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冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた  作者: 灰銀猫


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目覚めた娘

 保護した娘が目を覚ましたの、三日目の昼過ぎだった。俺は畑仕事中で、昼食の片付けと夕食の準備をしていたリューンが気付いて知らせてくれた。


「目ぇ覚ましたか」

「あの、助けて下さって、ありがとうございました」


 随分眠っていたからよほど具合が悪いのかと心配していたが、思った以上に元気な様子で、受け答えもしっかりしていた。娘はステラ=モーズレイと言って、帝国の魔術師だったという。年は十九歳で上級魔術師だと言った。ストレートで上級魔術師になったというのだからかなり優秀だ。


「やっぱりな。それで、何で追放されたんだ?」

「ええっ? 何でわかったんですか、私が追放されたの。もしかして、異界でもそういう文書が出回るとかですか?」

「文書があるかどうかは知らないけど、その首のやつ、帝国の魔封じだろ?」

「え? よくご存じですね」

「ああ、俺も付けられたことがあったからな」

「じゃ……もしかしてあなたも……」

「ああ。俺も追放者だ」


 予想通り彼女も追放者だった。聞けば反抗的な態度が上官に煙たがられ、先日、結界に穴が開いていた責任を押し付けられて追放されたという。


「反抗的って、何したんだ?」

「何もしていませんよ。ただ、上官の命令が理不尽だから納得出来ないと何度か言ったんです。多分それで反抗的だと思われたんでしょうね」

「それって……」


 もしかして、魔術師に付けられていた意志をコントロールする魔道具が利かなかったとか?


「でも、皆変だったんですよ。魔術師になったばかりの頃は文句言ってた人も、段々従順になっちゃって。それもおかしいと言ったら、大人になったからだとか言われたけど、だからって死ぬのがわかっている作戦に乗るなんておかしいじゃないですか」


 ステラの言っている事には心当たりがあった。あり過ぎた。


「お前さん、魔道具が利かなかったのか?」

「魔道具?」

「ああ。魔術師になった時、配給された指輪があっただろう?」

「ああ、アレですか。なんか気持ち悪かったんで浄化しました。何か呪いがかかっているみたいに感じたから」


 うわ、マジかよ。魔術になりたてでアレを無効化しちゃったのか。さすが光属性に特化しているだけある。そう言えば、瞳は茶色だから土属性か。土属性って、確か畑の土壌改良が出来たよな……


「それ、多分だけど、意志をコントロールする魔道具だったんだよ」

「意志を? それじゃ……」

「皆が変わったのはそのせい。そして俺もその一人だったんだ」


 今になれば俺もあの環境がおかしかったのだとわかる。確かに最初はどうしてこんな仕事を……とおもったものだ。いつの間にかそれが当然、そういうものだと思うようになっていたけど。


「じゃ、アレってやっぱり呪いの指輪だったんですね。仲間のも浄化しておけばよかった」


 そう言ってため息をついたステラだったが、それをやったら彼らも追放処分だっただろう。その前に別の指輪に交換されていただろうけど。


「で、反抗的だったから追放に?」

「多分そうなんでしょうね。結界に穴が開いたのはお前のせいだっていわれて。でも、そこは私の管轄外だったので、それはおかしいって言ったんです。でも、その後の記憶がなくて……気が付いた時にはレーレ川の関所にいました」

「関所に?」

「それで、川を渡っていたら魔獣に襲われそうになって。渡り切る直前で橋の板がなくなって、川に落ちちゃったんですよ。あの時はさすがに死んだかと思いました。助けて下さってありがとうございました」


 そう言って深々と頭を下げられてしまった。光属性ってのは呪いなんかに敏感だとは聞いたけれど、さすがというか何というか……


「それで、お前さん。これからどうするつもりだ?」

「どうもこうも、急に追い出されたので何も考えてなくって。でも、異界には興味があったので、あちこち旅してまわるのもいいかもしれませんね」


 そう言ってにっこり笑った顔は幼く見えて可愛かった。それにしても、異界を旅してまわろうと考えるなんて、中々豪胆な性格なのかもしれない。帝国では異界は魔獣の住む危険な世界だと言われていたから。


「それもいいが、その前にその首の魔道具だな。それを外せないと魔術も使えないんだろう?」

「あ、そうなんです。だから魔獣に襲われた時も思うように逃げられなかったんですよね」


 聖属性でも自力で外すことは難しいらしい。俺の場合はイレギュラーだから参考にはならないし、どうしたものか……


「とりあえず、それが外れるまでゆっくり休め」

「いいんですか?」

「別に構わねぇよ。同居人はちょっと癖があるけど、根は悪くないと思うし」


 リューンは問題ないが、ガルアに関してはいい奴だとはまだ言えない自分がいた、身体を奪われた恨みは簡単には晴れないのだ。




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