ドラゴンは危険がいっぱい
(うう、頭痛ぇ……)
ガンガン痛む頭に目が覚めた。経験した事のない痛みに吐き気までしている。何でこうなっているのかよくわからないが、余りの痛さに目が覚めたことを恨めしく思った。
「目が覚めたか?!」
「うぐっ!」
痛む頭を抱えながらものそりと身体を興すと、直ぐ近くから大きな声が聞こえて、思わず変な悲鳴が出た。そんな大きな声を出さないで欲しい……いや、マジで。そして自分の声でダメージを食らう自分がいた。どうなっているんだよ、おい……
「おい、ルーク! 大丈夫か?!」
「……じゃ、ない……」
「ああ?!」
「大丈夫じゃ、ないです、から、声、小さくして……」
そう言うのが精一杯だった。頭にガンガン声が響いて、頭蓋骨の内側から叩かれている感じだ。
「あ、ああ……すまん……」
どうやらわかってくれたらしいことに安堵した。ここにきてようやく、声をかけたのがネイトさんだと気付いた。そう言えば……ネイトさんと酒盛りしていたんだっけ……
(あれ、それから、どうしたっけ?)
その疑問はネイトさんが答えてくれた。俺はあの時、マダ酒を飲んで意識を失ったらしい。というのも……
「すまなかった。マダ酒は別名ドラゴンキラーと言われていたんだ」
土下座の勢いで謝るネイトさんだったが、俺はドラゴンに禁忌と言われているマダの実で作った酒を飲んだせいでこうなっていた。ドラゴンキラーって、今の俺はドラゴンだから飲んだら死ぬ代物だったのだ。アレを飲んだ直後、俺は血を吐いてぶっ倒れたらしい。それから今までの十日間、意識がなかったとネイトさんが言った
(危っぶねぇ……また死にかけていたのかよ……)
動けるようになったらドラゴンが食べたらダメなものを調べないと。それも最優先で。こんなことで死んだら浮かばれない。
「幸いというか、あの後フィンって娘が訪ねてきて。お前が倒れたと聞いたら治癒魔法をかけてくれたんだ。それがなかったら、死んでいたかもしれん……」
「フィンが。そうか」
それは相当に幸運だったと言えるだろう。聖属性持ちは珍しいし、その中でも治癒魔法が使えるのは更に少ないのだ。そりゃあ、魔術師になれば大半の者は治癒魔法を使えるようになるけど、属性持ちに比べたらその効果は比にもならない。
(元気になったら、礼をしなきゃならないな)
命の恩人だし、彼女が望んでいた魔道具作りくらいは叶えてやりたい。そもそも元凶はネイトさんだし、彼にとってもフィンは恩人だ。そうなればネイトさんだって否やとは言わないだろう。
そのフィンは毎日ここに治癒魔法を掛けに通っているらしい。初対面の相手に律儀な奴だ。いや、魔道具のことで必死なのかもしれないけど。
「ルークさん、意識が戻ったんですね!」
それから半日後、フィンがルゼと共に現れた。相変わらず声が頭に響くので、音量を下げて貰った。それでも目覚めた時よりは随分マシだ。
「ああ。ありがとな。毎日治癒魔法を掛けてくれたんだって」
「ええ。私、冒険者としては殆ど役に立たないけれど、治癒魔法だけは人よりは出来るので。誰かのお役に立てるの、これくらいですし」
そういってフィンが力なく笑った。確かに若い娘が冒険者をするのは難しいだろう。男ですら誰でも出来ることじゃない。それにフィンは背も小さいし、腕なんかみると骨が細い。鍛えても筋肉がつくタイプじゃなさそうだ。
「どうでしょう?」
その日もいつも通りに治癒魔法をかけて貰った。人に治癒魔法をかけて貰うのは久しぶりだ。魔術師やっていた時は、自分で掛ける方が多かったから。その前に、後衛の魔術師が傷を負うことは滅多になかったけど。
「ああ。すげぇな。凄く楽になったよ」
お世辞ではなく、本当に身体が楽になるのを感じた。聖属性のない俺がかける治癒魔法と聖属性持ちのそれでは、想像以上に大きな差があった。属性の相性もあるんだろうけど、これはフィンの聖属性が強いからだろう。確かに瞳は混じりなしの銀色だ。これが属性の違いってやつか。これを十日連続でやって貰って今の状態って、俺って実は相当やばかったんだろう。
(ドラゴンキラー、マジでその通りだったな)
そう言えば、彼らに俺がドラゴンだってことは気付かれなかったんだろうか。そんな疑問が浮かんだけど、直ぐに消えた。もしドラゴンだって知れたらこんなに好意的な態度はとられないだろうから。




