俺だけ貧乏くじ?
プチ痴話喧嘩の後、ガルアがやっと事情を話してくれた。話してくれたんだが、それは俺にとっては想定外の更に外の内容だった。
「魂替えの秘術、というのがドラゴン族には伝わっている」
「魂替え? それって……」
名前だけでどんなものか予想がついて、とっても嫌な予感がした……
「ドラゴン族には一生に一度だけ秘術を使うことが出来る。魂替えはその中の一つだ」
「はぁ……」
ドラゴン族ってあったのか、とそこから驚きだ。ドラゴンも様々だけど、知性があるドラゴンは魔獣レベルの奴らとは全く別物だとガルアは言った。例えば人間とねずみくらいに違うのだと。そう言われれば納得だった、納得だけど……
「その秘術って、もしかして身体を交換するってのか?」
「魂を入れ替える秘術だ」
それのどこが違うんだ? そう思ったがそれを言いだしたら話が進まない気がしたので黙っておくことにした。突っ込みは後でも出来るだろう。
「それで俺とあんたは身体が入れ替わったと。そういうことでいいんだな?」
「魂だ」
そこは譲る気はないらしい。どっちでも変わらないと思うんだけど。
「あんたは、人間になりたかったのか?」
「我はリューンに出会って、生まれて初めて誰かを恋しいと思うた。リューンと生きていきたいと心の底から思った。だがドラゴンの身体ではそれは叶わぬ。だから願ったのだ。リューンと同じ身体が欲しいと」
二人は遠い街で出会い、駆け落ちしてきたという。レーレ川まで辿り着いたところで、川岸に倒れていた俺を見つけたと言った。あ~、そういうことね。うん。
「それで、その秘術を使ったと」
「そういうことだ」
まさかの異種間恋愛に巻き込まれていたとは……頭が痛いけれど、どうするべきなんだよ、これ。ここで元に戻せって言ったら、俺が悪者みたいだ……
それに、人間の俺には彼女が出来たことなかったのに、ドラゴンのこいつには人間の恋人が出来て、しかも傷だらけの俺の身体でもいいって言ってくれるなんて……世の中、不公平すぎやしないか……?
(なんかもう、頭が痛くなってきた……帰りたい……)
うん、帰りたいな。ちょっと湖の底で人生について考えてみたい。
「それで。どうするんだよ」
「どうもこうもない。我はこの身体でリューンと生きていきたいのだ。頼む、ルークとやら。この身体を譲ってくれ! 人間の脆弱な身体でも今の我には必要なのだ!」
これ、お願いしているのにさりげなく落とされてる気がするのは何でだ? 大体脆弱ってなんだよ、脆弱って。人間なんだから仕方ないだろうが。ドラゴンを基準に考えないで欲しい。
「そうは言うけど、俺だって人間でいたいんだけど? こっちはドラゴンになりたいと思った事ないし」
「狭量なことを言わないでくれ」
「きょ……」
なんなんだ?これって俺が悪いのかよ? そうは思ったけど、ガルアは真剣だった。いきなり床に下りたと思ったら土下座された。土下座を知っていたことにも驚きだ。いや、今はそうじゃなくて……
「それに……」
「それに? なんだよ?」
「もう手遅れなのだ」
「は?」
「ドラゴンの秘術は絶対だ。残念ながら元に戻る方法はない」
「はぁあ?」
凄く申し訳なさそうに言ってるけど、内容が全くそうじゃなかった。これ、一度やったら元に戻せないってタイプの魔術なのか? いや、秘術ってそういうのが多いけど……
「この秘術は我の生命力が触媒だ。この術を使ったせいで我の寿命は人間と同じくらいにまで縮まってしまった」
「生命力って……じゃ、俺の寿命はどうなっているんだよ?」
「ああ、そちの寿命はドラゴンとしては短命になったな。だが案ずるな。人間としては十分長寿だからな」
「全然安心出来ねぇんだけど?」
これって、もしかして俺一人貧乏くじじゃないか? 許可もなくドラゴンにされているし、かといってドラゴンとして生きていく自信はない。しかもドラゴンとしての寿命は人間としてはちょっと長いくらいって……
「……俺には何のメリットもないんだけど……」
「そう嘆くな。人間で居たいというが、今だって十分に人の姿ではないか。それでいてドラゴンにもなれて、身体はドラゴン並みに丈夫で魔力もある。魔獣にも負けぬし、向かうところ敵なしじゃぞ」
そう言われたけれど、納得出来る話ではなかった。なかったけど、今更元には戻せないという。あまりにも理不尽すぎて怒りも湧いてこない。ここは怒るところ……だよな?




