酒盛りは苦行?
それからはデルの一声で酒宴に突入した。この組み合わせに嫌な予感がしたから、そのまま帰ろうと辞退したが甘かった。デルに「わしの酒が飲めんのか!」と飲む前から酔っ払いの常套句で足止めを食らい、今に至る。
目の前には、空になった酒瓶が十本余りと、空の皿や中途半端に中身が残ったグラス、そして大の字になって寝ているデルと、クッションに抱きつくようにして眠るネイトさんがいた。何この修羅場……いや、修羅場はあの二人が寝るまでだから、今は静かなんだけども……
(まぁったく、最悪の組み合わせ、だった……)
ネイトさんは泣き上戸で、デルは説教系の絡み酒。どっちも一緒に飲みたくないタイプだった。それが一緒になったら倍どころか二乗で事は悪化する。しかも二人の相手は俺だ。二人でやっててくれりゃあいいのに、何故か俺。お陰で二人の話を聞きながら、酒と肴まで手配せにゃならなかった。これ何の罰ゲーム……
しかも俺、ドラゴンになったせいか全く酒に酔わない。これ、マジで酔いたかったら樽で飲まなきゃダメなんじゃないだろうか。まぁ、本体は人間の四倍くらいあるから、それで考えれば、瓶の一本や二本でどうにかなるわけないんだけど。
(酔えないってのも、ちょっと寂しいかもな)
帝国では何かと鬱憤晴らしに飲みに行ったもんだ。街の酒場に繰り出して、皆でバカ騒ぎするのはいい気分転換だった。というか、あれを楽しみに仕事していたともいうか。俺はあんまり酒は強くはなかったけど、それでも馬鹿な事言って騒いでいる時間は好きだったんだよな。
(今度、強い酒、樽で買って来るか?)
気を付けないとこの前のドラゴンキラーの二の舞になり兼ねないけど、毒無効化の指輪もあるし、今度は大丈夫だろう。多分。わざわざ危険なもの口にする気はないけど。
(って、あれ? もしかして酔うのも異常状態無効化でなかったことにされるのか?)
すっかり毒のことしか頭になかったけど、そっちか! でも、そうだよなぁ、酔いも異常状態っちゃ異常状態だ。盲点だった。ネイトさんに酒に酔える様に出来ないか相談だな。
(さて、風邪ひかせるわけにもいかねぇよな)
二人に毛布を掛け、酒瓶と食器も集めてキッチンに運んだ。
翌朝目覚めた二人は、二日酔いもなく元気だった。聞けば二日酔い防止の薬を事前に呑んでいた。なるほど、デルは薬湯も作ってるけど、二日酔いの薬も自分のために作り出したんだそうだ。まぁ、何でも自分が欲しい物から作るもんだよな、うん。
「それで、ルークはもう帰るのか?」
朝食の時にデルがそう聞いてきた。まぁ、用事は済んだし、あっちを留守にするのも心配だから長居する予定もない。
「ああ。向こうも心配だしな。俺の姿したドラゴンが何するか予想つかねぇし」
これは事実で、ガルアはドラゴンの意識のままだから、あそこに人間が来ると揉める可能性がある。悪い奴じゃないんだけど、人間と付き合うのは不安が残るのだ。
「なるほど。しかし、何度もここに来るのは面倒じゃろ」
「まぁな」
「だったらネイト。アレを渡してやってくれぬか?」
「ええ。どうぞ」
そう言うとネイトさんが奥の部屋に行ってしまった。何だと思っていたら、直ぐに何かをもって戻って来た。
「ほらよ、これを持って行け」
そう言ってネイトさんが渡してくれたのは、深い緑色をした魔石の付いた指輪だった。
「これは?」
「わしが考案し、ネイトが作った移動用の魔道具じゃ」
「移動用?」
「うむ。この指輪に行きたい場所を登録すると、次からは一瞬でその場に転移出来るのじゃ」
「え? それって……」
「瞬間移動じゃな。魔術でも出来るが位置の特定が難しいのが難点じゃったが。これなら望んだ場所に飛べるのじゃ」
なるほど……これなら行きたいところに直ぐに行けて便利だ。
「帰りにここを登録しておけば、次回からは一瞬じゃ」
「すげぇな。ありがとう」
こりゃあ凄く便利だ。そのうちあの碧水の湖にも行って登録してこよう。あと、今の拠点もだな。




