最強生物・俺?
「な、何だよ、最強生物って……」
デルの口から発した言葉を、俺はすんなりとは受け入れられなかった。だってどう考えても俺の負けというか、一人損だと思っていたからだ。
「どうしたらそうなるんだ? 人間には戻れない、ドラゴンとしても生きていけないし寿命も縮む。正直メリットが……」
「メリットならあるじゃろうが?」
「どこに?」
うん、マジでどこにメリットがあるのかわからん。それに最強生物ってのもだ。そりゃあ、ドラゴンは地上で最も強い生物だけど。
「まず、ドラゴンになった。これだけで地上では最も強い生き物だ。魔獣なんか恐れて寄って来ないであろう?」
「ああ、それは、まぁ……」
「次。ドラゴンの中でも人語を解するのは別格だ」
「それも、聞いた」
うん、確かに人語を解するのとそうでないのは雲泥の差があると聞いた。人間とその辺の小動物ほどにも。
「しかもお前さんは元魔術師だ」
「ああ」
「ちなみにドラゴンの中にも魔術を使うものがいると言われているが、あれは単なる魔力の放出に過ぎない」
「え? そうなの?」
「ああ。あいつらは基本脳筋だからな。人語を介して魔力を操っても、力業だ。人間の用に魔術を扱うことは出来ない」
「そう、か」
そう言われれば、ガルアは脳筋だった。潔いほどに。それに会話の端々に出てくるけど、大抵のことはブレスで解決していたらしいし。正に力業、脳筋の所業だ。
「つまり、ドラゴンの身体と特性に、人間の魔術の知識が合致しておるのがお主だ。多少寿命が縮まっても、お主に勝てる者が存在するかのう?」
「それ、は……」
言われてみれば、確かにその通り、なんだろうか? ドラゴンでも魔術を扱うと聞いたけど、そうじゃなかったのか。デルに言わせるとあればただ魔力を放出だっていうし。そう言われると、確かに……
(俺、最強?)
何か、思いもしなかった事実が向こうからやってきた。一人損だと思っていたけど、案外悪く、ないのか?
「で、でも、この身体じゃ人間として生きていけないし」
「現に人間として暮らしておるだろうが」
「そ、そりゃ、そうだけど……でも、これは魔道具で……」
「魔道具で姿を偽って暮らしているのはお主だけではなかろう。わしもそうじゃ」
「あ、そ、そうか。って、そうじゃなくて! この身体じゃ結婚して子供作るのも出来ないだろうが」
そう、どう考えても異種間で子が出来るなんて聞いたこともない。
「なんじゃ? お主にもそんな願望があったのか?」
「そりゃ、俺だって普通の人間だし」
「既に普通から逸脱しているがな」
「俺が望んだんじゃねぇよ!」
「まぁ、そう怒るな。だが、結婚して子作りするまでは出来るだろう。子は出来ぬが」
「だーかーら。その子どもが出来ないって言ってるんだよ」
ったく。デルと話しているとああ言えばこう言うで、ちっとも話が進まない。
「でも、そんなもの、人間であっても変わらぬではないか?」
「へ?」
「人間同士でも、子が出来ぬことは多々ある。全ての夫婦が子に恵まれるわけではないじゃろう?」
「あ……」
言われてみれば、デルの言う通りだ。子が出来ない夫婦も珍しくないという。
「身体が弱くて出産叶わぬ女。高熱を出して子種を失った男。子を望んでも出来ぬ者はいくらでもいよう」
「ま、まぁ」
「だったら、何か問題でも?」
「……」
言われてみれば確かにその通りだった。そう言えば同僚にも、子が出来なくて養子になったなんて奴もいたし、確かに珍しくもない、か?
「それにお主なら、好きな姿に変えられるのだろう? 飛び切りの美男子でもより取り見取りじゃ。その気になれば世界を手にすることも出来るやもしれぬぞ?」
いや、そんな大層な未来は望んでいないんだけど。兄さんとのんびり暮らせればいいかな、って思ってたくらいだし。
(でも、最強生物、か……)
そう言われると、思ったほど悪くないし、むしろお買い得かもしれない。すっかり貧乏くじ引いたと思っていただけに、この考えは思ってもみなかった。




