あの後の二人組
ステラの魔道具のことはどうにかなりそうだ。とりあえず今回の訪問の目的は果たした事に安堵した。それに、気になっていたデルも元気だし。後はと言えば……
「そう言えばネイトさん、フィンとルゼは? あれからあの二人は来たんですか?」
そう、次に気になっていたのはフィンたちのその後だった。あれから結局戻ってこなかった二人だったけど、もう三月以上経っている。来る気があるならとっくに訪問している筈だ。
「ああ、あの二人なら、お前さんが帰った二日後には来たぞ」
「そっか。無事だったんならいいんだ」
「頼まれていた魔石も渡そうとしたんだが……」
「だが?」
「要らないと、貰う理由がないと突っ返された」
「はぁ……」
ネイトさんが言うには、こんな高価な物を貰う謂れはないと、一点張りだったという。まぁ、あの二人らしいなとは思ったけど。金貨百枚以上もする魔石を貰っても、使いようがないかもしれない。どうせならもっと小さい物をいくつか揃えた方がよかったらしい。
「そっか。でも、あいつらがそう言うなら仕方ないよ。それで、あの魔石は……」
「ネイトが要らぬというならわしが貰うぞ」
「勿論、デルミーラ様に差し上げます!」
正に忠犬だな、と思った。ネイトさんに犬の耳と尻尾が見える気がした。何があったかは知らないけれど、本気でデルに心酔しているのは間違いなかった。でもあれだ、老婆よりは今の姿の方が絵にはなるか。それでも美女と野獣、いや、美女と忠犬だろうけど。
「ああ、そう言えばお礼忘れてた。ネイトさん、はい、魔石」
「な……!」
「おお、これはこれは……」
今回持ってきたのは大小二十個ほどの魔石だ。大きさが違えば値段も用途も違うし、どう使うかはネイトさんが考えればいいだろう。俺が持っていてもあんまり役に立たないし。
「どう使うかは任せるよ。あと、ちょっと聞きたいんだけど、俺、今レーレ川の畔にいるんだ」
「レーレ川って、あの鎖国地域の端の?」
「あ、ああ。だが、あそこは魔素が濃いだろう? あんなところに人間が長い間暮らしていて大丈夫なのかと思って」
「ああ、そういうことか」
デルは何か思うところがあったらしい。
「大丈夫かどうかで言えば、大丈夫だろうよ。人間の寿命はせいぜい六、七十年ほどじゃからな。まぁ、魔素が弱い人間は魔力酔いを起こして体調不良の末に死ぬこともあるだろうが」
「魔力酔い?」
「知らぬか? あの鎖国地域は魔力酔いを起こす者たちが集まって出来た国だろうが?」
「ええっ? そうなのか?」
「何じゃ。あそこから出てきた奴が知らなんだのか」
「あ、ああ……」
そうか、帝国って魔力のない人間が多いし、そういうものだと思っていたけど、そもそも魔力がない人間が集まって出来た国なのか。ということは……
「帝国って、もしかして魔力がない人間の集団?」
「こっちの歴史ではそうなっておるな」
やっぱりそうだったのか。帝国は異界には人が住んでいないと言っていたけれど、実際は真逆だった。むしろ異界の方が人が多いし、魔力持ちも多い。
「あの鎖国の影響であの周辺は極端に魔素が濃い。じゃから魔獣も他のエリアに比べて凶暴だし動きも活発だ。そう言う意味では魔素というよりも魔獣の害が危険だろうな」
「そっか、魔獣か……」
今は俺がいるから魔獣は寄って来ないけど、ギギラの街では魔獣の被害は日常茶飯事だったという。だったら、もっと別の場所に拠点を作った方がいいのだろうか。幸いガルアもリューンも魔力が強い方だから問題ないが、先を考えると今のうちに移動した方がいいのかもしれない。まだ拠点も途上だけど、今以上に出来上がってからじゃ厳しいもんな。
「それはそうとお主。自分の身体は見つかったのか?」
「え? あ、ああ。見つかった。けど……」
「けど?」
「ドラゴンとやらの魂替えの秘術とやらで、魂が入れ替わってた」
「魂? の秘術?」
「ああ。しかも元に戻す方法はないっていうし、ドラゴンとしての寿命も人間のそれよりちょっと長いくらいに減ってるしで、俺、いいとこなしだったよ」
こうして言葉にするとまた怒りが湧いてきた。そうだよなぁ、理不尽だと思う。俺一人負けだろ、こんなの……
「なるほど。お主は本当にドラゴンになったのか」
「ああ」
「しかも人語を理解して、魔術も使える、と」
「そうなるな」
そう答えたら、デルはネイトさんと顔を見合わせてしまった。何だ?
「お主、もしかして最強生物になったのではないか?」
「はぁ?」
デルの言葉の意味が全く分からなかった。




