黒杉の森、再び
それからステラは俺たちの家で同居することになった。まぁ、部屋は余っているし問題ないだろう。リューンは年の近い同性の友達が出来たと大喜びだし。ガルアがそれを寂しそうな目で見ていたのは笑えたけど、まぁ、たまには嫌な思いもしろと思った。
「何をしているのだ?」
俺が首に付けていた魔道具を見ていたらガルアに声をかけられた。リューンはステラと女子トーク中で相手にして貰えなかったらしい。いつもいちゃついていたから、たまにはいいだろう。
「ああ。ステラのを外すのに、何か手掛かりはないかと思って」
「手がかりか……」
正直、魔道具に関しては素人と変わらないから、どうすりゃいいのかさっぱりだ。となれば……
(専門家がいるにはいるけど、どうしたものか……)
魔道具と言えばネイトさんという専門家がいる。彼なら解除出来るだろうか。いや、解除出来なくても手がかりが見つかるだけでもありがたいのだけど。
(う~ん、ここからだと飛んで三日くらいか?)
ギギラの街で手に入れた地図を眺めながら、黒杉の森までの距離を測った。ドラゴンになれば三日で着くだろう。まずはこの魔道具を見せて、ステラを連れていく必要があったらまた行けばいいか。確証もないのにステラを連れて移動するのは難しい。まだ病み上がりだろうし。
「ガルア、ちょっと出かけてくるわ」
「は? どこへ?」
「黒杉の森だ。往復六日か七日かな。それくらいなら三人でも大丈夫だろう?」
「は? 六日か七日って、ちょっとの距離じゃないだろうが」
「細かいことは気にするなって。人を寄せ付けない結界も張っておくから、外に出なけりゃ大丈夫だろう」
うん、行くなら早いに越したことはないだろう。ステラもまだ病み上がりだけど、リューンがいれば問題ないし。となればネイトさんへの土産に魔石が必要か。俺は魔石拾いにレーレ川に潜った。
(これだけあれば足りるか)
大小合わせて二十個ほどの魔石を拾った。水属性ばかりに偏って申し訳ないが、こっちが水属性だからしょうがない。余るなら売って金に換えることも出来るだろう。
ついでにガルアたちの食料になる魚も獲った。日持ちしないけど干せば日持ちするだろう。
その日の晩、夕食時に俺は三人に暫く留守にすると伝えた。ステラの魔道具を外す方法を調べたいからと言うとステラは申し訳なさそうだったが、ここにいれば他の魔術師が追放されてくるかもしれないと言うと、確かにそうだと賛同してくれた。ガルアは不安がったが、結界で外と遮断すれば大丈夫だろう。
翌朝早く、俺は家を出た。ステラにはまだ俺がドラゴンだとは言っていないので、出立時は人間の姿だった。ギギラの街に寄って、そこから森の中でドラゴンになって移動すればいいだろう。幸い、半分は川を使って移動出来そうだし。
久しぶりの外は魔素が弱くて不思議な感覚だった。それだけあの場所の魔素が濃いのだろうが、身体に影響がないのだろうかとふと気になった。今までそんなことを考えた事がなかったからだ。これから先、ずっとあそこに住んでいて大丈夫なのだろうか。
それもネイトさんに聞けば何かわかるだろうか。そう言えばデルのところにも顔を出していないし、どうしているだろうか。デルは定期的にネイトと連絡をとっていると言っていたから、何かわかるかもしれない。
気が付けば丸二日移動しっぱなしで、三日目の朝には黒杉の森に着いてしまった。今回は襲撃されることもなかったし、順調と言えるだろう。前回がイレギュラーだったのだ、多分。
「ネイトさーん! いらっしゃいますか―! ルークでーす!」
玄関で大きな声で呼びかけたら、家の奥で大きな物音がした。どうやら在宅らしい。いなかったらどうしようかと思っていたから、ほっとした。
「ル、ルークか!」
盛大にドアが開くと、驚きの表情全開のネイトさんと、その後ろに黒髪の物凄い美人がいた。




