魔道具が完成
「出来たぞ!」
そう言って怖い顔に満面の笑みを浮かべてネイトさんが部屋の外に出てきたのは、丸一日と半日が経った頃だった。既に夜中を過ぎ、フィンとルゼは宿屋に戻っていった。俺も庭の木の上で寝ていたところだった。大きな声に目が覚めて木から降りると、そこにネイトさんがやって来た。
「出来たぞ、ルーク! これまでに作った中でも最高の出来だ!」
「そ、そうですか」
「ああ、こんなに気持ちのいい道具が作れたのは久しぶりだ。礼を言うぞ!」
まるで子供のようなはしゃぎようで、デルが言っていた魔道具狂いの意味が分かった気がした。この人、集中すると寝食も忘れて没頭するタイプだ。昨日から食事の差し入れをしたり、寝るように声をかけたりと世話を焼いたけど、全く反応がなかった。この集中力は凄いと思うけど、集中し過ぎた末に過労死しそうで心配だ。
「さぁ、早速試してみるぞ!」
そう言って家の中に連れていかれ、案内された先はこの前話を聞いた居間だった。早速ペンダントに加工した魔石を見せてくれた。大きめの魔石は金属で覆われ、小さめの魔石もくっ付いている。魔石には小さくて精巧な魔法陣が幾つも描かれていた。
「じゃ、説明するぞ。まずはこの魔法陣だが……」
やたら上機嫌のネイトは、俺をソファに座らせると魔道具の説明を始めた。物凄く楽しそうで、根っから魔道具が好きなのが伝わってきた。
この魔道具には俺が人間の姿を維持出来る魔法陣が描かれているという。一つは人型にするもので、もう一つはサイズを固定するもの。今回メインになっているのは後者だという。俺が魔力を流せばそれが切れるまで持続可能らしい。期間は一般的な魔術師だと一週間から十日程度で、魔力が減って来ると色がなくなっていくという。解除したい場合は、魔石の横にあるボタンを押せば解除されるらしい。それなら一々外さなくて済むからありがたい。
「色が薄くなったら魔力を流してやってくれ」
「こ、こうか?」
「ああ。って……! お前! どんだけ魔力あるんだよ!」
加減がわからなかったので軽く魔力を流したら、あっという間に魔石が濃い青緑色になって、それを見たネイトに驚かれてしまった。えーっと、あれ?
「軽く流しただけ、だけど……」
「軽く? これでかよ! くそっ、それならもっと手をかければよかった!」
他にもやってみたい事があったらしい。それでも魔力が足りないと意味がないからと止めたんだそうだ。そうか、俺の魔力ってそんなに強いのか……そう言えば帝国でも魔力量はかなり上だったっけ。
「これなら魔力切れの心配はないな。半月、いや、月に一回でもいいかもしれんが……そのかわり忘れるなよ?」
「あ、ああ」
「じゃ、早速効果を試してみるか」
俺にネックレスをかけたネイトさんは、キッチンに行って何やらごそごそしていた。暫くして戻ってきた彼の手には、大きなトレイに大量の料理が乗っていた。直ぐに食べられる保存食と、先日の一角ベアの残りの肉だ。肉を目の前の鉄板の上に乗せて、それについているボタンを押した。聞けば肉を焼くための魔道具で、これで焼くと美味いのだという。
「さぁ、食え! そして飲め!」
そうして近くの棚から出してきたのは瓶に入った液体だった。
「これは?」
「ああ、酒だよ酒! この辺で一番強いマダ酒だ。効果を試すにはうってつけだな」
「効果? これで?」
渡されたコップに並々注がれた液体は、薄い琥珀色をしていた。この辺で一番強い酒って……効果を調べるのに、何で酒?
「お前の魔術は無意識の時に解除されるんだろ? だったら酔っぱらった時が一番危ないだろうが」
「あ、あ~」
そういうことか。なるほど。確かに酔っぱらえば術のことなど頭から抜けて知らない間に解除してしまうかもしれない。そういえば俺、酒はコップ一杯が限界だったんだよな。そういう意味でも確かに一理あった。
「俺も久しぶりに誰かと飲むのは久しぶりなんだ。付き合えよ」
すげぇ楽しそうにそう言われてしまえば、断ることも出来なかった。俺もこうして誰かと酒を飲むなんて久しぶりだし、心配事が一つ減って気が楽になったのもある。俺はコップに注がれたそれを一気に呷った。喉を熱い液体が通ったような感触が走る。この時俺は気が付かなかった。この一杯がちょっとした地獄の始まりだと。




