単一属性の美女
「ルークか?!」
「そうですよ。お久しぶりです」
目の前で盛大に驚きの表情を浮かべていたネイトさんだったけれど、俺がそうだと答えるとようやく全開の目を普通に戻した。何だろう、そんなに驚くことだろうか? そして後ろの美人に目が奪われた。年は二十代前半くらいだろうか。髪も目も黒くて、闇属性に特化している。ここまで見事な単一属性も珍しいだろう。リューンですら聖属性だけではないのだから。
「ご無沙汰しています、ネイトさん。今日はお聞きしたい事があって伺ったのですが……もしかして、お邪魔でしたか?」
さすがに美人と一緒だと邪魔するのも申し訳ない。こっちは急ぎというほどの用でもないし。そう思ったのだけど……
「何じゃ、ルーク。随分と殊勝な態度じゃな」
「……は?」
いきなり美人に名を呼ばれて驚いた。こんな単一属性の美人、しかも珍しい闇なんて、一度見たら忘れないと思うんだけど……記憶をめくるが全く思い出せなかった。
「なんじゃ、もう忘れてしもうたのか。存外薄情な奴だったのだな」
「ええっ?」
いや、全くの初対面ですけど。そう言いたかったけど、何だろう。何かが引っかかる。この物言いって……
「まだ気づかないとは、随分と呑気な奴だったのじゃな。なぁ、ネイト」
「いえいえ。老女姿しか見たことがなければ気付きませんよ、デルミーラ様」
「デ、デルミーラぁ?!!」
ちょっと待て。この美人があのデルだと? デルばあちゃんが目の前の美人だって言うのか?
「……そ、その姿も、ネイトさんの魔道具で?」
「あ、ああ」
(すげぇ……)
悪いけど、ここまで別人に出来てしまうのかと驚きしかなかった。いや、そういう俺は種族すらも偽ってるからそれ以上なんだけども。それにしたって……
「デル、若い頃は美人だったんだな……」
「失礼な! 今の姿が本来の姿じゃ!」
「はぁああああ?!!」
これが本当のデルの姿? こんな美人だったのか? いや、年の割には元気だなぁとは思ってたけど。
「全く、恩人に何ということを言うのじゃ。見下げた奴め」
「いやいや、どう考えたって分かんないでしょ、普通は。大体、あの白髪だって昔は緑色だったって言ってたじゃないか」
「ああ、あれはカモフラージュじゃ」
「カモフラージュって、何でだよ?」
「そりゃあ、こんなに見事な闇属性だからな。狙われることもある故、あの姿で隠しているのじゃ」
堂々と、胸を張ってそう言われてしまった。まぁ、確かにその通りだとは思うけど……
「まぁ、玄関で立ち話も何じゃからな。まずは上がれ」
「あ、ああ……」
上がれって、ここはネイトさんの家なんだけど。そうは思ったけれど、触らぬ神ならぬデルに祟りなしだ。俺は促させるまま玄関のドアをくぐった。
「へぇ、帝国の魔道具のぅ」
ネイトさん家の居間に案内された俺は、用件は何だと急かすデルに言われて用件を話し、割れた魔道具を出した。それをデルが物珍しそうに、その隣ではネイトさんがその片割れを手に繁々と眺めていた。
「こりゃあ、中々に凝った造りだな」
「そうなのか」
そうなると、外すのは簡単じゃないかもしれない。ネイトさんならと思ったけど、魔道具は専門的な知識もいるし、その効果はかなり強力だ。そして強力になればなるほど尚更解除も難しいのが常だ。
「じゃ、解除は……」
「ああ。こりゃあ簡単だな」
「簡単?!」
「ああ。ここに魔法陣が書かれているだろう?」
そう言ってネイトさんは割れた魔道具の裏側を見せてくれた。確かにそこにはうっすらと魔法陣が書かれていた。
「魔法陣が酷く雑だ。帝国じゃ魔道具はあんまり進歩していないのか?」
「帝国で……」
どうだろうか。魔道具はあったけど、専門外だからあまり気にしていなかった。でも……
(まてよ。ステラは指輪を浄化したと言っていたよな)
思い出したのはステラの話だった。俺も気づかなかったあれに気付いて、しかも浄化という名の無効化をしてしまったのだ。だったら、案外造りは雑だったのかもしれない。
「どうだろう。専門外だから何とも言えないけど、最近帝国から追放された奴を保護したんだが、そいつは指輪の魔道具を無効化したと言っていたな」
「無効化?」
「ああ。光属性が強い奴で、嫌な感じがしたから浄化したと」
「……なるほどな。だったら、これも同じだろうな。確かに効果はあるけど、耐性と言うか強度がない」
なるほど。そうなれば外すのはそんなに難しくはないのかもしれない。
「光属性は結界を張ったりも出来るが、一方で拘束するものを解除する事も出来る。そう言う意味では、光属性を流し込めば割れるんじゃないかな」
「そうか。ありがとう、ネイトさん」
これでステラの魔道具が外せるかもしれない。俺の第二属性も光だし、何とかなりそうな気がした。




