。行政官に頼めば護衛くらいは出してくれるかもしれないけど、それにしたって危険だ。俺がいれば魔獣は寄って来ないだろうけど、盗賊とかには効かないだろうし。
ネイトさんの魔道具で、例えば一一人ずつ連れて行く事も考えた。まぁ、地道にやるならこれが安全かもしれない。魔道具が何回までの使用に耐えられるかによるけど。こっちはネイトさんに相談だろう。
「それに、人数が決まったら先に土地の開拓も必要だし」
「何だ、開けた土地じゃないのか?」
「まだ何にも手つかずだよ。だからその土地の利用許可が出たんだし」
「そう、だよなぁ」
力なくアンザさんが言った。確かに木を伐り、整地して……となるとかなりの重労働だ。だが、こっちに関しては当てがある。俺が木を抜き、地をならせばいい。ある程度は魔術で出来るだろう。土属性の魔術師ほどじゃないけど、何とかなる筈だ。多分……
「ルーク、無理しておらぬか?」
話し合いの後でテントに戻った俺に声をかけたのは、意外にもガルアだった。こいつがこんな風に人を気にかけるとは意外だ。まぁ、脳筋だから根は悪くないのかもしれないけど。
「ああ。まだ無理する程のことはしていないよ」
そう、まだ無理はしていない。するのはこれからだろう。夜になったら土地の整備に行くつもりだから。さすがにドラゴンの姿で日中動くのは目だって仕方がないし。
そういう訳で、俺は翌日、ネイトさんの下に飛んだ。他にもいろいろ教えて欲しいこともあったからだ。
「複数人で移転?」
「ああ。例えば二、三人でも可能なのかなって。それに、回数制限が会ったりするのか?」
「そうだな、お前さんの腕とかに掴まってれば可能だ。あと回数は魔石に寄るな」
「魔石?」
「ああ。魔道具の基本は魔石の質と術式の精度だけど、耐久性は魔石に大きく左右される。魔石の質がよければそれだけ長持ちする。あれはそこそこの品だから、まぁ、五十回くらいは耐えるんじゃないか?」
「五十回か」
移住するのが最大八十人として、一回五人とすると十六回……うん、まぁ、十分間に合いそうだ。
「後、土地を更地に魔術とかないのかな?」
「更地?」
「ああ、俺は土属性がないから、そっちはあまり得意じゃないんだ」
「なるほどな。でも、お前さんならいい方法があるじゃねぇか」
「いい、方法?」
ネイトさんの言う『いい方法』とは、荒れた土地を一旦水没させる事だった。こうすれば空いた穴は埋まるし、それなりに更地になるだろうと。
「ちょっと無茶が過ぎないか?」
「でも、誰も住んでいない、建物も何もない今なら問題ないだろう」
「……」
本当に大丈夫か? と思ったけど、時間がなかったから試してみた。夜になってドラゴンに戻り、木を抜いてから魔術で洪水を起こすと……
(……いいのか、これで?)
ネイトさんの言う通り、それなりの更地が出来上がっていた。もう何も言うまい。




