今とこれからのこと
あの後、ネイトさんに連れられて、コルナガの街に行った。上空からでも賑わいのありそうな街だと思ったが、思った以上に人が多く賑わっていた。そこで俺はネイトさんの伝を使って、干しパンや干し肉なんかを持ちきれないほど買い、そのまま魔道具で家まで戻って、を何度か繰り返した。街の人には村が水害に遭ったと言って食料を融通してもらい、また毛布やらも買えるだけ買った。勿論魔石を売った金でだ。魔石最高。
「ありがとう、ネイトさん、これで今晩はみんなに食べさせられそうだ」
「いいって事よ。お前さんにはいいもん貰ってるしな。それに、困った時はお互い様だ」
「本当に、ありがとう」
こういう時の親切は心にしみる。思わず目の奥がツンとなった。
「それにしても、これからどうするんだ?」
「これから……」
そう言われて一気に気が重くなった。そう、頭が痛いのはこれからだ。今夜の飯にはありつけたけど、明日からどうすべきか。あの場所に閉じこもっているわけにもいかないし……ただ、それを解決するための情報も手段も伝もなかった。
「一番いいのは、水蛇竜を退治して街に戻ることなんだろうな」
「どうだろうな?」
「え?」
それが一番だと思っていたけど、ネイトさんの考えは違ったらしい。
「お前も言っていただろうが? 魔素が濃いから大丈夫かって」
「あ、ああ……」
「確かに一代でみりゃ、影響は少ない。だが、あそこで長年住み続ければ、その子孫はどうなるだろうな?」
「それって……あまりよくないと?」
「断定は出来ん。だが、水蛇竜も魔素の影響で巨大化しているんだろう?」
「ああ、多分」
「だったら、他の魔獣もそうなる可能性が高い」
「じゃぁ……」
「移住、だな。今なら何も持たないから、移動するのも容易かろう。それに水蛇竜の怖さも身に染みている。動くなら今だろうな」
急ぐ必要はないかと思っていたけれど、確かに移るなら間がチャンスかもしれない。街は破壊されて未だに水の底だから再建を考えるのも難しい。水蛇竜のこともあって、あの辺の魔獣への恐怖も大きいだろう。また戻って同じ恐怖を味わうよりも新天地で再建を、と言ったら動きやすい。
「今が、そのチャンス……」
「ああ。街に戻り始めたら難しいが、今なら可能だろう」
ネイトさんの言う通りだ。今なら水蛇竜への恐怖もあって、あの場所に戻りたいと思わないだろうが、時間が経てば里心じゃないけど馴染んだ場所に戻りたいと思うようになるだろう。
「でも、場所が……」
「場所、か……」
そう、問題は移住先だ。どこに住んでもいいとは限らない。土地の所有者もいるだろうし、街一つ分の広さも欲しい。それなりに安全で、開けていて、周辺との交流も出来て、となれば中々に難しいのではないだろうか……
「お前さんらがいるのは、レーレ川の辺りだったな」
「ああ」
「だったら、その辺の行政官に掛け合ってみるか……」
「ネイトさん、知り合いなのか?」
「あんまり会いたい相手ではないんだが……」
「そこを何とか! 頼む!」
急に口が重くなったネイトさんには申し訳ないけど、ここはどうにか頑張って欲しかった。なんせ百人近くの命と人生がかかっているのだ。
「わかってるよ。俺もそこまで薄情にはなれんからな。明日にでも話に行ってこよう」
「ありがとう、ネイトさん! 一生恩に着るよ!」
「待て待て。まだいい返事を貰ったわけじゃないんだ」
ネイトさんはそう言ったけど、この人は出来ないことを口にすることはないだろう。光明を得て、俺は彼らをどう説得するかを考え始めた。問題は彼らが納得してくれるかどうかだ。中には残りたいという人もいるかもしれない。
特にあの離れて暮らしている者たちはなおさらだ。彼らは訳ありで隠れるように暮らしていたが、ギギラの街がなくなってしまえば生活に困るだろう。
(まぁ、そこまで俺が心配してやる義理はないんだろうけど)
そう、全ての人を同じように救うなんて無理な話だ。彼らも自ら望んで今の生活を送っているのだから。




